第67話 町議は踊る されどギルマス

「決めた。あんたの作る会社にわたしも転職してあげるよ」


 やられたっ!!

 またしてもマリーの罠にみすみすハマっちまったぁ。

 だってこれは断れねー。

 もし断ったら不幸な美少女リストも手に入らない。

 この嫌らしい笑顔はそう語っている。そう脅してきている。

 

 クソ、喰うしかないのかこの毒まんじゅうを。

 ダボンヌ工場の美魔女の思惑通りにババを引かなきゃならんのか・・・

 はぁ~、しゃーない。腹を括ろう。

 アリスはだらしない性格をしてるが、身体つきもだらしない。

 胸も尻も太モモもけしからんほどムチムチっとしてて俺好みだ。

 そういう意味でこの毒を皿まで喰ってやんよ。

 それに、お腹の肉もだらしない感じだしな。バランスボールの会社に入れれば、

結果にコミットさせられるかもしれん。本当に痩せれば良い宣伝になる。


「・・・もちろん大歓迎だよ、アリス」

「待遇アップでお世話になりまーす」ニヤニヤ

「ただし一つだけ条件がある」

「何かな」

「その制服を着用すること」

「へ?」

「制服で通勤と勤務をしてもらいます」

「・・・何でかな」

「女子社員には制服着用を義務付ける予定です」

「イクゾー少年にはそんな趣味があったのか」ジト

「否定はしません」

「転職してもセクハラされるなんて不幸な少女たちも大変だね」

 セクハラちゃうわ!

 制服は会社で支給するから女子社員も喜ぶウィンウィンの妙案だろ。


「不幸な社員リストはいつできる?」

「明日の午前中にはできるからまたこの店で落ち合おうよ」

 また特上ステーキ熱盛をタダ喰いするつもりか。別にいいけど。

「でも、そんなに早くできるもんなの?」

「みんな会社の寮に住んでるからね」

 なるほど。それなら調査もはかどるな。

「名前だけじゃなくて、年齢や出身地、状況など可能な限り詳しくお願いね」

「分かって分かってる」

 ほんとかなぁ。ま、こいつに任せるしかないわ。

「じゃあ明日またこの時間で」

「ごちそうさま~」ニパッ

 今後どれだけご馳走様されるのかを思うと頭が痛くなるわ。

 会計を済まし明日の予約を入れて店を出ると、アリスは工場へ仕事に戻って行った。俺は今回も同じ店で高い肉を喰っていたローラと合流し、ピーナとの待ち合わせ場所へとスチームカーを走らせた。



「首尾はどうだ?」

 ピーナのバイクが駐車されていた中央公園沿いの道路わきに車を止めて、ヘルメットとゴーグルを付けたままの女忍者に近づき、まず結果を聞いた。

「主犯の男はもう見つけた」

「さすがピーナだな」

 日曜と今日の二日だけでもう探し出したのか。この許嫁もチート過ぎる。

「当然だ。身辺調査を進めてから接触する」

「了解。でも今夜はレイラちゃんの三等冒険師昇格パーティをやるから、早めに帰ってきてくれよ」

「言われずとも分かっている」

「くれぐれも気を付けてな。もうお前だけの身体じゃないんだぞ」

 白いシャツに薄紫のロングスカートというカジュアルな装いが新鮮な女忍者の尻を優しく揉みながら愛情を示した。

「ご、誤解を招く言い回しはよせェ。私はァァまだ孕んでなどォおらンーッ」

 ふふふ、随分と感じやすくなったもんだ。散々俺が弄ったからな。フヒヒ

「俺のものでもあると言ったのだ。分かっているくせに」

 むむ、手を振り払われてしまった。都会のど真ん中では人目があり過ぎたか。

「フン、それもお前が私のわざわいで不幸になるまでの間のことだ」

 それがならないんだなぁ。禍を呼ぶってのはお前の勝手な思い込みなのだよ。

「エマは今週中に懐妊する。来週はついにお前にも種付けするからな」ニヤリ

「そうそうお前の予想通りにはならん」

 それがなっちゃうんだなぁ。オギノ式は嘘を吐かんのだよ。

 しかし、今日は朝からまだ一発も抜いてないからムラムラがヤバイな。

 レイラちゃんのパーティーがあるから家に帰っても深夜までエマとできんし。  

 という訳で、俺はピーナを公園のトイレに連れて行ったのだ。ウホッ




「町議が紛糾している・・・だとぉ・・・!?」


 ピーナと別れ、先にローラと二人でウェラウニに戻ってギルドへ顔を出すと、ギルマスから不穏な報告を受けてしまった。

 町長でもあるラムンが、『ウェラウニの笛吹き男』で町おこしをしようと提案したところ、思わぬ反対にあったそうだ。解せん。


「町おこしなんて、議員たちが得することはあっても誰も損はしないだろ?」

「アタシもそう思ってたんでやすが、複数の議員が反対したせいで、この議題は来週に持ち越しになってしまいやした」

「一体どこの誰が反対してやがるんだ?」

「アーク・ドイルでやすよー」

 滞納野郎か!

 俺たちに大金を回収されたことを逆恨みして反対に回りやがった。

 しかし、こんなことで意趣返しとか子供かよ。やれやれだ。


「反対派の議員は他にどんな奴がいるんだ?」

「教会の筆頭司祭様でやす」

 え、俺に洗礼を授けてくれたあの優しそうな爺さんが反対したってのか。

「理由は?」

「笛吹き男を偶像視するのは異端ではないかと言っていやした」

 そうきたかー。

 神様のライバルになる気はさらさらないんだが。何か手を考えねば。


「他には誰が?」

「保安官でやす」

 シェリフ!

 この町を守ってるのは警察じゃなくて保安官だったんか。知らんかったわ。

 しかし、何でまた反対派に回ったんだろうな。

「理由は?」

「不特定多数の観光客が押し寄せたら治安が乱れるとか言ってやしたね」

 そこは努力しよーよ。

 町の発展を放棄した治安維持とか後ろ向きすぎるわ。歪んでるわ。

 はぁ、とにかくこいつも何とかして丸め込むしかない。


「まだ他にもいるのか?」

「木工職人の親方代表でやす」

 また頑固そうなのが反対派に回っちまったな。

 だが、家具や道具を作る職人がどうして町おこしを嫌がる。関係ないだろ。

「理由は?」

「金属加工職人の親方代表が賛成してるからでさー」

「何じゃそりゃ!?」

「木製品は金属製品に押されっ放しですから毛嫌いしてるんでやすよ」

 子供の喧嘩か。ほんま議員なんてどの世界でも一緒や。粘土クレイGだわ。

 それでも何とか説得せんとダメか。どうすりゃいいんだこれ。

 

「もしかして他にもまだいたりする?」

「教育委員会の委員長でやす」

 また堅そうな人物が敵に回っちまったなぁ。

 リコーダー仮面に子供たちは大喜びしてたじゃないか。なぜ反対する。

「理由は?」

「ウェラウニの笛吹き男の自作自演を疑っておりやした・・・」

 アトスポか!

 嘘だろ、アレを信じちゃう少数の馬鹿がよりによって議員の中にいたのか。

 そもそも教育委員会の委員長が下劣なゴシップ紙を読んでんじゃねーよ。

 しかもその記事を根拠に反対するとか、この町の教育が心配すぎるわ。

 ま、それだけのアホなら丸め込むの容易かもしれんな。


「さすがにもういないよな?」

「へい、他は賛成か保留のどちらかでやす」

「反対派議員たちのプロフィールをリストにしてくれ。俺が懐柔してみる」

「ありがとうございやす! 婿殿だけが頼りでさー」

「次の町議は来週と言ってたな」

「ちょうど一週間後の3月20日火曜でやす」

「銀行プレオープンの翌日かぁ。忙しいのに余計な仕事が増えちまったなぁ」

「アタシの力足らずで申し訳ありやせん」

「いや、これは不可抗力だろ。気にしなくていいからお前は銀行の宣伝や準備を頼む。あの三十路女と協力するのは大変だろうけどな」

「そうなんでやすよ。今日もいきなり5階に女子更衣室を用意しろって頭ごなしに命令してきやしたからね」

「2階の銀行の更衣室じゃダメなのか?」

「6階の金庫フロアは専用の制服を着ないと入れない規則だから必要だって」

「2階で着替えて6階に行けばいいだけの話だと思うがな」

「アタシもそう言ったんですが、とにかく用意しろの一点張りで」

 それで相手するのが面倒になって用意してやったわけか。

「先が思いやられるな」

「ほんとでやすよ」

 ジェシカめ、我儘し放題で結果が出なかった時はバッサリと切り捨ててやる。

 しかし、その5階に作らせた更衣室ってのは気になるな。

 何か企んでるのかもしれん。念の為にチェックしておいた方がいい。


「ラムン、5階に行ってその女子更衣室をガサ入れするぞ!」

 その時に、たまたま誰かが着替えていて裸が見えても不可抗力なのだ。ムフ

「ガッテンでさー」

 ふふふ、ギルマスの顔も何かを期待して緩んでやがる。心は一つだな。

 俺たちは足取りも軽く階段をヒョイヒョイと昇って行き5階へ到着した。

 一度深呼吸してから、足音が出ないように女子更衣室へと歩を進める。

 あと5メートルという所で更衣室の中から女性たちの声が聞こえてきた。


 居る! お着換え中の美人女性銀行員が居らっしゃるぞ!

 ゴクリと唾を飲み込んでさらに近づこうとしたその時・・・


 ガチャ


 あぁぁ、更衣室から女性たちが出てきちまったぁ。

 一歩遅かった。いや、具体的には10歩ぐらい遅かった。

 残念無念と立ち止まって不運に身を震わせている内に、ジェシカとおぼしき長身の女を先頭に4人の銀行員がこちらへ歩いてくる。

 だが、その姿が鮮明になるにつれ俺は驚愕で目を見開かされることになった。

 何だその真っ白なレオタードは? 濡れたら透けて丸見えになるだろ。ゴクリ

 「ち・・・痴女・・・!?」

 俺の呟きを敏感に聞き取った三十路女は心外そうな表情で即座に反論してきた。


 「断じて痴女などではありません。これは金庫室専用の制服です!」

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