第93話 僕は死にましぇん
「皆さん、僕はね──────『不帰の森』に入るつもりです」ドンッ
「なっ…!それはもはや無理でも無茶でもなく無謀だ!自殺行為だぞっ!!」
「出たーーーっ!これぞウェラウニのホラ吹き男の真骨頂!キミって最高!」
「遺産はレイラちゃんに相続させるって遺言をちゃんと残して逝きなさいよ」
「いくらイクゾー殿でもこれは絶対に認められん。ギルドも許可を出さん」
「前人未踏の森に踏み込むなんてスゴイよ………これこそ本当の冒険だよ!」
「レイラちゃんと墓参りぐらいはしてあげるわ。ちゃんと感謝しなさいよね」
「帰らずの森という異名は伊達ではないのだ。古今東西あの森に入って戻って来た者は誰もいない。例外なくただの一人もだぞ。さあ、理解できたら考え直せ!」
「イクゾー、何とかしてボクも一緒に入れないか? なあ頼むよ!」
「大風呂敷を広げた木工職人の親方とかにもちゃんと謝ってから逝くのよ!」
女たちのマシンガンクレームが止まらない。
まぁ予想通りの反応だから、これを出せば解決という反論も用意してある。
俺はパンッパンッと強く手を叩いて注意をひくと、大声で論破してやった。
「僕は死にましぇん! エマたちが好きだからっ……僕は死にましぇーん!」
「……貴殿は何を言っているのだ?」ゴゴゴ
ミルコばりの迫力で女軍人に凄まれた。
エイミーやソフィアも気の毒な人を哀れむような表情で俺を見ていた。
むーん、何故か月9屈指の名台詞が完全にすべったようだ。解せぬ。
本当ならここで感動の涙が滝のように流れて分かり合えた筈なのに……
やれやれ、まったく異世界って奴はこれだから困るぜ。
さて、どうする?
不帰の森で絶滅危惧種を捕獲するには、エイミーたちの協力が不可避だ。
俺だけでは、魔獣が溢れる北の森を抜けてたどり着けないからな。
エマたちの助けは借りられない。自分よりランクの高い冒険者は助手として雇えないので、クエストに同伴してもらったら功績ポイントが俺に付かないのだ。
むーん、俺の体の秘密を話して説得するしかないかぁ。
だがそうした場合、秘密が漏れて騒ぎになるのが心配だ……
────こうなったらもう腹を括ってエイミーたちを本格的に取り込むか!
アイリーンは俺を欲しがってるので関係を深めるのは渡りに船だろう。
エイミーとソフィアはまさかのJSだったが、何とか口説き落して裏切らないようにせんと。俺は決してロリコンじゃない……だが仕方ないんだ………ムフ
さあ、方針は決まった。あとは迷わず行こう。
「ゴホン、とにかく僕の話を聞いて下さい。異論反論はそれから受付けます」
「良いだろう」
アイリーンは一つ大きく息を吐いて気を鎮め、両腕を組んで目を閉じる。
聞くだけは聞くが絶対に認めんと闘気ムンムンの全身が物語っていた。
「まず、これから話すことは絶対に他言無用でお願いします────」
俺は一同を見渡してから特にお前だとチクリ魔の顔を凝視する。
「エマたちにすら教えていない秘中の秘ですからね」
「分かっている。エイミーにも徹底しておこう」ギロリ
ヒッと悲鳴を漏らしてエイミーが首をすくめた。これなら大丈夫だろう。
「不帰の森は、侵入する者の魔力を吸い取り死に至らしめるのですよね?」
「そうだ。未だにその怪奇現象の謎は解明されていないがな」
「それなら、やはり僕は死にましぇん」
「………何故だ?」
「僕は魔力がなくても死なない体をしているからです」
「馬鹿なっっっ。それを信じろというのかっ!?」
「また出たーーーっ!ホラ吹き貴族ここに極まれり!ついに人間止めたよ!」
「そんなのもうゾンビじゃないの。レイラちゃんに教えてあげなくちゃ」ボソ
コラ地味眼鏡チクリーマー! 秘密だと言ったばかりなのにお前はぁぁぁ。
「だけど、アイリーンさんだって、薄々気付いていたんじゃないですか」
「何をだ?」
「僕の有り得ない絶倫ぶりを。普通の男なら魔力枯渇で死んでますよ」
「むぅ」と唸って女軍人は押し黙り長考に入った。
「イクゾーはそんなに特別なのかエイミー?」
「私はイクゾー君のしか見たことないから比較できないわ」
「リーナさん、その辺どうなんですか?」
「続けて三度やると男は死ぬ、という都市伝説は聞いたことがある」
「都市伝説じゃなくて事実ですよ! 何で大人の貴方が知らないんですか?」
「ずっと軍隊生活だったのでな。世事には疎いのだ」
「とにかく、今だってルーラさん、アイリーンさんと立て続けに二度放出したのにピンピンしてるでしょ。普通なら魔力切れで失神してるところですよ」
ダメだっ。こいつら女子力が低すぎるっ。
俺の説明にまるでピンと来てないどころか、疑わし気にこっちを見てやがる。
あぁ、これは想定外だわ。ここからどうしたらいい? 誰か助けてプリーズ!
「イクっち探したよ~、まーたこんなところでナンパしてたんだ~♬」
救世主キター!
俺の嫁の中でも女子力だけは無駄に高いギャルビッチ参上。
何というグッドタイミング。早速、ひと働きしてもらうぞ。
「ちょうど良いところに来てくれた。ちょっと説明してあげてくれないか?」
「しかも成人してるとはいえ、小学生二人とかさすが変態王は違うわ~♪」
人の話を聞け―い!
今はお前のエロトークなんていらんねん。いや、それこそ必要だった。
だが方向性が違う。俺が軌道修正しなくては。
「一般的な男性の子種放出による魔力切れについて教えてあげて下さい」
俺の隣に座ってエロい笑顔を見せるティアに有無を言わせぬ声色で迫った。
それで察してくれたらしいギャル子は、いかに俺が男として異常なまでに絶倫な『性獣』であるかを微に入り細に入りコンコンと語り続ける。
しかしこのビッチ、ノリノリである。
大好物のエロトークに興が乗りまくっていた。
お陰でアイリーンは納得してくれたようだ。
ソフィアはあまりにも赤裸々な官能秘話に頬を染めて俯くばかり。
エイミーは鼻血を出しながらも目をらんらんと輝かせ身悶えしていた。
うむ、この辺が頃合いだろう。これ以上は小学生の教育によろしくない。
「ありがとうティアさん。もう十分です」
「え~、次の教育委員長の話がクライマックスなのに~♭♭m」
やめーい!
あんなもん暴露されたらエイミーたちが裸足で逃げ出すだろが。
もうお前の役目を終わったらからとっとと帰ってくれ。
「いえ、本当にもう結構です。ところで、なぜ僕を探してたんですか?」
「ずっと姿が見えないからって、エマさんが凄く心配してたのよ」
「そうでしたか。では先に戻って僕は大丈夫と伝えて下さい」
「イクっちはまだ戻らないの?」
「明後日のクエストの件でもう少しだけ打合せをしてから行きます」
「そう、じゃあ先に行くわ。アイリっちたちもまたね~♪」
After a storm comes a calm(嵐の後には静けさが訪れる)
しばしそんな空気が垂れ込めたが、メンタル強者の女軍人が沈黙を破る。
「仮に不帰の森に入っても死なないとしてもだ……そこは前人未踏の地で、どんな危険が潜んでいるのか分からん。貴殿ひとりで対処できるのか?」
「できないでしょうね。だから危険だと思ったらすぐに逃げ帰ります」
「深入りはしないのだな」
「基本、僕は臆病ですからね。不帰の森の外で待っているアイリーンさんたちに声が届く範囲ぐらいしか進むつもりはありませんよ」
最初はな。無理をするのは中の様子が分かってきてからだ。
「それで、いつ不帰の森へ入るつもりなのだ?」
「2、3回、森での討伐クエストをやっていろいろ慣れた後にする予定です」
「賢明だな。その慎重さで無謀な挑戦も止めてもらいたいものだ」
「魔力切れに耐性のある僕にとっては無謀じゃありません。ですが約束した通り、誰にも、エマたちにも内緒にして下さい。余計な心配をかけますから」
「となると、当然ギルドにも報告しないつもりか?」
「はい、僕の秘密を知らない者には受け入れられない報告ですから」
「事情は分かった。気が進まないが我々が協力するしかないようだ」
「本当に助かります」
「止めてもどうせ黙って行くのだろう。それなら帯同した方がマシだからな」
「やはりアイリーンさんも付いてくるのですか?」
「当然だ。その際も、抜き打ち監査として同行する」
クエストを手伝う訳ではないから、功績ポイントは貰えるってことだな。
ま、俺としても捕獲したのは自分の手柄だという証人がいるのは有難い。
よし、今日はこの辺でいいだろう。詳細はXデーが決まってからだな。
「そろそろ、皆のところへ戻りましょう」
俺が立ちあがってそう言うとアイリーンは頷き、まだティアのエロトークで精神汚染されているエイミーとソフィアに活を入れて外へ連れて行った。
ギルドビルの裏庭に出て再び打ち上げパーティーに戻ると、数人の冒険者と歓談してるヴィンヴィンと目が合った。ちゃんと友達がいるみたいで安心したわ。
でも、黒い噂のせいで冒険者に嫌われている俺が顔を出す訳にはいかんな。
という訳で、軽く会釈をして移動しようとしたら、見えない力に阻まれた。
上着の中に風が入り込んできたと思ったら、空気に意思があるかのごとく俺を引っ張っていく。まるであれだ、ど根性ガエルだ。Tシャツのぴょん吉だ。
あれよあれよという間に、ヴィンヴィンの目の前に連れてこられた。
「私に挨拶もなしに素通りとはアナタも偉くなったものね」
「いえ、お仲間との楽しいひと時を邪魔しては悪いと思いましたので」
「フン、まあいいわ。それよりもアナタ、北の森の討伐クエストの準備は大丈夫なのかしら? 助手がルークたちでは戦力的にかなり厳しいはずよ」
「まぁ、何とかなると思います」
「仕方ないから私が助っ人を用意してあげたわ」
いや、だから大丈夫ですって。女王様も相変わらずマイペースだわ。
だけど、その心遣いは嬉しいし、助っ人というのも気になる。
「それは有り難うございます。それで助手を務めてくれるという方は?」
「エモル、こちらへいらっしゃい」
ヴィンヴィンに呼ばれて一人の魔術士がおずおずと近づてい来る。
ベージュ色の髪をボブカットにした150cmぐらい女の子だ。
「エモル、彼がイクゾーよ。討伐クエストの助手をやってあげなさい」
「はい。お姉さま」
お姉さま!
何だこのマリみてのような展開は?
ギルドにいる魔術師の中ではスール制度でもあるのかもな………ムフフ
「そのニヤけた顔は止めなさい。不愉快だわ」
おっと、生徒会室でキャッキャウフフする二人の妄想が捗ってしまった。
「これは失礼しました────」
お姉さまに詫びてから、俺はエモルに自己紹介を始めた。
「僕は荒井戸幾蔵です。まだ駆け出しの冒険者ですが宜しくお願いします」
「……エモルです」
ありゃりゃ、エモルは名前だけ言ってヴィンヴィンの後ろに隠れてしまった。
どうも引っ込み思案というかコミュ障っぽいな。これで使い物になるのか?
「アナグマを狩りに行くなら、エモルの地術が必ず役立つはずよ」
地術士か!
巣穴からアナグマを煙で燻り出すには確かに地術は有用だ。
穴の出口は複数あるだろうから一つを除いて全て埋める必要があるもんな。
さすがヴィンヴィンよく分かってる。伊達に一等冒険師はやってないぜ。
だけど、冒険者たちに嫌われてる俺の助手をマジでやってくれるのか?
「ここにいる子たちは、私たちを慕ってベルディーンから移籍してきた冒険者だから、アナタの面倒だってみてくれるわ────私が言えばね」ニヤァ
「是非お願い致します。ヴィンヴィン様」
「フフフ、悪いようにはしないから安心しなさい」
いやホント助かるわ。
これで4月から学校があるエイミーたちの代わりに助手をやってくれる冒険者に当てができた。ヴィンヴィンさまさまだよ。この借りは体で返すからな。
その後も何人かの冒険者や職員と親睦を深めた。いろいろ想定外の事案も発生したが、かなり有意義な時間になったよな。うむ、余は満足じゃ。
エマの治癒の奇跡で酔いを覚ましたティアの運転でセクスエルム・シスターズの家に帰ってくると、あとは風呂に入って眠るだけという感じで、各々は自室に散っていく。俺はエマにお休みなさいと声をかけてから、自室のある二階へ上がっていくティアを追いかけて、部屋の中にまで押し掛けた。
「ティアの婿にぃ、なる前にぃ、 言っておきたいぃ、ことがあるぅぅぅ」
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