第92話 JSだったんかーい!

「賢者のスキルなんて僕は持ってませんよ…………って、賢者? 賢者かっ!!」

 

 謎は全て解けた。

 あの時、俺は煮えたぎるマグマを噴火させ『賢者タイム』に入った。

 それで邪念も煩悩も消えて聖なる心眼、曇りなき眼がパッチリと開いたのだ。

 これもあのイカサマ天使が言ってた「地球人の身体の特性が活かされる」ってやつの一つなんだろう。ま、どれだけ役立つのか分からんが。


「イクゾー殿には何か心当たりがあるようだな」


「僕は子種を放出した直後から一定時間、賢者になれるようです」


「奇天烈極まりないな。だが凡人には測れぬ貴殿のことだ。納得するしかない」

「母国の男なら誰もが持つスキルですよ。『賢者タイム』と呼ばれています」

「それでさっきはあのタイミングでバレたのかぁ」

「賢者と呼ぶにはあまりにも情けない顔をしてたけどね」ボソ

 エイミーの精神攻撃スキル『静かなるツン』が発動された。

 だが効かないぜ。アヘ顔をJC二人に見られるなんて俺にはご褒美さ!


「ギルドの車で荷台の小窓から覗いてたエイミーちゃんの顔も大概だったよ」

「う、嘘よっっっ……私は…そんなこと…して…ないんだからっ」

「僕の股間ばかり見てたからバレてることに気付いてなかったようだね」

「ほぉ、あの時もやっていたのか、エイミー」ゴゴゴ

「ヒャアー、すいません。すいません。すいません。すいません」

 またも地味メガネは何度も頭を下げながら謝るだけの人形と化した。

 本当に懲りないな。その根性だけは頼もしい。長い目で見てやろう。

 まぁ、のぞき癖は持病みたいなもんだから同情の余地もあるしな。


「今回は許してやる。イクゾー殿の討伐クエストの助手で活躍して挽回しろ」

 どうやら元女軍人も俺と同じ意見のようだ。若手はアメとムチで育てんとな。

「ひゃい、が、頑張りまっしゅ」

 噛み過ぎだろ……迷彩メガネには期待してるんだからホント頼むぞ。


「イクゾー、そのクエストって明後日の21日水曜で間違いなかったよな」

「そうだよ。ソフィアにも期待してるからね」

「任せといてよ。それで、通常装備の他に、何か必要なものってある?」

「うーん、森に入って魔獣と戦うのは初めてだから正直よく分からないんだ」

「クエスト受注者がそんなことでどうするのよ。先が思いやられるわ」ボソ

 くっ…コイツ立ち直るの早っ。クエストでもその打たれ強さを発揮してくれ。


「どの魔獣を狩りに行く予定なのだ?」


「オオアナグマが本命で、ハゲウサギが滑り止めです」


「ふむ、どちらも農作物を荒らす討伐推奨害獣だな」

「功績ポイントを稼ぐにはちょうど良い獲物じゃないか」

「そんなに強くない魔獣だから無難なチョイスかもね」

「ローラさんたちにアドバイスしてもらったんだよ」

 あんなでもダークエルフだから森には詳しい。肉ほど興味はないが。


「アナグマを狩るならタペタイン油が必要だ」

「ボク知ってる。巣穴の前で油に火を付けて毒性のある煙で燻り出すんだ」

「じゃあ私は風術で煙を巣穴に送り込めばいいのね」

「そーいうことさ!」

「なるほど。じゃあそのナントカ油を用意してもらえるかな?」

「タペタイン油だ。ギルド直販のものを準備してルークに持たせよう」

「助かります」

「何だかボクすっごくワクワクしてきた。あぁ早くクエストに行きたいなー」

「実は僕もなんだ。自分自身の手で獲物を狩るのが待ちきれないよ」

「意気込むのはいいけど、討伐はそんなに簡単なものじゃないわよ」

 

「うむ、イクゾー、ルーク、エイミー、ソフィアの討伐ユニットでは攻撃力が決定的に欠けている。一匹も狩れずに撤収となっても不思議はない」


 フッ、そんなことは百も承知ですよ、アイリーン・グレイゴール元帥どの。

 だがな、今の俺にはチートな武器がある。クエスト当日に驚かせてやんよ。


「ボクも前衛に立って攻撃するから大丈夫!」

 上品な顔をしながら実はバトルメイスを振り回す美少女神官が気炎を吐く。

 しかし、絶対的後見人からピシャリと冷や水を浴びせられるのだった。

「お前は味方の回復に徹しろ。前衛を務めるのはまだまだ早い」

「えー、でもルークはからっきしだし、エイミーの魔法も威力は小さいし、イクゾーに至ってはまともに剣を振ることもできないんですよ?」

「その分析は正しい。だが、イクゾー殿には何か策があるようだぞ」

「そうだったのかイクゾー、どういう作戦か教えてよ!」

 ボクッ娘神官が期待に胸を弾ませパァッと明るい笑顔でせがんで来る。

 うわぁ、やっぱこの子も相当な美少女だよな。めっちゃドキッとしたわ。


「作戦なんて大層なもんじゃないけど────僕は剣を捨てたよ」


「ただでさえ攻撃力が無いのに何がしたいのか意味不明だわね」ボソ

「でもきっと何か考えがあるんだろ?」

「それは、武器を変えたという解釈でよろしいか」

「はい、剣の道は断念し、メイスに活路を見出しました」

「メイスってボクと同じじゃないか。仲間だね、イクゾー」

 性格と違って見た目はお嬢様のソフィアは無邪気な笑顔を見せる。マジ尊い。

 短い髪をもっと伸ばして口を閉じてたらこの世界でも絶対モテモテになるわ。


鎚矛メイスとはまた意表を突かれたが、練度の方はどうなのだ?」


 練度ときたかぁ。こういうの素人なんでどう言えばいいのか分からんぞ。


「まだ特訓を始めたばかりなので……打率2割といったところです」


 こんな言い方じゃ通じないと思うけど、他に表現の仕方が分からんし。


「素晴らしいではないかっ。さすがイクゾー殿だ」


 通じるんかーい!


 えぇぇなんでぇ? ていうか、本当に意味わかってる?

 打率2割でベタ褒めとか、ちょっと有り得んて。

 暗黒カープでさえ二軍落ちやでー。(※ランス除く)


「いや、2割ですよ2割。ちゃんと伝わってますか?」


「要するに、5回攻撃したら1回は敵にダメージを与える有効打になるのだろう。五等級に上がったばかりなら、かなり良い打率だぞ」

 

「へぇ、そんなものですか」


「平均では五等で二割弱、四等で二割五分、三等で三割強といったところだ」


 上級冒険師メジャーになるには打率3割超えが必要ってか。

 3割バッターが一流の証とは分かりやすくていい。だけどまぁ───


「ガチの冒険者でも攻撃ってなかなか決まらないものなんですねえ」


「当たり前でしょ。大きな魔獣なんて当たっても有効打にならないことが多いし、小さい魔獣はすばしっこいから当てることすら難しいわ」

「あのレイラでさえ、ツライグマの動きには手を焼いてたもんなあ」

 レイラちゃんの苦戦は生で見てたし、俺自身もフカヤミンクと対峙して小魔獣の俊敏性を嫌ってほど体感させられた………だから当然、対策はしてるぜ。


 なんとローラの妖術を使ったチートな特訓だ!


 その訓練の成果で、戦闘シロウトの0割台打者だった俺が、今では打率2割まで攻撃の精度が爆上がりしたのだよ。クククッ……


「前衛の攻撃は僕にドンと任せておいてよ」

「イクゾーがそこまで言うならきっと大丈夫だな。期待してるぞ」

「何でもいいけど、ルークみたいに足を引っ張らないでちょうだいね」

「お手並み拝見といこう。だが、気負い過ぎて無茶をしないことだ」

「はい、四等昇格の賭けの期限まで1ヵ月ありますから。最初から飛ばしてリタイアするような真似はしませんよ」


「でも、私たちが助手をしてあげられるのは、今月いっぱいまでよ」


「えっ? ちょっと待って。それってどういうことなの?」

 

「4月から学校があるからに決まってるでしょ」


「学校ぉぉぉ!? エイミーちゃんたちまだ学校に通ってたんだ?」

「当たり前じゃない」

 くそ、のぞき癖の変態女に馬鹿じゃないのとアイコンタクトされた。

 俺はまだこの世界の常識を知らんから仕方ないんだよ。それにだ───


「じゃあ、今はどうして冒険者の活動をしてるのさ?」

「だって春休みだもの」

 そうきたかー。

 ぐうの音も出ないほど簡潔で完璧な理由だった。

 たしかエイミーたちは13歳の筈だ。てことは、中学に進学してたのかぁ。

 小卒で就職する者が多いこの異世界では珍しいよな。

 しかし、この二人はともかくあのルークまで高学歴とか違和感スゴイわー。

 

「冒険者をやりながら中学に進学するなんて本当に立派だね」


「何を言ってるのイクゾー君?」

「ボクたちは進学するつもりなんて全然ないぞ」

「はぁ? ちょっと待って……じゃあ、もしかして……君たちって……!?」


「まだ小学生に決まってるでしょ」


 SHOU GAKU SEI !!


 マジかぁぁぁぁぁ。

 JCどころかJSだったのかよっ。

 あぁ、俺ってば小6女子にとんでもないモノ見せちゃったんじゃね。

 ムッツリスケベのエイミーはともかく、ピュアな神官ソフィアの性格まで歪んでしまったらインモラルな愚息のせいだわ。なんて罪深い男なのか俺は……

 ふぅ、とりま反省は後回しにして、今は現状把握に務めなくては。


「そういえば、この国の学校は9月から始まるんだったね」

「そうよ。だから終業は6月になるわ」

「6月末に卒業するまで、ボクらがクエストに付き合うのは難しいかな」

「ルークなんか下手したら8月いっぱいまで夏休み補習かもよ」

「あちゃ~、あいつはやっぱりそんな感じなんだ」

「11歳で家出して学校に通ってない時期があったから、これまでも放課後に補習とかしてもらってたんだけど、恐らく一緒に卒業するのは無理ね」

「去年の夏休みの二の舞かあ。その間にボクらは五等級に昇格したんだよ」

 なるほどね。それでルークだけ未だに六等の底辺冒険者やってたのか。

 もともと無能剣士だから、補習なくても昇格できてたか知らんけど。

 戦友をビッグにするプロデュースは前途多難だなぁ。それはさておき───


「僕は、今月末までに四等昇格を決めないと厳しいってことだね」


「そうよ。討伐クエストでイクゾー君の助手をやる人は中々いないと思うわ」

「話せば分かってくれる冒険士マイナーもいるだろうから、ボクも探してみるよ」

「ありがとう。でも大丈夫、僕は月末までに昇格してみせるから」


「ほぉ、イクゾー殿の自信の根拠を教えて頂けるかな」

 しばらく黙って見守っていたアイリーンが口を挟んできた。

 四等昇格には俺のギルド&ハーレム追放がかかってるからな。

 俺を狙っているこの女もいろいろと気になるのだろう。

「その前に、僕の質問に答えてもらえますか?」

「私に分かることなら何でも答えよう」


「では、魔獣ではなく野獣の捕獲でも、討伐クエストに数えられますか?」


「問題無い。野獣でも討伐クエストとしてカウントされる。ただし、与えられる功績ポイントは格段に少ないがな」


「なるほど。ですが、絶滅危惧種なら話が変わるのでは?」


「その通りだ。むしろ平凡な魔獣よりも遥かに高ポイントになる」


「それを聞いて安心しました」ニヤリ


「どうやら、ジャックポット狙いで四等級に昇格するつもりのようだな」

「無茶はしませんが、多少の無理はしないと賭けに勝てませんからね」

「貴殿のことだから分かっているとは思うが、絶滅危惧種の捕獲など狙って成功するものではない。たまたま遭遇するという万に一つの強運が必要なのだぞ」

「でしょうね。ただ、僕には僕だけの勝算がありますから」


「イクゾー殿だけの勝算………是非それを聞かせて頂きたい」ギラリーン

「あーっ、ボクもボクも、絶対聞きたーい!」

「レイラちゃんのバツイチがかかってるから私も聞いてあげるわ」


 うーん、アイリーンたちには既にいろいろ知られてて、運命共同体みたいになってきてるから、手段ぐらいは教えてもいいか。むしろ、いざって時に教えて土壇場で反対されるより、今の内に説き伏せておくのが得策ってもんだな。


 てなわけで教えてやる。耳の穴をかっぽじって、よーーーく聞けぃ。



「皆さん、僕はですね──────『不帰ふきの森』に入るつもりです」ドンッ

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