第94話 ウェラウニ王に!! 俺はなるっ!!!!
「ティアの婿にぃ、なる前にぃ、 言っておきたいぃ、ことがあるぅぅぅ」
「なんでちょっとメロディ調なのイクっち~、超ウケる~♪」
前世が日本人だから仕方ないのだ。
それはさておき、かなり厳しくツッコミを入れるが聞いてもらうぜ。
例の件の決着をつけなくては、第二の人生がこれ以上先に進まんのだ。
「ズバリ訊こう。お前は伯爵をハメるつもりだな?」
「ちょっと何を言ってるのか分からないわね」
「とぼけないでくれ。お前がやろうとしてることはお見通しだ」
「フーン、面白そうだから聞いてあげるわ。言ってみれば~♪」
なんか余裕だなこいつ……ニヤニヤポーカーフェイスが崩れてない。
だが時間もないし、ここは続けてど真ん中へ直球勝負だ。喰らえぇぇっ。
「俺との子を伯爵の子だと騙して爵位を
「プハッ、何それイクっち……マジで言ってんの~? オモシロすぎる~♬」
対面のソファーに座っているティアは腹を抱えて笑い始めた。
あれれ~? おっかしいぞォ~?
ここで切ないBGMが流れてティアが懺悔の告白をする流れの筈なのに……
まさか、俺の完璧な推理が的外れだったと言うのか。有り得んっ。
「伯爵と援助交際をしてることも否定するつもりか?」
「なんでアタシが伯爵とそんな仲になるのよ~、もう止めて~腹イタイ~」
ギャル子は本当に腹筋が崩壊しそうな勢いで爆笑し始めた。
くっ…マジなのか。これが演技だったら相当な役者だぞ。
そこを見極めるためにも、どんどん畳みかけないと。
「爵位をくれる条件の『3ヶ月以内に孕ませる』というのは、伯爵との援助交際の期間が3ヵ月だからじゃないのか?」
「アヒャァ…そうくるか~、アヒャヒャヒャッ…もうイクっち最高だわ~♬」
「思い返せばお前は『爵位を買う』とは一言も言ってなかったし、そんな金を持ってるとも思えん。つまり、購入以外の方法で爵位を奪い取るつもりなんだろ?」
ティアはもう何も答えることができないほど、涙を流しながら悶えていた。
んんん、これ、マジで見当違いだったみたいだな。
じゃあ一体どういうことなんだ…どうやって爵位をもらうつもりなんだ……
「俺の推理が間違っているのなら、ちゃんと説明してくれないか。エマたちに災禍が及ぶ疑いが晴れない内は、お前との種付けはできん」
「ハァハァ…そうね…ハァ…そろそろ…ハァ…話す頃合い…かもね…ハァ…」
仕舞にはソファーに寝転がって笑っていた体を起こして座りなおしたティアは、息を整えてからエルフそっくりの顔を俺に向ける。
その表情はいつものギャルビッチではなく、交渉人のそれだった。
「伯爵とはイクっちが考えてるような関係じゃないわ」
「じゃあどんな関係なんだ?」
「まだ言えない。でも、取引が完了したら嫌でも知ることになるわよ」
「分かった。今はそれで納得しよう」
「3ヶ月以内という条件は、アタシが学生の間にという意味よ」
あっ、そうだった。寄宿学校の学生だって前に言ってたな。
その時、なんで学校行かずに冒険者やってるのかと不思議に思ったが、エイミーたちと同じで今は春休み中だってことか。
ん、んんん…今、『学生の間に』って言ったか……ってことはまさか───
「ティアって、3ヵ月後の6月に卒業する中学生だったのか?」
「そうよ。何か取引に支障が出る不満でもあるの?」
「いや、全くない。むしろ嬉しい誤算だ。ご褒美だ」
JKだとばかり思ってたがJCだったとはな。エイミーたちがJCじゃなくてJSだったことといい、今夜は驚かされてばかりだぜ。
「何がご褒美か分からないけど、とにかく喜んでもらえて良かったわ」
ティアはニンマリと笑うと、ミニスカからはみ出た両足とパンツを見せつけるようにゆっくりと足を組みなおした。くっそエロい。だが惑わされんぞ。
「肝心の爵位を得る方法を教えてくれ」
「アタシは伯爵じゃなくて、伯爵家当主と強いコネがあるのよ」
「はぃぃぃ? 伯爵と伯爵家当主って、別人なのか?」
「そこからか~、本当にイクっちは常識無しで仕方ないわね」
「すまん、簡潔に説明してくれ」
「この国は女系継承だから家を継ぐのは女なの。当然、伯爵家も女性が継いでいるわ。現在は夫を離縁して息子を伯爵の地位につけてるの」
はぇ~、つまりだ、プロ野球で例えると、当主がオーナーで伯爵は監督みたいなもんか。成績が悪かったりオーナーの機嫌を損ねると首を切られるわけだ。
「その伯爵家当主からどうやって爵位をもらうんだ?」
「アタシの懐妊祝いにくれるそうよ」
「なんでやねん!?」
どういう仲なんだよお前ら。爵位なんてそんな簡単にやり取りするもんじゃないだろうに。あぁぁぁ、もしかしてお前、両刀使いか? 女当主と援交してんのか?
そうじゃなきゃ、何か弱味でも握ってるとしか……ゴクリ
「安心しなさい。本当にただのお祝いだから。それに爵位と言っても最低ランクの『準男爵』だから大したことじゃないわ」
「そ、そういうものなのか?」
「準男爵なんて爵位ポイント3点あれば名乗れるのよ。有象無象でしょ」
「爵位ポイントぉ?」
「またそこからか~、本当にイクっちは常識無しでいっそ愉快だわ~」
「すまん、また簡潔に説明してくれ」
「簡潔も何も本当に簡単な話よ。爵位を得るにはそのランクに見合うポイントが必要なの。準男爵3点、男爵9点、子爵18点、伯爵36点て感じでね」
うーん、ポイント制ってのは確かに分かりやすいが、貴族ってそんなゲーム感覚でいいのかモヤモヤが凄いわ。ま、異世界だからな。俺の常識はお門違いか。
「なるほど。それで爵位ポイントって具体的にどうもらうんだ?」
「3ポイント分の領地を分けてもらうことになるわ」
「領地がもらえるのかっ!?」
「本物の貴族なんだから当たり前でしょ~」
当たり前なのか!
てっきり身分だけの名ばかり貴族になるもんだと思ってたわ。
「お、おう……でも、ただ同然でもらえるから驚いちゃったよ」
ティアは一つため息をつき、やれやれという顔をしながら説明を続ける。
「爵位ポイントの振り分けは、最大で村1点、町3点、市12点、都市36点て感じになってるわ。ちなみにここウェラウニの町は2点よ」
あっ、そうだよ。ウェラウニだよ!
この町の領主になることってできないのか?
たしか今は領主から任命されたラムンが代官の町長になってるんだったよな。
だったら、この町を俺の領地として分けてくれてもいいはずだ。
以前、冗談半分で言ってたが、この俺がなってやるかっ!ウェラウニの王に!
うん、とりま、ダメもとで訊いてみよう。
「領地にウェラウニをもらえんかな?」
「うーん………オッケー!」
ウェラウニとったどー!
いや待て待て待て。お前が勝手に決めていいことじゃないはずだ。
もしホントなら、どんだけ伯爵家当主に顔が効くんだよ……逆に不安だわ。
「そんな安請け合いして本当に大丈夫なのか?」
「ティアちゃんにお任せよ~。こんな田舎町なら余裕でゲットできるわ~♬」
最初は真面目だったのにどんどん素が出てきたな。
ま、この町が手に入るなら何だっていいさ。
とにかく、ウェラウニの領主になれるのは超ありがてー。
この町を発展させ甲斐があるってもんだ。収益は全部俺のもんだ。ククク…
「全面的に任せる。しかし、ウェラウニは2点だから1点足りないよな?」
「この町の西隣にあるキルパ村と東隣にあるウィプトン村をもらうわ。その二つを足せば1点になるから合計3点で準男爵に届くって寸法よ~」
ふむ、キルパ村はリーゼの牧場がある山と森が多いところで、ウィプトン村はフカヤミンクの討伐で行った鯉の養殖場があるけど荒野の多い地域だったな。
ま、俺が領主になったらキッチリ開発してやるから楽しみに待つのだ。
「これで俺もイクゾー準男爵……いや、アレイド準男爵かぁ……」
「違うわよ~、なんでそうなるの~」
「えっ、俺の名前じゃダメなんか?」
「人の名前じゃなくて、地名だってこと」
「そういうことか。じゃあ、ウェラウニ準男爵?」
「そうなるわね」
「ちなみに、お前が懇意にしてるっていう貴族は?」
「この辺り一帯を領有してるアトレバテス伯爵家当主ケイト・ロスベナルよ」
「そうか。そのケイトさんには大感謝だが、懐妊祝いに爵位をくれるっていうんなら、別に3ヶ月以内じゃなくてもいいんじゃないか?」
「寄宿学校を卒業したら、お見合いさせられそうなのよね~」
「見合い!? てことは……」
「そう。爵位はイクっち以外の他の男の手に渡るってわけ~」
「それで今の内に俺と既成事実を作ってしまうおうというのか」
「ご名答ちゃ~ん♪」
軽っっっ。
割とエグいことやろうとしてんのに、この能天気さよ。ま、ギャルビッチ的にはこんなの日常茶飯事なありふれた駆け引きなのかもな。だがしかし────
「お前の両親はそれで納得してくれるのか?」
たしかティアの実家は娼館だったはずだ。
以前、子供の頃から自宅のあちこちで男女がくんずほぐれつしてたのを見てきたと言ってた。それで教育に悪いと、両親はティアを寄宿学校へ入れたんだよな。
「両親だって、できちゃったもんは納得するしかないわよ~」
あぁ、家を出した甲斐もなくこんなギャルビッチに育ってしまったという……
だが本当にそれで納得してもらうしかないわ。エマたちのためにも。
さて、あとはもう一つだけ確認しておきたい。
「親はさておき、お前自身はどうなんだ? 本当に俺で良いのか?」
「え~、前にアタシが言ったこと憶えてないの~♭♭m」
「……申し訳ない。記憶にございません」
「子供を欲しがる理由をイクっちが聞いた時に言ったじゃな~い」
「あっ、『パートナーとして認めた時に教えてあげる』って言ってたやつだっ」
「ビンビンゴ~♬ それで、理由はさっき教えてあげたでしょ~」
「てことは、俺のこと認めてくれたんだな」
「あれだけのことをされたら、もう認めるしかないでしょ~♪」
「えっ、そうかな」
今、ティアと進めてる事業はまだまだ序の口で本番はもっと先なんだが……
「なに言ってんのよ~、絵本だけでも大事業なのに、木工細工産業の再建案はそれに輪をかけた規模じゃないの~。それに極めつけは今日のアレよね~♪」
今日のアレとな!?
まさか、アイリーンだけじゃなくてお前まで気付いてたんか。
「な、なんのことじゃろか?」
「イクっちが強盗団を陰で操っていたことに決まってるじゃな~い♬」
「ちょっと何を言ってるのか分からないですね」
「バレバレだってば~、アタシはメスピっちと一緒に正門にいたんだから」
「というと?」
「正門にいるスチームカー強盗団をわざと逃がして保安官に手柄を譲るなんて、脳筋のメスピっちが思いつくわけないもんね~♪」
「脳筋は言い過ぎだろ。ピーナはあれでもいろいろ考えてるんだぞ。たぶん」
「だいたい、町の水路の外で待ち伏せするなんて、最初から銀行強盗が起こることが分かってないとできないでしょ~」
「あ、あれは………たまたま…パトロールしてた……みたいだよ」
「大丈夫だってば。アタシは誰にも言ったりしないからさ~」ニヤニヤ
その笑顔はまったく信用できんわー。マジ下種い。
でもネタはすっかり上がってて誤魔化せんか。認めるしかない。ない。
「エマには特に秘密で頼む」
「オッケー。だけど、イクっち本気でウェラウニを市にするつもりなのね~」
「あぁ、その為には町で唯一の銀行を繁盛させる必要があったんだよ」
「だからってフツーはあんなことしないって~♪」
「6年以内に市に昇格させると約束したからな。多少の無茶はするさ」
「6年て…無茶にも程があるでしょ。それでも、それでもイクっちなら~」
「何とかするさ。必ずな」
「じゃあイクっちは自力で男爵になれそうね。子爵だって夢じゃないわよ~♬」
「はぃぃぃいい?」
「町を市にしてさらに発展させれば、爵位ポイントが最大12点になるわ」
「あっ、男爵に必要なのは9点だから、爵位ランクアップするやん!」
「そーいうこと。そのままアトレバテスみたいな都市にしちゃえば、子爵の18点なんてすぐにイっちゃわよ~♪」
いやいやいや、さすがにアトレバテスまでは簡単にいかんだろ。
ウェラウニの10倍以上の30万都市だぞ。
まぁでも、夢は大きい方が良いし、何かしら良いことあるかもしれんな。
「子爵にまでなったら、なんか特典はあるのか?」
「そうねぇ………自由かな」
「自由? それはどういう意味なんだ」
「ケイトから爵位をもらうんだから、貴族といっても伯爵家のヒモつきになるわ。面倒をみてくれる代わりに、いろいろと制約を受けるでしょうね」
「なるほど。だが、俺の力で町を発展させて子爵にまでなれば────」
「貴族として一本立ちして勝手気ままにやれるってわけよ~♪」
そりゃ最高だっ。
ていうか、それでこそ貴族様だろ、特権階級ってもんだろ。
よーしやったるでー。道はメッチャ険しいが必ずそこまでたどり着いてやる。
いつか、誰にも咎められず王様のようにやりたいことをやってやる。だから…
────ウェラウニ王にっ!! 俺はなるっ!!!!
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