第20話 弱小ギルドマスターかく語りき

「是非お訊きしたい、イクゾー殿は既に伴侶を決めているのか?」


 え? 嫁選びのことを元女軍人がどうして・・・

 ああ、サラさんやギルマスの話ではギルド内で噂になってるんだったな。


 だがそんな浮ついた話は歯牙にもかけないという風情のアイリーンが何故?


 まぁいい。エマさんとのことを俺の口から公言しておくのもアリだろう。

 エマさんがそそのかしたんじゃくて俺がゾッコンなんだと広めないとな。


「はい、拝み倒してでもエマさんを伴侶に迎えるつもりです」

 

「・・・・・・」ポッ

「いつまで持つかしらね。ククク」

「私はもう妹にしてくれたからいいんだー」

 えっ、事情が変わってレイラちゃんも嫁にしたいんだけど手遅れなの?

 いや、まだひと月あるから大丈夫だ。

 それに合法ロリを一度妹にしてから嫁にするもまた一興じゃないか。ムフ


「貴殿にはエマ殿の立場が分かっているのか?」

 ちょ、そこにまで触れちゃうの?

「事情は聞いて知っています」

「それでもエマ殿を選ぶのは間違っていると思わないのか?」

「リーナさん、アレー様への不躾な真似はお止め頂けませんか」ゴゴゴゴ

 ほらー、エマさんが荒ぶり始めたじゃないかぁ。 


「選ぶこと自体は間違っているとは思いません。それによって生じる問題への対策は考えています」

「その対応策を聞かせてもらいたい」

 さすがに図々しいわ。

 どうやらエマさんたちのパーティーの担当者らしいが、これはちょっと踏み込み過ぎだろ。

 

「ここで貴方に答えることではない。まず最初にエマさんたちへ話すべきだと考えている」


「ふむ、道理だな」

 炎が噴き出しそうだった赤い両目からフッと圧力が消えた。

 だが、俺のへ追及を止めたわけでないようだ。


「万策尽きてエマ殿が町を追われることになったらどうするのだ?」

 それも最初にエマさんに言うことだろうが。


「その時は僕も一緒に町を出ます。エマさんと生まれてくる子供は僕が何をしてでも養っていきますから」


 仕方ないのでアイリーンではなくエマさんの目を見て答えた。


「はい、ワタクシは夫に付いて行きますわ」

 エマさんはとっくに覚悟完了している。

 だから淡々とそう答えてくれた。


「勝手に話を進めないでもらえるかしら?」

「そうですよー。そうなったら私もお兄ちゃんに付いて行きますからね」

「お肉のお替りしていいですよネ?」

 とりま、ヴィンヴィンとレイラちゃんにまぁまぁ落ち着いてと目でなだ めておく。

 

「アイリーンさん、担当パーティーへの過干渉はいけないでやすよ」

 おぅ、やっとラムンがギルマスらしいこと言ったな。


「何を言ってるのだ? エマ殿のような一等冒険師ほど得難い存在はないのだぞ。本来はマスターであるお前が対処せねばならぬ問題なのだ。もう少し立場をわきまえてはどうか?」


 えー、アイリーンさんこそ立場を超えた発言をしてらっしゃいますよー。


「エマ殿たちを失う事がこのギルドだけに留まらず、この町にとってどれほどの損失か考えたことはあるのか!?」

 ギルマスはよほど彼女が苦手なのかただ震えて座る置物と化している。


「ギルマスはちゃんと考えていましたよ。そして僕に策を授けてくれました」

 さすがにこれは酷だろうと助け舟を出した。


「文句を言うのはその策が破れた後にして下さい」

「それでは手遅れになってしまうのではないか?」

「そこまでですわ。リーナさん、これ以上ワタクシたちの私事に口出しなさるなら担当を変えて頂くことになりますよ」

 いいぞーエマさん、もっと言ってやれ。


「承知した・・・」


 いかにも不承不承という感じでアイリーンがむっつりと黙る。

 だが、とりあえずこれで元女軍人との初戦は終了みたいだ。

 エマさんたちは、その担当と一緒に今後のスケジュールを詰めるため3階の会議室へ向かっていった。

 残された俺とギルマスはぐったりとしながら精神の消耗回復を待った。


「またとんでもない部下を持ったもんだな」

「へぇ、分かっていただけやすか、アタシの苦労が」

「うちにも一人高慢ちきがいるから気持ちは分からんでもない」

「アイリーンさんは何というか、かなりの意識高い系でやして、向上心や功名心が人6倍なんでやすよ」

「そのうえ元軍人であれだけ気が強いんじゃあ周囲の人間は溜まらんなぁ」

「おっしゃる通りでやして、これまでも担当したパーティーと何度か揉め事を起こしてますです」

「おいおい、なんでそんなトラブルメーカーをエマさんたちに付けたんだ?」


「さあ、アタシは会議に出てやせんでしたから知りませんです、はい」


 仕事しろや!

 ほんまいい加減にしとけよ。他力本願にも程があるだろ。

 ギルマスを叱りつけたアイリーンの気持ちがメッチャ分かるわ。


「さて、アタシたちもボチボチ行きやしょうか?」

「そうだな、あとはこの上の5階と6階を見させてもらおうか」

「本来は部外者立ち入り禁止なんですが、婿殿は我がギルド躍進の立役者ですからね、特別にご案内させていただきますです」

「ギルド躍進ってどういうことだ?」

「エマ殿たちがいれば必ずそうなりやすです」

 ま、そういうならお言葉に甘えてズカズカと上がらせてもらおう。


「この5階は主に保管庫となっておりやすね」

「何が保管されているんだ?」

「・・・得体の知れないモノたちでやす」

「言ってる意味が分からんぞ」


「冒険者たちが持ち込んで来た自称お宝たちでやすよ」


 あー確かにそういうものも出てくるだろうな。


「大概ガラクタなんでやすが、鑑定士でも判断のつかない、もしかしたら程度のブツがたまに出てきやす。そうなると買い上げることも捨てることもできなくて保管庫に眠ることになるんですなぁ。その内に持ち込んだ冒険者が死んだり行方不明になったりでますます処分に困る事になりやすです、はい」


「ほぅ、だが下手な遺跡よりお宝が眠ってそうな気もするな」


「あ、そういえばロビン・モアゆかりのお宝ってのもいくつかありやしたよ」


 マジで!?

「それは是非見せてもらわないといかん」

「分かりやした。では係りの者に言っておきますんでお持ち帰りしやすか?」

「え、良いのか?」

「へぇ、下手したら100年以上眠ってるブツですから誰も文句は言いやせんよ」

 とてもギルマスの発言とは思えんがここは乗っかるべきだ。

「まとめてエマ殿のスチームカーに積んでおきやすね」

「悪いな、恩に着る」


「ここが最上階6階の金庫室でやす」

 広い、というか広く見える。

 ワンフロアぶち抜きの間取りになっているからだ。


 その中央ど真ん中に巨大な金庫というか人も入れる金庫部屋があった。


「あれが銀行用の特注金庫でやすよ」


 さすがにでかいな。エマさんたちはこれの警備にあたるわけだ。


「んん? あっちのすみにあるいかにも小さな金庫はなんだ?」


 銀行の金庫とのギャップが凄い。比べると子供の貯金箱みたいだ。


「あれは・・・ギルド用の金庫でやす」


 そ、そっかー。悪いこと聞いちゃったな。メンゴメンゴ。

 だけどあんなんで大丈夫ぅ?

 冒険者たちへの報酬や職員たちへの給料とかちゃんと払えてんの?

 ここで世話になる俺も他人事じゃないんだよなぁ。

 非常に訊きづらいが、やんわりとオブラートに包んで遠回しに訊いてみるか。


「このギルド、ヤバイんじゃないか?」ズバーン!


「で、で、で、で、でーじょーぶでさー」

「まったく信用できんな」

「これから、これからなんでやんすよ!」

「何がこれからだ?」

「銀行!銀行ですよ!」

「銀行が何だっていうんだ?」

「家賃!家賃ですよ!」

 なるほど。銀行をテナントにして賃貸料を取るのか。


「それだけじゃねーですよ。警備料だってありやすからね!」

 ふむ、エマさんたちが守るんだからそういうことになるか。


「しかも警備料は銀行の貯蓄量に比例しやすから、うなぎ登りでさー」

「そんなに上手くいくもんなのか?」


「なに言ってんですか旦那ぁ! セクスエルム・シスターズが守る銀行なんて大繁盛間違いなしでやすよ! この町の住人だけでなく近隣の市町村からも預金者が殺到しやすって!」


「そ、そうだな」

 よく知らんがな。きっとそうなんだろうな。


「そうでやすよ。銀行に金が集まれば融資を受けられる人も増えて町が発展しやす。そうなれば住人も増えやす。そうしたらまた預金者が増えるって寸法でさー」

 うーん、無学の俺に経済を語られても分からんわー。


「このギルドだって大きくなりやすよ!」

 

 今日一きょういちの大声でギルマスが吼えた。

 さっきアイーリンに言われ放題だったんで鬱憤が溜まってたようだ。


「これまで高額の報酬は一括で払えなくて冒険者に不便をかけてましたからね。それが原因で大規模なギルドへ移籍していく者が後を絶たなかったんでさあ」


 弱小ギルドの悲哀をたっぷりと滲ませながらギルマスは語る。


「ですが銀行があれば借り入れして高額報酬も一括払いできやす。将来有望な冒険者が他所へ流れていくこともなくなるんでさあ。これからは逆に有能な冒険者が集まってきやすよ」


「そんなに上手くいくもんなのか?」


「なに言ってんですか旦那ぁ! セクスエルム・シスターズが在籍してるってだけで大看板しょってるようなもんでやすよ! その名声に惹かれて後から後からやってきまさー」


「そ、そうだな」

 よく分からんが、何だか俺もそんな気がしてきたわ。


「そうでやすよ。セクスエルム・シスターズのおこぼれに預かりたいっていう冒険者が既に何人も来てやすからね」


 おこぼれに預かる?


「まさかエマさんたちにたかろうとする輩がいるのか?」


「いえいえ、彼女たちの助手として仕事をしたいっていう若手たちでやすよ」


「冒険者が助手?」


「四等以下のマイナー冒険者は、高額・高難易度クエストで上級のメジャー冒険者に助手として雇われることがよくありやす。メジャーは雑用や雑魚戦闘から解放されやすし、マイナーは得難い経験ができるうえに賃金までもらえるんですから、winwinでやすよ」


 なるほど。理に叶ってる。やはりこの世界の冒険者業界は合理的だ。


「そう考えるとエマさんたちの存在は本当にでかいな」

「そうなんでやすよ! 婿殿には大いに期待してますです、はい」

「いや俺に期待されても出来ることなんて何もないぞ?」

「エマ殿たちのモチベーションを上げることができるのは婿殿だけでやすよ!」

「そういうことか」

「でやす。婿殿のほとばしる熱いパトスでエマ殿たちに活力を与えてやってくだせえ」

 その点に異論はない。神話になってやるとするか。


「しかし、エマさんたちを引っ張って来たお前の功績もメチャクチャでかいな」


「やっと気付いてくれやしたか。男ラムン一発大逆転の巻でさー」


「俺としても協力者のお前の権威が増すことは利があるな。よし、エマさんたちのことは任せておけ。悪いようにはしない」

「へへぇ、ありがとうございますです。アタシも婿殿の援助を惜しみやせん」


「ふふふ、何かちょっと楽しくなってきたぞ。この町で一旗揚げてみるか」


「その意気でさー。婿殿ならなれやす! この町の王に!」


 これまた微妙なステータスだが、はじめの一歩はそんなもんだろう。


 よし、ますはこの弱小ギルドのテコ入れからだな。

 ちょっと本気出して協力してやるとするか。

 もちろん基本生活はエマさんたちとのキャッキャウフフだけどな。片手間で力を貸してやろう。


「そろそろアタシの部屋へ戻りやすか。エマ殿たちの打ち合わせも終わる頃ですし」

「そうしよう」

 6階から1階まで階段で下りて行った。

 凄いな。全く平気だ。転生前の俺だったら息が切れて片膝付くところだわ。

 ホント15歳の肉体って素晴らしいね。性欲が充満してるのだけは玉に瑕だが。


 マスター室に入ると、まだエマさんたちは戻ってなかった。

 仕方ないので暇な俺たちはまただべり始める。

 

「ちょっと気になってたんだが、この国ではミニスカが流行ってるのか?」


「この国といいやすか、どこでもそうでやすよ」

「世界中でか? またどうして?」


「そりゃ女の魅力は尻ですからね。そこを見えるか見えないかぐらいの感じでチラつかせてアピールしてるんでやすよ」


「女は尻がこの世界のスタンダードであったか。じゃあ乳はどうなんだ?」


「乳ですか? 乳に女の魅力なんて誰も感じやせんよ」


「な、なん・・・だと・・・?」


「あんなのは腹の贅肉と一緒でさあ。ですんで特に未婚の女たちは何とか小さくしよう小さく見せようと必死になりやす。服でギチギチに締め付けてる隠れ巨乳も珍しくありやせんです、はい」


 嘘だろ・・・今ほどここが異世界だと感じたことはかつてなかったわー。

  

「ああ、それで胸元の大きく開いた服を着てる女がいないのかぁ」

「そりゃ胸の贅肉をわざわざ見せて歩く女なんていやせんよ。いるとしたらよっぽど形の良い貧乳を自慢したい女だけでしょうね」


 つまり、この世界で女性が胸をアピールするケースは、スッキリした綺麗な腹を見せたいヘソ出しルックみたいなものか。


「そういえば、尻も小さいほうが魅力になるのか?」


「当たり前でやすよ。尻のでかい女なんざまるで男かオークみたいで萎え萎えでさあ」

 そ、そういうものなのか。

 俺は巨乳で豊満な女性がタイプだからまったく共感できないぜ。

 

「ふぅ、俺には理解できんな。ここの女性に対する美的センスが理想が・・・」

「理想の女なんてアレに決まってるじゃねえですか」

「そのアレってのはなんだ!?」


 メッチャ興味ある。早く、早く吐けっ。

 そう目で威圧するとギルマスはちょっと引き気味になって壁を指差した。


「そ、そこの壁に掛かってる絵です。それが女性美の基準スタンダード でやすよ」

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