第3話 グロリア司祭・・・あなたが嫁か?
「お待たせしました」ガチャ
俺の願望メーターが振り切ったのを計っていたかのように何かキタ!
「おお、待っておりましたぞ、グロリア司祭」
曇り顔を一瞬で晴れ晴れとした表情に変えて署長は司祭を迎え入れる。
「アレー様、こちらは教区司祭のグロリア殿です」
おおぅ、なんたる美貌! そして僧衣でも隠し切れない見事な凹凸。
もしかしてグロリアさん・・・
あなたが嫁か?
「荒井戸幾蔵、独身だ。くれぐれもよろしく」
「グロリアです。こちらこそよろしくお願いします」
「グロリア司祭は特別な奇跡をお持ちでしてな。それをアレー様の為に具現して頂きます」
「奇跡とは?」
「虚実神判の十字架ですぞ」
「つまり、嘘か真実かを見抜けるってことか?」
「その通りです。この奇跡が使えるのは人口30万を誇るこの都市アトレバテスでも僅か6人しかおりません」
「それは凄いですね。一目見た時から貴方は素晴らしい方だと俺には分かっていましたよ」
署長そっちのけで俺はグロリアさんを見つめて話しかける。
「過分なお言葉恐縮ですわ」
「つまり、これから貴方が俺の言葉をジャッジしてくれると言うことですね?」
「はい」
「アレー様を貴族として遇する為に必要な措置ですので何卒ご容赦ください」
署長が恐縮しまくってるが、もし俺が貴族じゃないとジャッジされたらどうなるんだろうな。
ま、それも天使のシナリオの内だろうから俺は成り行きにまかせるだけだ。
「それではグロリア殿、早速お願いできますか?」
「承知しました。アレー様、私のこの手を両手で包むように握って下さい」
グロリアさんは十字架をぶら下げたチェーンを巻き付けた右手を差し出す。
白くて艶々と張りのある綺麗な手だった。
思わずがっつく様に両手で握りしめて感触を楽しむように揉み揉みしてしまう。
「あぁ、綺麗なだけでなく、とても柔らかくてスベスベで触り心地抜群ですね。ずっとこうしていたい」
「まぁ、さすが貴族様ですわね。お若いのにとてもお口が上手でいらっしゃいます」
俺の完全なセクハラにもグロリアさんは動じることはなく、むしろ嬉しそうに微笑んでいた。
やっぱり貴方が俺の嫁なんですね!
俺の想いに応えるかのように、グロリアさんは右手を覆う俺の両手に左手を重ねる。最高だ。
「私が質問しますので、全て『はい』と答えて下さい」
「喜んで!」
「貴方の名前は、アレー・ド・イクゾーですか?」
「はい」
十字架がキラキラと輝き、やがて強い光を放った。
おおぅ、と周りで見ていた署長や警部補、署員たちから呻き声があがる。俺だって一緒に唸ったよ。初めて見る奇跡。ここが異世界だと実感するわ。
「若干、弱いですが、間違いなく真実です」
へぇ、本当に当たるんだな。
「貴方の国は、ジャパンですか?」
「はい」
今度はさっきよりもっと強く光った。
「これは完全に真実です」
「貴方は、ジャパンの貴族ですか?」
キタ! ここだ、ここが勝負どころだ。俺は無理くり自信をもって答えた。
「はいっ」
ムムム、十字架は光ってくれたが、いかにも弱々しい。
これはやっちまったか・・・
「これは、微妙ですが決して嘘ではないようです」
「ほほぅ、貴族は貴族でも下級や傍流といったところですかな?」
「そこまでは分かりかねます」
ホッ、かろうじてセーフか。
ボロが出ない内に次の質問に行ってもらわんと。
「働かずとも食っていける身分だったが、良い思い出はない。それ以上の詮索は勘弁してほしい」
実家寄生の無職素浪人。語るべきことは何もない。本当にもう聞かないでくれ。
「これは失礼しました。どうかお許しください」
「それでは続けさせて頂きます。貴方がこの街へ来たのは、嫁探しの為ですか?」
「はい」
今度はこれ以上ないってぐらい十字架は輝いた。
「かつてないほどの真実です」
そらそうよ。その為にネットもウォシュレットもなさそうなこの世界へ来たんだからな。
「貴方がこの街へ来たのは、天意によるものですか?」
「はい」
またしても十字架がマックスで輝きを放つ。
「「「「おおおおおおおおおおおおおおう!!」」」」
さっきよりも大きなどよめきが取調室の中に響き渡る。
警察の人間だけでなく、グロリアさんも驚愕で目を丸くしていた。そんな顔も素敵だよマイワイフ。
「もはやこれ以上の神判は必要ないと思いますが」
「そ、そうですな。これ以上は不必要というより不敬にあたりましょう」
「俺の身分詐称の疑いは晴れたということでいいのかな?」
「左様でございます。数々のご無礼申し訳ありませでした」
「いやいいんだ。俺の方こそ全裸で公園なんかに現れたのが悪いんだから」
「私個人からも質問させていただけますか?」
「もちろんです!」
「どのような状況から中央公園に現れることになったのですか?」
「うーん、死ぬような目に遭ったあとに黒い穴に放り込まれて、気付いたらあの場所に全裸で立っていたんですよ」
「今の話に嘘偽りはありませんか?」
「はい」
そして十字架が強い光を放つ。
実はまだグロリアさんの手を握ったままだったのだ。
彼女の方から離してと言われない限りいつまでも握っている所存である。
「転送の魔法具ですかな? 貴族同士の
署長が俺の話からそう推測した。
「その可能性はあります。しかし、天意によってこの街へ出現し伴侶を探しているのですから、そこまで物騒な事情ではないと思いますよ」
ご名答。もっとグダグダで低俗な事情です。サーセン。
「確かにそうですな。しかし困りました。他国の貴族のアレー様を今後どう処遇すべきか私の手には余ります」
「いえ、天意ですからこの南署に連れてこられたのも何か意味があるはずです。心当たりはありませんか?」
だから、ここにグロリアさんが来たことが、俺の嫁だという天使の計らいなんですって。署長なんて全く関係ないんですってばぁ。
「あ、肝心なことを忘れていました。心当たりありましたぞ!」
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