第75話 ラーデン印刷工房とギャル子の陰謀
「やるじゃんイクっち~、アタシまでビンビンになっちゃったわ~♬」
そう言いながら勃起した乳首をつまむ仕草をするがティアがエロ過ぎる件。
俺がジェローム司祭を華麗に攻略し、スチームカーで司祭館から出た途端に
老司祭の前では、敏腕秘書のようにキリッと姿勢良く座っていて、普段とのギャップに驚愕するほどだったのに……
「さっきはやたらと大人しかったな?」
「アタシは超有力パーティーのマネージャーだもの。交渉の席で失礼な真似なんてするわけないじゃな~い」
「へぇ、ちゃんとTPOをわきまえてるんだな。素直に見直したよ」
「アタシも見直したわ~。単独であの堅物司祭を討伐しちゃうんだから~♪」
いやあれは、堅物というより俗物司祭だったろ。
それに、どうやらギャル子は俺一人でどこまで出来るのか試すために、交渉中まったく口を挟まずに黙って見てたっぽいな。そして俺が失態を演じようものなら、爵位の件もチャラにしたかもしれん。ホント油断できないぜ。
「ていうか、頼むからハンドルから両手を離すのは止めてくれ」
命かけてまでエロ乳首ネタをぶっこんでくるビッチぶりが怖いわ。
「ま~たそんなこと言ってホントは嬉しいくせに♪」
「むぅ、たしかに嫌いではない」キリッ
だからついフェロモンに誘われ助手席に乗ってしまってるチョロい俺だった。
「あはっ、マジなんだ。胸の贅肉と肉豆に欲情とか変態こじらせすぎでしょ~♬」
それには異論反論山の如しだが今はスルーだ。ギャル子のエロトークはキリがないからな。だが俺が黙っていても意味は無かった模様。
「イクっち~、パンツの中で暴発する前に一本抜いとく?」
だからハンドルから手を離すな。卑猥な手つきをすんな。
「来週から嫌ってほど可愛がってやるから今は大人しくしててくれ」
「ふーん、どうして来週なのかにゃ~?」
それはお前が来週から危険日になるからだ。
ピーナからお前の生理期間の情報は得た。後はオギノ博士に賭ける!
「それは秘密だ。時と場所を選ばずにやりまくるから覚悟しておけよ」
「約束した野外プレイをしてくれるのね~。ティアちゃん感激ぃ~♬」
あぁ、中央公園全裸事件がバレた時に、そんな話もあったなぁ。
だが青空や星空の下での種付けは俺も望むところだ。レッツ・アオカン!
「とにかく、来週中には受精させるから爵位の件、忘れずに頼むぞ」
「了解ちゃ~ん♪」
軽っ。うーん、ホントに大丈夫なんかな。
貴族の爵位を買うには城が買えるほどの金が必要とか言ってたが、一体どこからそんな大金を用意するつもりなんだ?
まぁ今はそんなこと考えてる場合じゃないか。先にやることやらんと。
「次は印刷工房へ向かってくれ」
「教育委員長の方は後回しでいいの~?」
「ちょっとぐらい待たせてもいいだろ。それより早く贈呈品のサンプルが見たい」
「実はアタシも早く見たくてガマンの限界だったり♪」
ほぅ、それだけティアも期待してるってことか。つまり……
「俺がアイデアを渡した時、お前が言ってたことが実現しそうなんだな?」
「特許は厳しいかもだけど、実用新案権と意匠権は確実にイケそうよ~♬」
おおっ、細かいことはよく分からんが、要は
「もしかしたらとは思っちゃいたが、マジで嬉しい誤算だよ」
「なに言ってんの~。あんなスッゴイのが商売にならないわけないでしょ~」
「そう言われても、俺の世界、いや、祖国ではごくありふれた物だったからなぁ」
まさか、近世・近代レベルのこの世界に無いってのが予想外だったわ。
お陰で、銀行プレオープンの贈呈品は話題になりそうだ。あとは、印刷工房の職人がどれだけイイ感じに仕上げてくれるかだな。ホンマ頼むでー。
「あぁ、到着を心待ちにしてましたよ!お嬢様!」
お嬢様!?
印刷工房に到着し正面玄関から入って2秒で度肝を抜かれた。
まさかとは思うが、それは俺の隣にいるギャルビッチのことか……ゴクリ
「出迎えありがとう、ペーター」
そのまさかだ!
「…おい、仕事を有利に運ぶためかもしれんが、身分詐称は不味いだろ」
「イクっち~、これから商談なんだから冗談はホドホドにしときなさいよ♭」
いやいやいやいやいや、お前の方こそ冗談じゃすまんぞこれ。
「お嬢様、そちらの方は?」
「彼が噂のイクゾーよ」
「えっ、こんなにお若い方だったんですか……正直、驚きました」
俺もティアに対するお前の認識に絶賛ビックリ中だよ。
ともかく、自己紹介してから話を聞くしかないな。いろいろと。
「島国ジャパンから来た
「この工房の経営者ペーター・ラーデンです。どうかペーターとお呼び下さい」
へぇ、20代半ばの素朴な青年に見えるのにオーナーとは意外だな。
「こっちの歩きながら居眠りしてる女性がローラよ、挨拶はいらないわ」
「は、はぁ…」
さすがの青年実業家も下半身デブの奇怪な生物に戸惑いを隠せないようだ。
ここは
「依頼した贈呈品のサンプルが出来たと聞いたのだが?」
「はい!これがもう素晴らしくて一刻も早くお見せしたかったんですよ」
ムッフーという鼻息が聞こえてきそうなドヤ顔がそこにあった。
「それは楽しみね♪ 早速、見せてもうらおうかしら」
「もちろんです! ここは騒がしいですから二階の事務所へどうぞ」
ペーターは若い女性工員に贈呈品とお茶を運んでくるよう指示すると、俺たちを先導してギシギシと軋む年代物の階段を登り始めた。
「イイッ!イイわぁあああ!想像以上の出来栄えよ~~~♬」
かしこまった態度のペーターから手渡された贈呈品を、鋭い目つきで検分していたティアが感極まったエロい声で絶賛した。
俺もギャル子の横に座って一緒に見ていたのだが、その感想も一緒だ。
想像してたよりも3倍ワンダホーな仕上がりに感動したっ。
「いや、これはマジで最高だよ」
ここまで綺麗に出来るなんてこの世界の印刷屋を舐めてたわ。
「ありがとうございます。私も素晴らしい仕事ができて最高の気分です」
「本当に素晴らしい仕事だ。改めて礼を言おう。ご苦労だったな」
本心からの思いを口にしたら、速攻でペーターから想定外の反論が来た。
「素晴らしいのは私じゃなくて、貴方ですよ!」
「んんん……どーゆーこと?」
「貴方のアイデアが秀逸なんです!私なんてそれを形にしたに過ぎません!」
「お、おぅ…」
メッチャ早口で称賛と謙遜をまくし立てられて戸惑うしかない俺だった。
「イクっちはどっかズレるのよね~、もっと誇ってイイのに~♬」
いや、さすがにこの状況でドヤ顔はできんわ。だってコレただの──
「そうですよ!貴方はカレンダーの概念をぶち壊したんですから!!」
そう、これってただの『月めくりカレンダー』なのよね。
「まず、カレンダーを月ごとに分けるという発想が凄いです」
この世界のカレンダーはポスターみたいな一枚ものばかりのようだ。
俺はまだセクスエルム・シスターズの家やギルドぐらいでしか見たことないんだが、上半分がイラストで下半分が暦になってて、ひと月の日付が縦一列に並ぶ形式だった。
日付の右横には曜日の頭文字、さらにその横にその日に関連する一人の聖人か偉人の名前があるだけで質素極まりない。
「しかも、下部の暦を週ごと6段の表にし、一日の部分に大きなスペースを取って予定を書き込めるようにするなんて、まさに天才的な閃きですよねぇ」
えー、フツーは誰か思いつくだろぉぉぉ。
この世界の業界人は何やってたの?
代わり映えしないカレンダーを毎年作って何の疑問も湧かないとかアホやん。
うわっ、尊敬と興奮を混ぜた表情で俺を見つめるペーターの視線が痛すぎるぅ。
「さらに、半分に折りたたんで本のように仕立て、ページをめくると次の月が現れるというアイデアはもう突き抜け過ぎてて……ため息しかでません。フゥ~」
もうホメ殺しは止めてくれないか!
1+1は2と答えただけで褒め千切られてるかのような居たたまれなさがマジ辛すぎて、ため息しかでんわ……ハァ~。
『銀行で配る粗品とくれば、カレンダーだろ』
という、単なる思い付きで始めた企画だったんだがなぁ。
それがこの世界では、大絶賛されるほどの革新的なアイデアになるなんて想定外にも程があるわ。これまた、勝機&商機で嬉しい誤算でもあるが。
ともかく、これ以上ペーターに羞恥心を試されるのは堪らんち。
ここは俺から話を切り出して主導権を奪い返すしかない。ない。
「この試作品は文句なしに合格だ。あとは三日後の銀行プレオープンまでに300部用意してもらわなきゃならんのだが、ちゃんと間に合うのかな?」
「はい。明日中には余裕で揃えられます」
見たところ小規模のオンボロ工房なんだが本当に大丈夫か。ちと心配だな。
「イクっち~、ペーターに任せておけば間違いないって」
不安が顔に出てたのか、ティアに肩をバンバン叩かれながら励まされた。
しかし、その自信と信頼は一体どこから来てるんだよ。
「ティアがこの工房を選んだのはなぜだ?」
「信用できる知人からの情報よ♪」
ほぅ、この町に引っ越して間もないティアたちに多くの知人はいないはずだ。
となると、ギルマス……は無いな。アイリーンか他のギルド幹部か。
エマ繋がりでこの町の聖職者という伝手もあるかもな。
そんな事を考えていたら、工房主から驚きの解答が寄せられた。
「伯爵様の紹介状を持参された時は本当に仰天しました」
は、伯爵ぅぅぅうううううう!?
そうだった、コイツ貴族と繋がってるんだった。きっと性的な意味でも。
だが援助交際の相手が伯爵なんて雲の上の存在とは思わんかったわ。
でもこれでペーターがこのビッチをお嬢様と読んでる理由が分かった。
そりゃ特権階級の上の方と繋がってる女が来たら気を使うよな。
ふぅ、ティアが身分詐称して取引先を騙してなくて良かったぞい。
「まぁ、伯爵に教えてもらったのは別の工房だったんだけどね~」
「へっ、そりゃどういうことだ?」
「この町で一番大きいカクストン印刷工房なら確かだろうって言われてたのよ」
「じゃあ、なんでそこに依頼しなかったんだ?」
「そりゃ本当に大きくて工員もたくさんいたからでしょ」
ギャル子……君が何を言ってるかわからないYO!
「お嬢様は、秘密漏洩を避けたかったんですよね」
なるほど。そーゆーことか。
この月めくりカレンダーが斬新なアイデアで金になるということであれば、工員から情報が洩れてパクられるのは最悪の事態だもんな。工員が大勢いる大工房はそのぶんリスクが高まる。それで工員が数名しかいないこの小工房というわけか。
「さすがペーターは分かってるわね。それに比べてイクっちときたら~♭」
仰る通りだからその
「実は、そのカクストン工房の親方が私の師匠なんですよ」
「それでこの工房に繋がるわけか」
「ヨハン親方に他の工房が良いと言ったらここを紹介してくれたわ~」
「お前よくそんなこと言えるなー。親方は気を悪くしたんじゃないか?」
それでもちゃんと別の工房を紹介してくれるヨハン親方の心の広さよ。
「小さな仕事でこの立派な工房に相応しくないからってフォローはしたわよ~」
へぇ、やっぱり交渉ごとでは
「そんな事情でも無ければ、田舎町でも最小規模の工房にこんな素晴らしい仕事の依頼が回ってきたりはしませんよね」
これまでずっと笑顔だったペーターの表情に初めて影が落ちていた。
「アタシはちゃんと最初にチラシの仕事で技術レベルと信用度をテストしたわよ。それに合格したからカレンダーの仕事も依頼したの。もっと自信持ちなさ~い」
あ、銀行オープンの告知チラシもあったな。すっかり忘れてた。
「職人としては絶対的な自信があるのですが、経営者としては……」
「独立してまだ1年なんだから仕方ないじゃな~い」
そりゃホント仕方ないな。工房運営なんて職人とは真逆の能力が必要だし。
「だから、イクゾーさんの大胆で自由な発想力が羨ましいです」
またホメ殺しに戻るんかーい。
隙あらば俺の羞恥心を刺激してきやがる。とっとと話題を変えよう。
「経営者としては未知数かもしれんが、ティアが技術と人柄を認めた職人なら俺も信用することにしよう。そこでだ、次の大きな仕事もお前に任せたい」
「ありがとうございます!」
大きな仕事と聞いて目付きが変わったな。マジで経営が苦しいのかもしれん。
「これは月めくりカレンダーより遥かに大規模なビジネスになるわよ~♪」
「えっ、そこまでスケールの大きい事業なのですか……」
今度は一転して腰が引けたな。ま、こんな小さな工房の経営者じゃ無理もない。
「不安か?」
「……正直、私の工房ではそんな仕事を
「それなら、新しく大きな印刷工房を作って人も増やせばいい」
「その資金がありません」
「資金なら、お前がチラシを作った銀行から借りればいい」
「ろくな実績も担保も無い小さな印刷工房には貸してくれません」
「それはない。ギルド銀行は必ずお前に融資してくれる」
「それこそ有り得えません。どうして銀行がこんな若造に金を出すんです?」
「俺が保証人になるからだ」ドンッ
「な……本気で言ってるんですか……!?」
「もちろんだ。商談中にそんな笑えないジョークは言わん」
「しかし、何故です? どうして私にそこまでしてくれるんですか?」
「さっき言っただろ、お前を信用すると。俺はティアの人を見る目を信じる」
「あはっ、イクっちがカッコ良すぎてまた濡れちゃうわぁんっ♬」
褒めてくれるのは嬉しいがギャルビッチの素が出ちゃってるぞ。自重しろ。
「そして何より、お前の作った贈呈品の出来栄えに感動した己の心を信じる」
「イクゾーさん……分かりました。必ず貴方の期待に応えてみせます!」
よし、ハートに火がついて目まで燃え上がっている。
これなら俺の事業を任せても大丈夫そうだ。
あとは具体的な部分を相談しておくか。
「早速、次の仕事の話をさせてもらうぞ」
「心して聞かせて頂きます」
「ペーター、俺はな、絵本を作って出版するつもりだ」
「絵本とは?」
予想通りのリアクションが返ってきたので、俺も予定通りの説明をした。
さすが印刷職人だけあってペーターは直ぐに絵本の将来性を感じ取る。
そして、また俺をホメ殺しに来る気配がビンビン伝わってきたので、やらせはせんと鞄からブツを取り出し先手を打った。
「これが、絵本『ウェラウニの笛吹き男』の
「拝見します」
そう言って両手で受け取った印刷工房主は、見事な水彩画に目を輝かせ、17枚の草案を貪るように堪能すると、ほぅ~と大きく息を吐いてしばし余韻に浸った。
「幼児向けに本を作るなんて……まさに天才の着想ですね」
またか…もう好きにしてくれ。いくらでも褒めろ称えろ崇拝しろ。俺様を!
「本とは決して大人だけのものではない。凡人にはそれが分からんのだよ」
「あぁ…カレンダーだけじゃなく、本の概念までぶち壊すなんて……」
「おいおい、この程度で感極まっていたら俺の秘策を聞いた時に心臓が止まるぞ」
「このうえまだ秘策がある……ですってぇ……ゴクリ」
「今お前が手にしているのは標準的な絵本でしかない。それでもそこそこ売れるだろうが、もっと爆発的に売れる絵本のアイデアが3つ以上ある」
「一体それはどういうものなんですか!?」
ペーターは椅子から腰を浮かせて前のめりになって訊いてきた。
砂漠で水を乞うような必死な顔がちと怖い。
「今はまだ言えん。文字通り秘策だからな」
「い、いつ、いつ私に教えて頂けるんですかっ?」
「お前が大きな新工房を建てて生産体制が十分に整った時だ」
おあずけを喰らった若い経営者は口をパクパクさせながら俺とティアの顔を交互に見ていたが、観念したようにドサッと腰を下ろして天を仰いだ。
「当然ですよね。この段階で秘密が漏れたら取り返しがつきませんから」
「そういうことだ。悪く思わんでくれ」
「いえ、その秘策を私に託して頂けることに感謝しかありません」
「うむ、一刻も早く新工房を完成させて秘策に取り掛かってくれ」
「はい!」
元気良く返事をしたペーターと満足顔の俺が頷きあっていると、ギャル子が水を差すように疑問を呈してきた。
「でも大きな工房を建てられる立地条件の良い場所がないよね~」
確かにこの町の職人街に大きな空き地・空き工房は無かった。
住宅街には広い空き地がいくつかあるのだが、そこに工房を建てたら騒音や異臭でトラブル必至だし、そもそも建設の許可がおりないだろう。
ペーターもそれを分かっていたのか、一転して沈痛な面持ちになった。
だがそれは杞憂というものだぞ。
だって、俺はもうとっくに解決案を考えているからな!
とういか、この町を発展させて
そう、この町の外へと人を、家を、職場を、いや全てを拡張させるのだ。
ペーターよ、お前にはその先駆けとなってもらおう。
「問題ない。新工房は
「アウターに!?」
「水路の外側ってイクっち本気なの~」
「本気どころか、これはもう決定事項だ」
「しかし、アウターでは何が起こるか分かりません。そんな場所に……」
「そうねぇ。魔獣が襲ってきて死人が出るか、ギャングが襲撃してきて金目の物を奪われるか、夜にスパイが侵入して極秘資料を盗まれるか……ホントもう悪い予感しかしないわ~♬」
そう言いながらティアは顔を紅潮させ身悶えしていた。
不幸を想像しながら興奮するとかギャルビッチの業が深すぎて怖いぜ。
「心配するな。安全対策はすでに考えてある」
「一体どのような対策を?」
「あ、分かった~♪ エマ道場の横に建てて弟子の冒険者たちにタダで守らせるつもりなんでしょ~。さすがイクっち、姑息であくどいわ~♪」ニヤニヤ
お、なかなか鋭い読みをするじゃないか。
だが残念、ハズレだ。
印刷工房だけならそれでも良かったが、俺はもっと先を見てるからな。
でも今は、適当に誤魔化しておこう。
「ま、そんな感じかな」
「近くにアタシたちの家もあるから戦力は十分だもんね~♪」
「セクスエルム・シスターズと有望な若手冒険者たちが周りを固めて下さるなら、安心して仕事に打ち込めます!」
いや、そうはならないんだが……
なんか騙してるみたいで心苦しくなってきたわ。
今日はもうこの辺で退散するとしよう。
「贈呈品の仕上がりを確認するだけのつもりが、つい長居して悪かったな」
「とんでもありません。とても有意義で有難い時間でした」
「そういえば次の予定がまだあったわね。そろそろお
あ、教育委員長を懐柔しに行かなきゃだわ。俺も忘れてたわ。
よし、頭を切り替えて次へ向かうとするか。
「今日はこれで失礼する。今後もよろしく頼む」
俺は立ち上がって右手を差し出した。
「こちらこそ宜しくお願いします」
ペーターもすぐに立ち上がり俺の手をガッチリと握りしめた。
その若さに似合わず熟練の職人を思わせる堅くて熱い手だった。
「じゃあ月めくりカレンダーの納品の時にまたね~♪」
「はい、お嬢様。伯爵様には私が心から感謝していたとお伝えください」
「あの人には来週会うつもりだからちゃんと伝えておくわ~」
来週!?
ちょっと待て。来週と言えばお前との妊活強化週間じゃないか。
その最中に伯爵に会うって……要は援助交際してくるってことだよな…………
あ、あああ、ああああああああああああああああああああ!!!
こいつ、伯爵をハメるつもりだっっっっっ。
このビッチが俺に爵位を買ってくれるために出した条件。
それは、三カ月以内に孕ませることだった。
この期限は、きっと伯爵との援助交際の期間なんだ。
その間に俺の子種で妊娠しようとしてやがる。つまり……
俺の子を伯爵の子だと騙して
それで爵位をぶんどる計画だったのかよ。
いくらなんでも無茶が過ぎるだろお前。
下手したら俺らだけじゃなくてエマたちの首まで飛ぶぞ。
ヤバイヤバイヤバイヤバイッ!!
後でキッチリ問い詰めないとダメな案件だわこれ。
あぁ……得体の知れん女だとは思っちゃいたが、まさかこれほどのモンスターだったとは。これほど超ド級の地雷物件だったとは。
この世界の死刑って打ち首かな、首つりかな……アハハ、アハハハハハ……
俺はグルグル回る目を手で押さえてクラクラする頭を支えながら工房を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます