第9話 エマ司祭の秘め事ぽろぽろ
「ワタクシの胸のサイズは・・・3シャーク6スーンですわ」
ズコーッ!
そんな単位知らんがな。
シャークってなんだよシャークって。
3シャークはサメ3頭分だとでも言うのか?
確かにそれだけの戦闘力は持ってるよ、エマさんの魔乳は。
ホント半端ないよ。
でもさぁ、メチャクチャ期待したのにこれはない。絶対ない。
というわけで、俺には未知の単位を問いただす必要がある。絶対ある。
「シャークというのはどのぐらいの長さですか?」
「え、ご存じありませんの!?」
乙女には耐えがたい告白で恥辱に身を震わせていたエマさんが助かったという表情で安堵の吐息を漏らす。
「これが1シャーク物差しですヨ」
うわっ、何の気配もしなかったのにローラが真横に立ってた。
この娘って4人の中では一番ポヤっとした天然ぽい雰囲気なのにとてつもない俊敏性を秘めてたんだな。
さすが女冒険者。侮ると喰われる。気を付けよう。
そして今は何より持ってきてくれた物差しに感謝しよう。
「ありがとう。ちょっとお借りしますね」
手に取ると何の変哲もない木製の定規だったが妙にノスタルジーを感じる。
あっ、これアレだわ。
小学校の時に使ってた30センチ物差しとそっくりなんだよ!
よく見れば両側に目盛りがついていて片側は1から10までだけど、もう片方には1から30まで目盛りが降られてる。
これってやっぱり30センチ物差しじゃん。
「こちらの30まである目盛りは?」
エマさんは余計なことはするなとローラを怖い顔で睨んでいたので、平然と隣に立っているそのローラに訊いてみた。
「それはメトリック法の目盛りデスね」
メトリック法!
この世界でもメトリック法が使われているのか・・・
これはどういうことだ?
いくつか思い当たることはあるがどれも推測の域を出ない。
この意味は後でじっくりと考えたほうがいいな。
今は怪しまれない程度に情報を集めてみよう。
「メトリック法はあまり使われてないんですか?」
「機械とか工業製品ではそっちがよく使われてマスね。日常で使うのはシャーカーン法が一般的デスよ」
へぇ~、そんな棲み分けが出来てるのか。
この世界は中世よりも、近世・近代の生活水準に見えるが、それを支えている工業製品にメトリック法が使用されてるとなると大方の予想はつくな。
後はいつ頃から使われているのかを訊くべきだろう。
「メトリック法が導入されたのはいつですか?」
「それは知らないのデス」
そう言ったローラはいつの間にか早業で自分の席に座って肉を頬張っていた。
仕方ないので、エマさんに教えてくださいと目でお願いする。
「ワタクシもハッキリとは存じません。少なくとも数百年は前のことですので」
そんなに昔のことなのか。
「ただ、救国の英雄にして名宰相だったロビン・モアが導入したという説が有力ですわ」
「いつの時代の方ですか?」
「およそ300年前になりますわね」
それでは既に生きてはいないな。
同年代だったら会って話を聞きたかったんだが。
「でも、ハッキリ分かることがありマス」
お、珍しくローラが有意義な情報をくれようとしている。
俺はぜひ聞きたいという顔で彼女に続きを促した。
「エマさんのオッパイは、メトリック法では108センチなのデス」
・・・メーター越え・・・だと・・・?
これが数の暴力というやつか!
見た目はさっきまでと同じなのに破壊力が跳ね上がったぜぇ。
ゴクリンコ。
俺は生唾を飲みながらエマさんの魔乳から目が離せなくなってしまう。
嫁候補筆頭はその視線に耐えられなくなったようだ。
「もうその話題はお仕舞です! ローラ、これ以上言うなら肉断ちですわよ」
「ゴメンなさ~い。もう言わないのデス」
やたら素直なローラだった。ただのお調子者っぽい。
まぁ残念だけど今回はそろそろ潮時か。
魔乳についてはまたの機会に語り合おう。
エマさん本人と二人きりで。ムフ
「ちょっと待ちなさいよ」
え、終わりかと思ったらまだ続くの?
「ヴィー、この話はもう終わりだと言っているのです」
俺の左側近くに座る女の名はヴィーというのか。
そのヴィーとエマさんがバチバチッと視線を交え火花を飛ばし合う。
「婿に嘘でアピールするのはご法度だったはずよ」
「な、ワタクシの言葉に嘘偽りなどありませんわ!」
「アンタの胸が3シャーク6スーンなんてありえないでしょ」
「くっ・・・」
またまたエマさんが苦悶の表情で唇を噛んでらっしゃる。
ということは、まさか・・・
「本当は4シャークなんでしょ。ズバリ当たりかしら?」
4シャーク!
全くピンとこないが、とにかくすごいパワーワードだ。
で、それって何センチなんだよ? 誰か今すぐ教えてくれ。
「メトリック法では120センチなのデス」
ローラ
しかし、120cmとかマジっすかぁぁぁ。
もうこれ、オッパイが本体じゃん。
本当に最高だなエマさん。レイラさんにちょっと浮気したけどやっぱりエマさんしかいないわ。
絶対に俺の乳に、いや、嫁にしないと。
「か、体の調子が良い時は108cmですわ。だから虚偽ではありません!」
えー、体調でそんなにサイズが変わるもんなん。まさに女体の神秘ぃ。
「フーン、まぁその点は勘弁してあげるわ。でもアレは隠し通すつもり?」
おいおい嘘だろ。
エマさんの魔乳にはまだ他に秘密があるっていうのか?
「そ、それはまだ話す段階ではありませんわ。アレー様とは今日知り合ったばかりですのよ。お互いにもっと親密になってから打ち明ける領域の案件ですもの・・・」
一体どんな領域なのか激しく気になるが話に割り込む隙が無い。
「それは違うんじゃない。親密になった後に教えられた方がショックは大きいんじゃないかしら」
「余計なお世話ですわ。これはワタクシとアレー様の問題です」
「フン、まぁいいわ。そうなった方が面白いものが見れそうだもの。ククク」
結局、何の話かサッパリだったがヴィーの性格が捻くれてるのはよく分かった。
「彼のグラスが空になってるわよ。注いであげたら?」
ヴィーに言われて気付いたことが悔しそうな表情を見せてからエマさんがブランデーの瓶を手に取り俺に差し向ける。
「アレー様、どうぞ」
正直、酒はもう十分だったがこの空気で断る勇気なんてない。
俺はありがとうと言ってグラスを差し出した。
ところが、瓶を持つエマさんの手元が心なしか震えている。
もしかしてかなり酔ってるのか?
そう思ったのもつかの間、ブランデーがグラスと俺の手の両方に注がれ始めた。
うわっと俺が声をあげると、エマさんも失態に気付き瓶を立て直す。
「申し訳ありません! 今すぐお拭きしますわ」
立ち上がり俺のそばまで来てナプキンで手を拭いてくれる。
しかも当たってる。というか押し付けられてる。密着感がたまらん。
「あらあら、若い男を前にして見栄を張るからそうなるんじゃないのかしらぁ」
まるでこうなることを予想していたようなヴィーの突っ込み。
見栄を張るとかまだ何か言いたいことがありそうだな。
YOU、じれったいからさっさと全部バラしちゃいなYO!
「肉に損害が出る前に暴露するべきなのデス」
「いつまでも隠しておけませんよ」
「くっ・・・」
うーん、このパターン既に何回目だったかなぁ。
よくもまあ次から次へと秘め事がポロポロ出て来るもんだ。
でも少々のことなら全て受け入れるから素直にゲロってくださいエマさん。
乳のデカいは七難隠すと偉い人も言ってますよ。
だが、エマさんは白状するのではなくポケットに手を入れ何かを取り出した。
そしてそれを顔に装着した。え、それって・・・
メガネかーい!
つまり、エマさんは目が悪いのを俺に知られたくなかったってこと?
そんなの別に隠すことじゃないのに。
むしろ、魔乳のうえに眼鏡っ娘とか惚れ直したわ。
一体どんな欠陥があるのかと思ったら、まさかのご褒美だなんて嬉しい誤算だよ。
「メガネなんて隠すようなことじゃないですよ」
「ありがとうございます。ですが慰めなんて要りませんわ」
ついにエマさんは俺にまで意固地になっておられる。どうしたものか。
こういう時こそパーティーの仲間の出番だろうにポンコツ揃いだからなぁ。
ヴィーは敵、レイラさんは頭少女、残るは天然ローラだけか・・・
仕方ない、ローラよ、何かフォローしろ。
俺がそう目で合図すると、ローラは任せてとばかりに満面の笑顔で言った。
「エマさんは、魔力が全部オッパイに行ってるんで仕方ないですネ」
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