第65話 ドワーフが作ったミスリル製の・・・

「もらってきましたヨ。お婿様の言うチート装備というやつデス」


 早っっっっっ!!

 やっと鶏が鳴き始める時間だってのにもう取引を済ませてきたのか。

 いや、今はそんなことに感心してる場合じゃねー。

 肝心のチート装備をこの目であらためなくては!


「俺の部屋に行こう」

 エマを起こさないように静かにベッドから降りて忍び足で廊下に出ると、はやる心を抑えながらあえてゆっくりと歩を進める。

 知らず息が荒くなっていた。熱い鼓動がそうさせるのだ。

 あぁ、ドキワクが止まらねー。


「それでは、拝見させていただこう」

 自分の部屋の応接セットに座り、対面に腰かけたローラを見つめる。

 闇エルフは得意満面といった顔をしていた。

 よほどこの取引の成果に自信があるのだろう。

 これはマジで期待できるんじゃね。だって見てよこの特大の宝箱。


「驚きすぎて腰だけじゃなく魂まで抜かれないようにするのデス」

 横幅1m、奥行き60cm、高さ80cmぐらいの見事な装飾が施された木箱に、ローラは手をかけながら俺に忠告をしてきた。

 おいおい、どこまで俺をワクワクさせるつもりだよ。

 この大きさだと、剣というよりも、鎧か盾かもしれないな。

 魔獣を倒すよりも無事に不帰の森に辿り着きたい俺にはその方が有り難い。


「恐らく、俺の身を護ってくれるチートな防具なんじゃないか?」

「さすがお婿様、察しが良いのデス」

「やっぱりそうか。そしてドワーフというとお約束のミスリル製だな」

「そこまで当てられると逆につまらないのデス」

 それはスマンかった。

 だけど実物を見れば素で衝撃のリアクションをしてやるから任せとけ。


「悪かったな。でも早く見せてくれ。もう我慢できん」

「フフフ、しょうがないですネ」

 ローラは宝箱の蓋をパカンと開けてゆっくりと持ち上げる。

 そして箱の中身を取り出すと俺の目の前に丁重に両手で差し出した。

「お待たせしまシタ。これがドワーフのゲンさんが魂を込めて作った・・・」 


「ミスリルのロンTデス!」


 ロンT!?


 え、えええ、ええええぇぇぇぇえええええええええ。

 だって、あのドワーフが伝説の金属で作った防具なんだよ。

 どう考えても普通は鎧か盾だろ!

 なんでロングTシャツなんてカジュアルなファッションになっちゃうの?


「だから注意しておいたのデス」ニヤニヤ

 ちげーよ。魂が抜かれたんじゃねーよ。

 呆れてものが言えずに固まってただけだわ。


「ミ、ミスリルの防具といえば、鎧か盾なのでは?」ゴゴゴ

「これだから素人は困るのデス」

「はぃぃぃい?」

「体力ゼロのお婿様が鎧や盾を装備したら5分と歩けませんヨ」

 あっっっ、その通りだわ。何で気付かんかった。アホ過ぎる。

 ちょっとチート装備ドリームで有頂天になってたわ。反省反省。


「返す言葉もない。正直スマンかった」


「過ちを認められるのは見所がありマス。今後も精進すると良いデス」キリッ

「くっ・・・そのミスリルのロンTだが防御力は確かなんだろうな」

「ミスリルの奇術師と謳われるゲンさんの腕を信じるのデス」

 そんなん知らんわ。

 ま、とにかく実験するしかないか。 

 寝間着を脱ぎ捨てパンイチになった俺はミスリルのロンTを装備した。

 へぇ、肌触りが絹のように優しくて心地良いわ。


 ガリガリガリガリ ズン ズン


 ちょ、ローラお前、何してくれちゃってんの!?

 テーブルの果物かごに置いてあったナイフでいきなり切られた刺された。

 でも、全然痛くねえ。てことは怪我もしてねえ。

 

「これは凄いな」

 他に言葉が出なかった。

「当然ですヨ」ムッフー

 鼻息を荒くするだけの代物ではあるな。マジでイケる。

 これを着ていれば急所の心臓と腹を確実に護ってくれそうだ。

 となると、もう一つの急所である頭を護る防具も欲しいな。


「お婿様の考えていることぐらい、ちゃんと分かってますヨ」ニヤリ

 え、お前まさか、ミスリルのヘルメットまでゲットしてきてくれたのか?

 いや、これまでの流れだと重さを考慮してミスリルの帽子かもしれん。

 何れにせよ頭部の防具はヨダレが出るほど欲しい!


「一番護らないといけない部分の防具もちゃんと貰ってきたのデス」

 マジかぁ。怖いぐらい有能なトレーダーぶりだ。

「ローラがこんなに頼もしく感じたことはかつて無かったぞ」

「これを見てもっと褒め称えるといいデス」

 闇エルフは宝箱から新たな防具を取り出して俺に捧げてくれる。

 ん、んんん、これ、なんか違う・・・


「ミスリルの網タイツなのデス」

 何でやねん!

 護らなきゃならん最大の弱点は頭だろー。

 どうしてタイツ? ねえどうして?

 あ、俺の知らない文化が奴らにはあるってことかもしれん。


「ドワーフはこれを頭にかぶるのか?」

「ちょっと何を言ってるか分からないですネ」

 訳が分からんのは俺のほうじゃい。

「これでどうやって一番護るべき急所を防御すると言うのだ」

「穿けば良いと思いますケド」

「穿く?」

「それでお婿様の大事な肉棒と肉玉は護られるのデス」

 そこかーい!

 いや確かに大事だけど、急所だけど。

 まぁ有り難く頂戴しておこう。俺の逸物いちもつはもう俺だけものじゃないしな。

 ここに何かあったらエマも悲しむ。


「ローラGJグッジョブ

「ゲンさんを説得するのは本当に大変でシタ」

「よくあの少量のフレッシュチーズで二つも防具を貰ってこれたな」

「一つは前渡しなのデス」

「てことは、母乳チーズのおかわりを所望しているのか」

「そうデス」

「よほどエマチーズが気に入ったようだな」

「酒を飲むのも忘れて鬼気迫る顔で平らげてましたネ」

 そうだろうそうだろう。

 あれを食べたらもう二度と他のチーズでは満足できない筈だ。


「柔らかいのだけでなく固いチーズも作ってくれと言ってまシタ」

「固いチーズを渡せばまた何かくれるという話だな」

「そうなりますネ」

 それは楽しみだ。源さんからも搾れるだけ搾り取ってやるぞぉ。

 その為にも、またタップリとエマの乳を搾ってやらねばな。ムフ


「しかし、こんな早朝に戻ってくるなんて、もしかして徹夜したのか?」

「昨日の深夜に出かけてゲンさんに夜なべして作ってもらいまシタ」

「それは大変だったな。今から少しでも休んでくれ」

「平気ですヨ。私は普段から夜に寝たりしませんカラ」

 ダークエルフは眠らない。なんかカッケー。

 いや、ちょっと待て、お前は隙あらば居眠りしてるじゃないか。至る所で。


「でもギルドとか人の部屋とかで居眠りしてるよな?」

「昼寝は別腹なのデス」

 意味わかんねーよ。

 あ、闇エルフだけに夜行性の生物なのか。

 それで昼にちょいちょい寝てるのかもしれんな。

 ともかく、今回は文句なしに大活躍してくれた。

 素直に称賛して礼を言っておこう。今後の為にも。


「ローラ、ありがとうな。本当に素晴らしい仕事ぶりだ」

「感謝の言葉より肉がほしいのデス」

「期待してくれ。凄い肉を見つけてくる」

「いえ、そのミスリルを着たお婿様がクエストで倒した獲物がいいのデス」

「だが、俺では大したものは獲れんぞ」

「お婿様が自ら狩ってくれた肉なら私にとって最高のご馳走なのデス」

 ローラ・・・泣かせること言うじゃないか。

 不覚にもホロっときたぞ。

 俺は潤んだ目で闇エルフを見つめながら、うんうんと頷いた。


「むろんゴブリンとネズミ系はNGデス。肉仙人の私の舌には耐えられまセン」

 俺は乾いた目で闇エルフを見つめながら、はいはいと頷いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る