第56話 ナンパ大作戦!
「黒い噂の絶えない悪徳工場・・・でございますか?」
打ち合わせが終わり帰って行ったピーター親方とトーヤ記者の去った署長室で、俺は目下急務となった家出少女探しのための情報を求めた。
きっとそこにいる筈なのだ。捜索依頼を出されている美少女が。
「田舎から出てきた初心な若者たちを食い物にしているような工場だ」
「納品詐欺や脱税ではなく、そういう意味でしたか」
「そうだ。従業員の扱いが極悪なら、詐欺や脱税もやってるとは思うが」
「それですと、ダボンヌ製糸工場でしょうな」
「どんな噂が立っているのか教えてくれ」
「地方の農村から出てきた右も左も分からぬ新成人たちに酷い雇用契約にサインさせ、劣悪な条件で働かせているという話を耳にしたことがあります」
むぅ、やはりいたか。情弱を騙して生き血を吸い取る鬼が。
「警察は捜査しないのか?」
「雇用契約のトラブルですと民事ですので我々は動けないのですよ」
「民事不介入か」
「はい、更にそういった若者たちは訳アリも多く、悪条件を承知で働いていますので、逃げることも訴え出ることもしないのが現状です」
「つまり、諸事情で田舎に帰れない者がいるわけだ」
家出して帰るに帰れない美少女とかな。ムフ
「本当に可哀相そうなことですなあ」
よし、間違いないだろ。その工場に失踪者がいるのは。
「その工場の住所が知りたい。可能であれば社員名簿も欲しい」
「名簿は難しいかと思いますが、住所でしたら直ぐにお渡しできます」
「頼む」
「アレー様、目的をお尋ねしても宜しいでしょうか?」
ふむ、署長には話しても大丈夫か。悪いことをするわけじゃないしな。
「捜索依頼の出ている失踪者を探しているのだ」
「なんと! そういうことであれば私共も協力を惜しみませんぞ」
「どういうことだ?」
「失踪者の捜索はもともと警察の仕事なのです」
「言われてみればそうだな」
「しかし、慢性的な人手不足の為にギルドへ丸投げしているのですよ」
「そういうことだったか」
「ただ、ギルドの方でも失踪者の捜索は『労多くして益少なし』な依頼ですので、冒険者たちが受けようとしないのが現状です」
捜索依頼の成功報酬が少ないのは知ってるさ。
だが俺は金よりもクエスト達成の功績ポイントが欲しいだけだから良いのだ。
「金より大事なものがある。俺はそう思い密かに動いているのだ」
「さすが貴族でございますなぁ。ノブレス・オブリッジ。感服致しました」
「善行は人知れずするものだ。俺が捜索していることは内密にな」
「ははっ、委細承知いたしましてございます」
うむ、家出美少女探しはこれで目途が付いたな。
一息入れようと既に温くなった紅茶をグイッと飲み干していると、署長が自分の机から書類の束を持ってきてテーブルに置いた。
「ご覧ください。今月回ってきた失踪届だけでこれほどございます」
40人分ぐらいはありそうだな。こりゃ大変だ。
「ウェラウニのギルドにいる駆け出しの冒険者が言っていたが、単に田舎暮らしが嫌であてもなく都会に飛び出す無鉄砲な新成人が増えているそうだな」
「その通りなのですよ。12歳の成人ならまだしも、未成年の内から都会へ出て来てしまう愚か者までいる始末です。嘆かわしいですなあ」
アホは始末に負えんな。他人の迷惑なんて何も考えちゃいねえ。
自分なら何とかなるなんて根拠の無い自信で突き進みやがる。
「噂をすれば、この男も11歳で家出をして村を飛び出しておりますよ」
署長が一枚の失踪届を俺の方に向きを変えて前へ出した。
俺は文字がほとんど読めんので意味ないんだが・・・ん、んんん?
この名前の文字は見覚えがある!
たしか・・・ルークの名前がこれだったような・・・ま、まさかな。
「署長、このルークという男、出身の村は何と書いてある」
「ファルザーク村です」
ファルザーク小の恋泥棒!
「こ、この男は現在、何歳になるのかな?」
「二年前に失踪しておりますから、13歳になりましょう」
ビンゴ!
もう奴に間違いない。
だが、きっと何か家出せざるを得ない深い事情があったんだろう。
「失踪理由について何か書いてあるか?」
「ぷぷっ、『都会でビッグになってやる』と周囲に言っていぷふぉぉぉっ」
く、苦しいぃ、そんなん俺でも笑うわ。くっそ、こんなことでぇぇ。
ル、ルークぅぅぅ、お前、ほんま何やってんのぉ?
『田舎暮らしが嫌であてもなく都会に飛び出す奴』って自分のことじゃねーか。
そんでこれ、どうしたらいいの俺?
マジでお前の捜索依頼達成して冒険者ランク昇格の肥やしにしたるぞ・・・
「このルークという男、俺に任せてもらえないか?」
「どうぞアレー様のご随意に」
「では、この失踪届はもらっていくぞ」
ひとまず握りつぶしておこう。
奴から事情を聞いてからでも遅くはない。戦友だからな。一応。
さて、気を取り直してやることやっちまうか。
あとここでする事は、銀行プレオープン盛り上げイベントの駒の用意だ。
署長からその為の犯罪者情報を得ると、俺たちはまだ失神しているラムンを残し、アトレバテス南署を出て目的地へスチームカーを飛ばした。
「ローラ、作戦は分かってるな?」
署長と別れた後、俺とローラはダボンヌ製糸工場の正門近くに来ていた。
ここで不幸そうな美少女を待ち伏せして偶然の出会いを演出するためだ。
ちなみに、ピーナは別件で犯罪者探しをやっているのでココにはいない。
「私がお婿様を後ろから突き飛ばしてターゲットに衝突させるのデス」
「そうだ。その偶然の事故を切っ掛けに俺は美少女とお知り合いになる」
「こんな姑息な手段を思いつくなんて、変態とは本当に恐ろしいのデス」
ヤンキーを雇って襲わせ助けに入るお約束も考えたが止めておいた。
戦闘力ゼロの俺に倒されるなんて、やらせですってバラしてるようなもんだ。
「お、いかにも
「確かにあれは問題を抱えていそうですネ」
「そうだろ。オッパイもでかいし合格だ」
「確かにパイオツカイデーなのデス」
「そうだろ。じゃあ作戦通り頼んだぞ」
俺が標的に向かって歩き出すと、ローラも少し後ろから追って来る。
肩を落としてため息をつきながら歩く美少女が射程圏内に入った。
よしっ、今だローラ、やれっ。
ドーーーン!
背中の右半分にもの凄い衝撃を受けて俺の体が吹き飛んで行く。
良いぞ。標的の美少女も俺が突き飛ばされたシーンを目撃し驚いた。
これで不可抗力の事故だったと分かってくれる。
あとはこのままぶつかるだけ・・・って、えええええええええ
狙いが外れてて美少女をすり抜けちまったぁああああああああ
ドンッ
「キャッ!」
ん、んんん?
俺の目の前にフカフカの柔らかなクッションが二つ。
それに良い匂いがする。上品で高級な香水の香りだ。
ということは・・・事態を悟った俺は上を見上げた。
「何ですか貴方、急にぶつかって来るなんて!」
違う。これ薄幸の美少女とちゃうでー。
意識高い系のオールドミスやんけ。
ローラの奴、しくじりやがったなぁぁぁ。
だが、少し離れたところで見守っていた闇エルフは、成功を確信して俺にバチ~ンとウインクしてからスタスタと歩き去って行った。
一仕事終えたような充実した顔をしながら・・・
クソ、ともかくこの場を収集して撤退するしかねえ。
「これは失礼しました。ならず者に突き飛ばされてしまったのです。どうかご容赦ください。お嬢様」ニッコリ
「どこにそんな乱暴者がいると言うのですか?」
え、見てなかったのか。
ローラはとっくに歩き去っちゃったし。どうしよう。
「何が目的なのです?」
「はぃぃ?」
「ですから何が目的で私に近づいたのかお聞きしているのです」
うわ、やたらと警戒心が 強いな。男に恨みでもあるのか。
なんかこう、アンタに用なんて無い、とは言えん雰囲気だわ。
それに、落ち着いてよく見ればこの女は俺のタイプでもある。
このままお近づきになっておいても損はないだろう。
「ランチにお誘いしようと思っておりました」
「私を食事に誘ってどうするつもりなのです?」
「ぜひお話を伺いたいのです」
「一体私から何を訊き出そうというのかしら?」
「立ち話もなんですから、続きは是非ランチの席で如何でしょうか」
異世界転移の際に15歳の肉体とピュアな顔の印象を与えてもらった俺は、可能な限り無邪気な笑顔で誘ってみた。
「ゴロツキでは無いようですわね。ランチだけなら良いでしょう」
「ありがとうございます」
「お店は任せてもらえるのかしら」
「はい、僕はこの街に不慣れなので助かります」
タイトなビジネススーツを着た女は先に歩き始める。その姿は、並んで歩いてコミュニケーションを取る気はサラサラないと告げていた。
ま、そのお陰でプリプリのお尻をじっくりと堪能できたがな。ムフフ
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