第18話 嫁さん6人できるかな?

「げぇ、婿殿! あたしを恨んで化けて出てきやしたかっ!?」


 お前に婿殿呼ばわりされる覚えはない。


 それに何で俺が死んでること前提なんだ?

 しかもお前に恨みを残して?

 俺に魔力が無くて凍死しかけたことは知らない筈だよな。

 コイツは昨日からちょっと何か勘違いしてるようだが、とりま問い詰めとくか。


 いや、ちょっと待て、これは利用できるかもしれん!

 試しに一芝居うっておくか。


「ラムン・・・やってくれたのう


「ゆ、ゆ、ゆ、許してくだせえ! あ、あ、アタシが悪かったんです! なんまんだーなんまんだー」ガクガクブルブル


「何が悪かったか本当に分かっているのかぁ?」


「へへぇ、あんな化物揃いの女冒険者の家へ旦那を置き去りにするなんざぁ、まるで6体の魔獣の中へ1頭の子羊を放り込むようなもんでしたです。はい。本当に申し訳ありやせんでしたっ!」ガクガクブルブルガクガクブルブル


「どう落とし前をつけるつもりだぁ?」


「へへぇ、何でも言うことを聞きやすです、はい!」ドゲザー

「本当だなぁ、お前の神仏に誓ぇ」

「へへぇ、大菩薩ミロック様に誓いますです、はい!」ガツンガツン

 土下座状態で頭を床に何度も打ち付ける町長だった。

 まぁ、こんなところでいいだろう。


「ラムン、面を上げい!」

「へへぇ!」

「大丈夫だ。俺はまだ死んじゃいない。この通り足もちゃんとある」

「へ、へぇ?」

「死んでないってことだ。とにかく椅子に座れ、示談に移ろうじゃないか」

「本当に幽霊でもゾンビでもねえんですね?」

「ああ、何とか一命を取りとめた。死にかけたがな」ギロリ

「すいやせん!すいやせん!」

「謝罪を受け入れるかどうかはこれから決める。とにかく座れ」

 俺がテーブルの一つの席に座ると、町長も向かいの席に恐る恐る座った。


「なぜ俺が死んだと思った?」


「そりゃ男日照りの女猛者たちの巣ですからね。当然、り殺されたものとばかり思ってやした。少なくとも足腰が立たないぐらい消耗させられた筈ですから、こんな朝っぱらからピンピンしてるわけがねえんです。だもんでてっきり悪霊になったかゾンビ化させられたんだと・・・はい」


「おいおい、お前と違って俺は15歳のヤリタイ盛りだぞ。女4人を相手にしたところで死ぬわけがなかろう」

 ま、童貞だから知らんがな。たぶん死なないと思う。


「いくら貴族様でもさすがにそれは無理ってもんです。普通の男なら1回で立つこともままならないですし、2回で気絶しやす。そのまま3回犯られたら魔力枯渇で死にますです。はい」


「この国ではそういうものなのか?」

「この国ではっていいますか、きっと世界中どこでもそうでやすよ」

 なるほど。魔力があるが故の限界か。

 つまり、魔力など最初から持っていない俺は平気なわけだ。

 イカサマ天使が地球人の身体的特徴が夜に活かされると言ってたのはこの事だったんだな。

 まぁ、魔力がないから凍死しかけたのは許しがたいイカサマだったが。


「ゾンビ化させられたと思ったのはなぜだ?」


「ローラという得体のしれない女冒険者は、屍術師しじゅつしだという噂がありやすです」


 屍術師?

 死体を操るネクロマンサーのことか!

 あの天然ボケの下半身デブが?

 まったく人の評価や噂ってのは当てにならんもんだな。


「もう一つだけ聞こう。なぜ町長のお前が冒険者ギルドにいる?」


「そりゃアタシはここのマスターですから」


「は?」

「いえ、ですからアタシがここのギルドマスターなんですよ」

「いやいやいやいやいや、お前は町長だと言ったじゃないか」

「へぇ、実は町長は副業でして、こっちがアタシの本業なんでやす」


 町長が副業!


 良いのかそんなんで? この町大丈夫ぅ?

「町長というのはそんな片手間で務まるもんじゃないだろう?」


「いえいえ、所詮しょせんアタシは領主様に任命された代官ですからね。ただの神輿です。現場は科挙に受かった有能な官僚たちが回してますんで何もすることはないんでやすよ。この程度の規模の町なら大抵そんなもんです、はい」


「なるほどな。だが領主から任命されたなんて意外とやるじゃないか。実は名家の出だったりするのか?それとも賄賂か?」

「またまたご冗談を。町長なんてよく言えば名誉職ですが、実態はただの雑用係でして。この町の有力者たちがアタシに押し付けたってのが本当のところでやすよ」

「そ、そういうものか」

 何だかちょっと気の毒になってきたな。

 だが俺を人身御供として抹殺しようとした男だ。情けは無用。


「状況はある程度分かった。ここからは落とし前の話をさせてもらおうか」

「へへぇ」

「まず俺はあの女冒険者の家で今後も死なずに生き続けねばならん。いろいろとその便宜を図ってもらう。お前にとっても人身御供の俺が長く生き続けたほうが得の筈だ。こここまではいいな?」

「異論はねえです」


「実はな、俺は今、エマさんとイイ感じになってる」


「エ、エマ殿とぉ!?」

「何を驚く?」

「よりによって、あのケルベロス司祭ですか・・・よくぞそのルート突入をご決断されましたなぁ。行き遅れ年増女の魔乳添え・・・ほふぅ、そこまで艱難辛苦を求めなさるたぁさすが貴族様です、はい」


「ちょっと待て、そんなにエマさんは男たちから敬遠されてるのか?」


「あの魔乳では仕方ねえですよ。発情中のオークですらまたいで通り過ぎると言われてやすから」

「やかましいわ! エマさんへの侮辱は俺が許さん」

「申し訳ねえです。それでエマ殿との関係に便宜を図れということでやすか?」

「エマさんとの関係に一つの障害があってな。その打開策が欲しい」

「障害と言いやすと?」


「俺との年の差婚がエマさんの醜聞になるらしい。俺は祖国では15歳なんだがこの国では暦の違いで12歳の新成人になってしまうようだ。エマさんとは10歳違いになる。何か解決案はあるか?」


「12歳でやしたか! どうりで子供っぽい、いえ、ピュアな顔立ちをされてると思ってやした」

「どうでもいい。何か知恵か裏技はないかと聞いてるんだ」

「確かに聖職者で行き遅れのエマ殿が少年のような新成人と結婚するのは不味いですなぁ。下手をすれば言い掛かりをつけられて破門までありますです、はい。はて、どうしたものか・・・」


 待つこと3分。

 あーイライラする。

 だがこの国の事情を知らない俺には何の考えも浮かびようがない。

 だから待つしかないんだが、この焦燥感はかなりキツイ。

 そしてさすがに痺れを切らして喝を入れようとしたその時、副業町長が閃いた!


「あっ、ビビビッと来やした! これならいけるかもしれやせん」

「おおぅ、さすがギルマスだ!それで俺はどうすればいいんだ?」


「女冒険者6人全員と結婚すればいいんでやすよ!」


 うん? ちょっと言ってることが分からない。

「それはどういう意味なのかなぁ、ラムン君?」ニッコリ


「そのままの意味ですよ。エマ殿とだけ結婚すれば悪目立ちしてしまいやすが、6人全員と結婚すれば埋もれてしまって話題にもならないって寸法です、はい」


「そ、そういうものなのか?」

「へぇ、世の中そんなもんです。それに少なくともエマ殿が少年をたぶらかして肉欲の餌食にしたなんて言い掛かりは付けられにくいと思いやすよ」

 なるほど。確かにエマさんとだけ結婚するとそう誤解したり、わざと曲解する輩が出るだろうな。一理ある。

 だが、この計画には一つ重大な欠陥があるんじゃないか?


「6人と結婚なんてできるのか? この国では許されるのか?」


「だって婿殿は貴族でやしょ? それなら最低でも6人まで妻を持てやす」


 貴族バンザイ!


 俺が貴族というのは高名なグロリア司祭が認めたところでもあるからな。

 ということは、この作戦イケるんじゃないか?

 これまでエマさん一択だと思い込んでいたが裏道もあったってことだ。


 これでハーレムルートが開通したってことだ!


 やってくれるじゃないか、イカサマ天使。

 こんなシナリオまで用意してるとは有能にも程があるぞ。

 これまで散々ディスってきたけど素直に謝るわ。ゴメンな。


「やったなギルマス。大手柄だ」

「へぇ、婿殿のお力になれたのでしたら幸いでやす」


「あとは俺が6人全員とねんごろになればいいわけだ」


「そこが一番難しいかと思いやす」

「そうだろうな。既に一人からは嫌われてしまった」

「すいやせん。色恋にうといアタシには何の助言もできませんで」

「そこは期待してない。それより俺も冒険者として仕事をしたいんだが、どうすればいいか教えてくれ」

「婿殿が働くんですか? そんな必要はないでやしょ?」

「そうかもな。だがヒモ男では嫌われても仕方ない。それに自分で自由になる金もいくらか持っていたい」

「分かりやした。それなら早速、冒険者登録しやしょう。何か身分証は持っていやすか?」

「そんなものは無い」

「え、それは困りやしたねぇ」


「身分証はどこで手に入るんだ?」

「普通なら教会の洗礼証明書か、役所の出生証明書でやすね」

「どっちもこの国には無い」

「となりやすと、教会で洗礼を受けるのが手っ取り早いでしょうなぁ。その点はエマ殿に相談されるのが一番かと思いますです。はい」


「ワタクシがどうかしましたか、ラムンさん?」


 噂をすればエマさん!


「婿殿の身分証をエマ殿にお願いしたらどうかという話です」

「アレー様は身分証をお持ちでなかったのですね」

「はい、突然この国へ飛ばされて来たものですから」


「ですが、直ぐに身分証が必要なことでもおありなのですか?」


「婿殿は、冒けゲフゥ!」エマさんには死角で見えない右フックが放たれた。


「何を言ってるんですかエマさん、僕たちの結婚には必要じゃないですか?」


 エマさんにニッコリ微笑んでから、町長に余計なことを言うなと睨みをきかす。

「まぁそんな! まだ早いですわ・・・」ポッ

「善は急げって言うじゃないですか」

「そ、そうですわね。直ぐに教会へ洗礼式の予約を入れますわ」

「結婚式の予約も一緒に入れておくと手間が省けますよ」

「もぉ、そんなに喜ばせてワタクシをどうなさるおつもりですの?」


「もちろん幸せにするつもりですよ、エマさん」


 ふふふ、エマさんは幸せの絶頂のような面持ちでクネクネと身悶えしている。

 俺はここでスキンシップしたい衝動をグッと堪えた。

 15歳少年のマグマが噴火しかねないからだ。

 この思春期の性欲問題も何とかせんといかんなー。


「職場で発情とか魔獣にも劣るわね。場所をわきまえなさいよ」

 ヴィンヴィンがやって来ちゃったか。

「マスターはまた暇つぶしですネ。楽な仕事で羨ましいのデス」

「移籍登録だけで凄く時間がかかりました。マスター何とかしてくださいよー」

 どうやら皆揃ったみたいだな。

 改めてエマさん以外の面子を観察してみる。

 レイラちゃんはともかく、ローラとヴィンヴィンも攻略するのは骨が折れそうだ。

 だがやらねばならん。

 エマさんとのラブライフの為に!


「コホン、ラムンさん、それでは本契約の締結へ進みたいのですが」

「それではアタシの部屋へ行きましょう」

 町長兼ギルマスの後に続き1階の奥まった部屋へ皆で入る。

 職員がやって来てエマさんたちは応接セットで説明を受けていた。

 俺はというとギルマスの机の前に座っていた。

 目の前にはギルマスがいる。

 

「お前は参加しないのか? 仮にもギルマスなんだろ」

「契約の細かい部分はアタシには分かりやせんから」

「お前、ギルマスも副業なんじゃないのか?」

「そんな噂もチラホラ流れてやすね」

「まぁそれはどうでもいい。ところで一つ相談がある」

「なんでやしょう?」

「ここでは言いにくいな・・・」

 チラッとエマさんたちに目をやった。

 ギルマスはそれで察してくれたようだ。

「それでは資料をご覧にいれやしょう。どうぞこちらです」

 エマさんたちにも聞こえるよう言って隣の資料室の中へ俺を導いてくれた。

 

「分かってやす分かってやす。いくら鋼の精神力を持つ貴族様といえどあんな魔獣たちの相手ばかりでは魔力だけでなく心も枯れちまいやすよ。アタシがこの町で一番の娼婦を紹介しますです。はい」


 察しが良すぎて変な方向へ話が言ってるぞ、ギルマス。

「そのつもりだったんだが、そこまで言われると罪悪感が湧いてしまうな」

 断じてエマさんたちは魔獣などではない。

 若干一名そのけがあるが、いや二名か・・・もっと増える可能性もあったな。

 ただ、この膨れ上がるばかりの思春期性欲は何とかしないと不味い。

 最悪の場合、無防備のレイラちゃんを襲ってしまいそうだ。


「それはつまり、エマ殿たちの金で娼婦を買うことに躊躇ためらいがあるってことでやすね。その高貴なる気概よっく分かりますです、はい」

 いや、そういう意味じゃなかったんだけど。

「それじゃあこうしたらどうでやしょう?」

 あれ、勘違いしたまま話が続いちゃうんだ。まぁいいか。

 

「あのエマ殿を1日でメロメロにするとは恐れ入りやした」

 うん? 話が飛んだぞ。


「婿殿には素質がおありなると痛感させられましたです」

 一体なんの素質?


「そこでですが婿殿、ギルドを通さない裏の依頼を受けやせんか?」

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