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 僕は必死に頭を回転させる。


 当然だけど、FDR-AX700 には通信機能はない。ライブ映像をネットに送信するためには……HDMI キャプチャとネットにつながったパソコンが必要だ。


 パソコンは今すぐ家に取りに帰ればいい。ネットも僕のスマホでテザリングすればつながる。だが、HDMI キャプチャデバイスは……僕は持ってない……どうする……


 そうだ、持ってるヤツから借りればいいんだ。YouTubeでゲーム実況やってる由之なら間違いなく持ってる。言えば貸してくれるだろう。家に帰るついでにアイツの家に寄ってゲットしてこよう。アイツの家は、ちょうどここからの帰り道の途中だ。


 ようし、このプランならいける。僕は顔を上げた。


「……分かりました。なんとかやってみます」


 僕がそう言うと、その場にいたみんなの目が一斉に輝く。


「浜田さん、ありがとうございます!」美羽ちゃんが体を九十度折り曲げて、深々と頭を下げた。


「ありがとう! 期待してるわよ!」と、山崎コーチ。


「さすがは浜田君ね! 君ならそう言ってくれると思ってたわ!」と、令佳先輩。この人のこの一言が、僕には一番嬉しかった。


「それじゃ、僕ちょっと家に帰って機材を取ってきます。まだ……時間、大丈夫ですよね?」


 開会式まで、あと三〇分。ここから家まで、約八分。行きは上り坂だが、帰りは下りなので五分もかからない。由之の家に寄っても大丈夫だろう。


「ええ。最悪、もし間に合わなくても、開会式とか来賓の挨拶は撮影しなくてもいいから」と、山崎コーチ。


「分かりました。で、良太」僕は良太に顔を向ける。


「おう」


「お前、スマホに Skype 入ってる?」


「あ、ああ……一応入ってる。ほとんど使ったことないけど」


「僕のパソコン、LINE 入ってないからさ、Skype なら入ってるしビデオ通話もしたことあるから勝手も分かってる。悪いけど Skype でやりたいんだ」


「分かったよ」


 僕と良太は Skype ID を互いにやり取りする。


「よし。それじゃ、行ってきます!」


 そう言って、僕はみんなに背を向ける。


「浜田君! 気をつけてね!」


 令佳先輩の声が、背中越しに僕を押した。


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 まずは由之に連絡だ。LINE 通話で事情を説明して頼むと、彼は快く応じてくれた。ありがたい。やはり持つべきものは親しい友人だ。僕は自分の自転車に飛び乗り、全開で家までの道のりをふっ飛ばす。真冬なので寒いけど、天気が良くて本当に助かった。


 立ち漕ぎダンシングしながら急坂を一気に登り切り、冬だというのに汗だくになりながら、僕はなんとか自宅に到着する。自分の部屋でノートパソコンとカメラ付属の HDMI ケーブル、ヘッドセット等をバッグに詰めて速攻で家を飛び出し、来た道を引き返す。下りだが、今回もサドルから尻は浮かす。水平位置にペダルを置き、両太ももでサドルを挟むようにして、なるべく腰を後ろに引く。これが自転車でのダウンヒルの基本姿勢。そうしないと荷重が前輪にかかりすぎて、グリップを失いやすくなるのだ。前輪がグリップを失ったらまず間違いなくコケてしまう。


 リーンインでコケる寸前まで車体を傾け、限界ギリギリの速度でコーナーを駆け抜ける。アウタートップへシフトチェンジ。一気に重くなったペダルに全体重をかけて加速。路側帯をフルスピードでぶっ飛ばす。


 おっと、いけない、由之の家に寄らないと。危うく通り過ぎるところだった。


 由之の家の前に着くと、彼は既に玄関で HDMI キャプチャデバイスを持って僕を待ち構えていた。


「ほら、これも」


 そう言って由之は、キャプチャデバイスと共に USB メモリも差し出す。


「なに? これ」


「ドライバとユーティリティーが入ってる。最新の奴をダウンロードしておいたんだ。100MB くらいあるからな。テザリングで落とすのきついだろ」


「マジか……」


 これはありがたい。貴重なパケットを消耗させずに済む。ほんと、こいつの気の利き方は異常なくらいだ。


「めっちゃ助かる。この埋め合わせは後でさせてもらうよ」


「ああ。撮影、頑張れよ」


 由之が笑って手を振った。


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