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 帰宅した後、僕は由之と LINE で相談していた。


  [やはり、車を尾行するには車を使うしかないか。誰かの親に頼んで車を出してもらうか?]>


 <[いや、それは現実的じゃない。令佳さんが帰宅する時間は、俺の両親は車で仕事に行っているし、お前の親だってそうだろ? 彼女に合わせて都合良く車なんか出せるわけがない]


  [妹尾さんは? 彼なら大学生だから、車の免許も、車そのものも持ってるかもしれない]>


 <[だけど、たとえその人が車を持ってたとしても、普段は東京にいて大学に通っているんだろ? だったら同じ事だよ]


  [それなら、興信所とか探偵とか、プロに頼むか?]>


 <[いくら金がかかると思ってんだよ。俺らがちょっとバイトしたくらいでなんとかなるような額じゃないと思うぞ]


 ……。


 結局、尾行は無理、ってことか……


 だが。


 <[なあ、悠人。少し発想を変える必要があるんじゃないか? 移動手段が分かれば、尾行なんかしなくても、居場所を突き止める方法はあるさ]


 由之のメッセージに、僕は思わず目を丸くする。


  [どうやって?]>


 <[GPS を使うのさ]


  [はぁ? スマホのGPSで居場所を把握するのは、事前に契約が要るから無理だって言ったのは、お前だろ?]>


 <[何も令佳さんのスマホの GPS を使う必要はない。こちらで GPS を内蔵したデバイスを、その車に貼り付けてやればいい。そうすればこちらで何もかも把握出来る]


 ……!


 そうか! 確かに!


 <[機種変して買い換える前に俺が使ってた古いスマホがあるから、それに位置を報告するアプリと格安SIMを入れて車に貼り付ければ、車の位置はすぐに分かると思う。それが停まった場所が、令佳さんの居場所だ]


 いやもう、さすが、としか言えない。有能すぎる……こいつ、探偵になれるんじゃないか?


---


 結局僕は、由之が提案した作戦に乗ることにした。スマホを車に貼り付けるのも、由之がやることになった。僕や茉奈では向こうに警戒されるのは間違いない。だが、由之はまだ面が割れていないから、僕らがやるよりはやりやすいだろう。


 だけど、どうやって車に近づけばいいのか。おそらく車にはドライバーが乗ったままだろうから、さすがに全く面が割れてない由之でも、車に近づいて何かしていればドライバーに怪しまれるに違いない。どうしたものだろうか……


「どうしたの、浜田」


 いつものように体育館での新体操部の練習が終わった後、カメラを片付けながら、ついつい考え込んでしまった僕に、茉奈が声をかけてきた。


「なんか、最近よくぼうっとしてるみたいだけど……やっぱ、先輩のこと……考えてたの?」


「うん……まあね。実は、さ……」


 僕は由之の作戦と、それについての自分の悩みを彼女に話した。


「へぇ……斎藤君って、単なるゲーオタなのかと思ったら……意外に友達思いな、いいヤツなんだね。行動力もあるし」


「だよな。今回、ほんとアイツには助けられてる」


「ねえ浜田、その話さ、あたしも協力しようか」


「……え?」思わず僕が茉奈の顔を見つめると、彼女は得意満面で言う。


「先輩が車に乗る寸前まで、あたしが何とか先輩に食い下がって、先輩とドライバーの気を引く。その隙に斎藤君が車にスマホを貼り付ける、ってのはどう?」


 すごい。


 茉奈もなかなか、探偵の素質があるかもしれない。三人寄れば文殊の知恵、とはよく言ったものだ。こんなアイデアは、僕一人じゃ絶対に思いつかなかった。


「……なるほど、陽動作戦か」


「ね、それならイケると思わない?」


「ああ、いいと思う。だけど……その、彼女とドライバーの気を引く役は、茉奈だけじゃなくて僕もやるよ。いや、むしろ僕がやるべきなのかも」


「え!」茉奈の目が丸くなる。

 

「僕だって先輩に会いたいし、できるものなら話がしたい。だから、僕が直接先輩をつかまえる」


「浜田……」


 しばらく無言で僕を見つめていた茉奈は、やがて笑顔になる。


「そうだね。君の方がふさわしいかも。だけど、決行する時は一応あたしにも教えてほしい。あたしができることも……あるかもしれないから」


「わかった」


---

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