57

 三崎先輩と妹尾さんには、とりあえずLINEで顛末を報告をしておいた。二人とも口を合わせたように、「自分が出来ることがあれば、何だって言って欲しい」と返信してくれた。


 なんだか、僕は胸がいっぱいになってきた。


 この二人といい、由之といい、茉奈といい、僕の周りにいる人たちはみな、なんて親切なんだろう。仲間がいるというだけで、こんなに心強いとは……


 だけど妹尾さんは、言ってみれば僕のライバル的な存在だから、本音を言えば、あまり頼りたくないところだ。それに、三崎先輩も医学部受験を控えているから、あまりこちらの都合で振り回すわけにも行かないし……と思っていたのだが……


 <[ 令佳のクラスにいる私の知り合いに、令佳が来たら教えてもらうように頼んでみようか? ]


 という三崎先輩の提案に、僕は思わず


  [ お願いします! ]>


 と応えてしまった。正直、それを彼女にやって貰えるなら非常に助かる。それくらいならあまり彼女の負担にもならないと思うし。


 そして。


 その日の昼休み、とうとう三崎先輩から LINE が入った。


 <[ 令佳、今日来てるって ]


 感謝のスタンプを速攻で返し、僕は茉奈に LINE を送る。


  [令佳先輩、今日学校に来てるらしい ]>


 程なくして、了解のスタンプが返る。


 たぶん令佳先輩は、僕と会うのは避けるだろう。だから、令佳先輩が学校に来たら、僕ではなく茉奈が動くことになっていた。そうして欲しい、と僕が茉奈にお願いしたのだ。茉奈は快く了承してくれた。そして、今日彼女は何とか先輩を探し出し、コンタクトを取るはずだ。


---


「ごめん……ダメだった……」


 放課後。僕を正面玄関で待っていたのは、ジャージ姿でしょげ返った顔の茉奈だった。


「先輩に会えなかったのか?」


「ううん。そうじゃない。会えたの。だけど……全然話が出来なかった。『ちょっと話があるんですけど』って、呼び止めたんだけどね……たぶん、なんか勘付かれたんだろうね。令佳先輩は『ごめん、今忙しいから、またね』って言って、スタスタと早足で歩いて行っちゃった。『待って下さい!』って言っても、全然立ち止まってくれなくて……あたしも後を追いかけたんだけど、先輩は玄関を出て、そこに停まってた黒い車に乗ったら……その車がすぐに走り始めて……校門を出て、右に曲がったのは分かったけど、そこからすぐに見えなくなっちゃった……」


「なあ、茉奈、その車ってタクシーだった?」


 僕が聞くと、肩を落としたままの茉奈が応える。


「ううん。違うと思う。屋根に何も乗ってなかったし、先輩は手で後ろのドアを開けてたから。タクシーだったら自動で開くよね」


「……」 


 これは結構重要な情報だ。タクシーじゃないとしたら、その車を運転しているドライバーは、ひょっとしたら例の彼女の父親本人かもしれない。僕としても、ぜひ顔を見てみたいところだ。


「そうか……ありがとう」僕はねぎらうように茉奈に笑いかける。「おかげですごく重要な情報が得られたよ。まず、先輩がタクシーじゃない車で通学している、ってこと。それから、先輩の居場所は、校門から出て右の方向っぽい、ってこと。これらが分かっただけでも、すごくありがたいよ」


 だけど、茉奈の顔は相変わらず冴えない。


「ううん……車が右に曲がったといっても、必ずしも先輩がいるのがそっち、とは言えないと思う。わざと遠回りして、分からないようにしているのかもしれないし……」


「……」


 確かに、それはその通りだ……


「で、でも、その車を尾行すれば、令佳先輩の居場所にたどり着ける、ってことだよね」


「そうだけど……どうやって車を尾行するの? 君の自転車で? そりゃ市街地は道が混んでれば出来るかもしれないけど、バイパスなんかに入られたら、自転車じゃ走れないよ?」


「う……そりゃそうだけど……誰かバイクの免許持ってる人、いないかな……」


「そもそもうちの学校、校則でバイクの免許取るの禁止じゃない。隠れて取ってる人もいるかもしれないけどさ……少なくとも、あたしの周りにはそんな人はいないなぁ……」


「……」


 ううむ……困ったなぁ……


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