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 季節は過ぎ、春。僕達はみな一つ学年が上がった。僕と由之は4組で、良太と茉奈は2組だった。3年のクラス替えはないので、卒業までずっとこのクラスで確定だ。思い人と一緒のクラスになれた良太の喜び様はすごかった。僕のクラスは国立理系なので女子が少ないのは残念だが、体育館に行けば同じ学年だけじゃなくいろんな女子と話が出来るわけだし、僕はそれで十分満足だった。


 それに、僕の知り合いの女子の数は、むしろ倍増していた。


 なんと、新体操部に一気に5人の1年女子の新入部員が入ってきた。しかもこれがみな、なかなかの美形揃い……


 と言っても5人の新入生のうち、経験者は実は二人だけだった。他の三人はその二人の友人で、新体操に興味を持っているとのことだった。経験者の二人は元々新体操クラブに所属していて、去年も中学生メンバーとして参加していたので、僕とは既に顔なじみだった。


 その経験者の二人が揃って僕のことを「浜田先輩!」と呼ぶので、残りの初心者の三人もそれにならって同じように僕のことを呼ぶようになった。僕も「先輩」になったんだなぁ……と、しみじみ感慨に浸ってしまう。


 ともかく、これでメンバーは10人。部活としてもそこそこの規模になってきた。しかも、これだけの人数がいれば、それまで出場できなかった団体戦にも出場できるようになるのだ。


 しかし……


 それまではみな基本的に経験者ばかりだったので、自分の練習に専念できていたのだが、今年から初心者が三人入ってきたため、2,3年生はその指導もしなくてはならなくなってきた。それが結構彼女たちの負担になっているのは、はたから見ても明らかだった。


 僕の出番は市民体育館を使う月曜と木曜だけで、それ以外の曜日は特に何もなければ自由に過ごしていたのだが、こうなってくると僕もなにがしか協力した方がいいのではないか、と思えてくる。


 そこで僕は新体操についての勉強を始めた。今までもクラブメンバーの演技を見てきて、門前の小僧習わぬ経を読む、って感じで何となく演技の善し悪しも分かるようになってきたのだが、最初からきっちり理論的に学んだ方がいい、と思ったのだ。


 だけど自分が演技を行うわけではないので、いくら学んだところで限界はあるだろう。それでも、ちゃんと学べば演技者のレベルに応じてどういう撮影をしたらいいかも分かってくるだろうし、撮影した演技をミーティングでレビューする時にも、僕の方からも解説できれば、それなりに役に立つんじゃないか。そういう思惑もあった。


 とりあえず、僕はルールブックから読み始めた。


 驚いた。こんなに複雑だとは思っていなかった。


 手具はフープ、ボール、こん棒クラブ、リボンの4種類。技のカテゴリはジャンプ、バランス、ピボット、柔軟の4種類。これらは今まで見てきて僕もなんとなくわかってた。だが、それぞれの技に難度の点数が細かく定められていて、さらに、手具ごとに4つのカテゴリのどれの難度がいくつ、ということも厳密に決まっているのだ。団体演技では手具の交換も必須になる。


 もちろん難度だけじゃない。音楽とのマッチングや演技の美しさ、独創性や手具の落下などのミスがないか、と言った部分も加味される。手具を投げ上げる高さによっても、「ダイナミック要素」と呼ばれる評価点が変わってくるのだ。


 点数は基本的にD(難度Difficulty:演技の難度の総合点数。加点方式)とE(実施Execution:ミスや芸術性の不足があった場合に10点満点から減点される)の合計となり、Dの評価ポイントはさらにBD(身体難度Body Difficulty:身体運動の難易度)やAD(手具難度Apparatus Difficulty:手具使用の難易度)、ダンスステップコンビネーション(手具操作をしながらステップして移動)、ダイナミック要素に分けられる。


 難度は演技を見ればほぼ計算できる。だが、芸術点は具体的にどんな風に評価されるのか、よくわからない。僕は Web に上がっている大会の動画や、茉奈が撮りためた過去のオリンピックや国際大会の映像を参考にして、どんな場合にどんな点数が付いているのかを把握していった。それでようやく、新体操の演技というものが分かるようになってきた。さらに僕は、いろいろな参考書を読んで、芸術点を高めるにはどうしたらいいのかも勉強した。ここまでやれば、新体操の演技について僕が何か言ったとしても、おそらく全く的外れなことにはならないだろう。僕は自信満々だった。


 ところが。


 それが、見事に裏目に出てしまったのだった……


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