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 この辺でカラオケと言えば、商店街の外れに近いカラオケ店が定番だ。カラオケ店にしては料理も美味く、青野高校からも割と近いので、青高生御用達の店になっている。


 17時5分前に、僕は自転車で店に到着した。僕以外の5人のメンバーは皆既に揃っていて、待ちかねていたようだった。しまった……僕も機材を置くのに一度家に帰ったのだが、疲れてたし時間があると思って少し昼寝したのがいけなかった。結果的に時間ギリギリになってしまったのだ。


 制服のままのメンバーもいれば、一旦家に帰ったのか、既に私服に着替えた人もいる。令佳先輩は私服だった。白い薄手のVネックの半袖ブラウスに、紺のスキニーパンツ。この人の私服姿はめったに見たことがないので新鮮だった。というか……ピッタリと張り付いたデニム地のパンツが、先輩の豊かな下半身のラインをくっきりと浮かび上がらせていて……

 いかんいかん。思わず見とれてしまうところだった。


 しかし、僕以外みんな女子という、この状況……喜ぶべきなんだろうけど……なんというか、ちょっと気圧けおされるものを感じてしまう。いや、もうみな気心の知れたメンバーではあるんだけど。


 僕達は定員10名の部屋に入り、早速料理や飲み物を注文しまくった。食べながら、もちろんカラオケで歌いまくった。一番歌が上手いのは三崎先輩だった。彼女は実はアニソンを良く歌ってる某女性歌手のファンらしく、その人の曲ばかり歌っていたのだが、何というか、かなりそっくりだ。まるでその人が歌っているように聞こえる。


 そして……令佳先輩は……


 ……。


 この人、頭脳明晰、容姿端麗、品行方正、文武両道の完璧超人を地で行くと思っていたが……歌に関してはそれは当てはまらないようだった。まあ、ものすごい音痴で聞いてられない、と言うほどでもないのだが、上手いというわけでもない。でも、歌うこと自体は好きらしい。とあるアイドルグループが好きらしく、彼女が歌うのはもっぱらそのグループの曲だった。


 で、僕はと言うと……


 自慢じゃないが、僕は歌は得意な方だ。僕が十八番おはこにしている、誰でも知ってるちょっと古めのJポップの曲を歌うと、みんな目を丸くして聴き入っている。もちろん令佳先輩もだ。


 もうそれからは大変だった。


 三崎先輩からいきなりのデュエットオファー。僕はそれに見事に応え、完璧にハモりを入れる。歌い終わると、他の全員が拍手喝采。令佳先輩も大喜びだ。そして……


 とうとう令佳先輩ともデュエットすることになった。ああ……嬉しすぎる……このまま時が止まればいいのに……


---


 そんなこんなで時間は19時過ぎ。2年生メンバーは三々五々帰っていき、残ったのは三崎先輩と令佳先輩と僕の三人だけになってしまった。僕も帰ろうかと思ったのだが……三崎先輩と点数バトル状態になってしまい、彼女が「逃げんじゃねえぞ!」と言って、どうしても帰そうとしなかった。


 ところが。


 いきなり三崎先輩のスマホが着信音を奏でる。


「あれ、家からだ」画面を見た三崎先輩がスマホを耳に当てる。「もしもし?……え、お兄ちゃん?……あー! 忘れてた! ごめん! ええと……ここからだと、現地集合した方が早いかな……うん。うん。わかった。それじゃね!」


 電話を切った三崎先輩は、僕と令佳先輩に向かって手を合わせる。


「ごめん! あたし、今日、お兄ちゃんとレイトショーの映画見に行く約束してたんだ。だから今からシネコン行かなきゃなんだけど……カラオケ、あと30分くらい残ってるけど、どうする?」


「……」


 僕と令佳先輩は、思わず顔を見合わせる。


 そりゃ当然、ここでお開き……だよなあ。


 ……と、僕は思っていた……の、だが……


 令佳先輩が、僕の顔を見ながら、言った。


「そうね。せっかくだから、私は、ハマちゃんが良ければ時間いっぱいここにいようか、って思うんだけど……ハマちゃんは、どう?」

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