12
「浜田君」
声に振り向くと、令佳先輩だった。既にコスチュームは着ているが、さらにその上にジャージの上だけを羽織っているため、残念ながらその魅力的なプロポーションを間近で目にすることは出来なかった。だが、ジャージの裾からはみ出している白い太ももが眩しい……
って、そんなこと考えてる場合じゃない。
「なんですか、先輩?」
「パケ代、大丈夫?」
「!」
一瞬ギクリとしてしまった僕を、先輩は見逃していなかった。眉間にしわを寄せて彼女が言う。
「やっぱり、大丈夫じゃないのね? 足りないの?」
「……ええ」僕はうなずく。
「ちょっと待ってて」
先輩は手に持っていたスマホを何やら操作する。と、いきなり僕のスマホに通知が来た。1ギガのデータプレゼント? それだけあれば1分半×4回の演技の間、十分パケット容量が足りる計算だ。送り主は……「佐藤 令佳」!?
「先輩!」思わず僕は令佳先輩を見つめた。
「じゃ、よろしく」
先輩はウインクすると、素早く身を翻して立ち去る。
「ありがとうございます!」
僕は深々と頭を下げる。足早に去っていく先輩の背中が、神々しい女神のオーラを放っているように見えた。
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中学生の部も無事終了。今回も基本的にロングで(ただし小学生の時よりは若干アップで)撮影したのだが、美羽ちゃんの演技の時だけ、病室で見ている彼女の母親と祖母に配慮して、僕はさらに少しだけアップで撮影した。
彼女の四種目の演技は、令佳先輩のおかげで全て無事病室に届いたようだ。最後のリボンの演技の後、通話を切る直前、お母さんが
『ありがとうございました!』
と画面に向かって頭を下げていた。
「どういたしまして」
そう応えて、僕は即座に通話を切った。すぐに今回のメインイベント、高校の部が始まるからだ。と言っても演技者はうちの部員の5人だけなのだが。
高校の部も全員が四種目演技することになっていた。茉奈たち1年メンバーは、新体操部としては実質これが初舞台と言ってもいい。僕も今回からはアップで撮影する。というか、部員たちがそう希望しているんだからしかたがない。自分たちの演技を良く見て、今後に役立てたいんだそうだ。ま、さすがにハイティーンの演技なら児ポにはならないだろうし。僕もそれくらいの年齢の女子の方が魅力的……おっと、思わず本音が……
演技用のメイクと新品のコスチュームを身に纏い、マット狭しと飛び回る彼女たちを、望遠側にズームして捉えると、やはり普段の練習時のジャージ姿よりも断然見栄えがする。彼女たちの表情も生き生きとしてて、すごく輝いて見える。それはそうだろう。皆これを着て演技をするために、今日まで努力を続けてきたのだから。
そう考えると、なんだか
やっぱり令佳先輩は別格だった。体のプロポーションに関してはもう他の誰もかなわない。こうしてコスチューム姿を見るとはっきりとわかる。あの足の長さはもう日本人離れしている。ただ……新体操選手としてはちょっと肉付きが良すぎるような気もしなくもないんだが……かといって太っているというわけでもない。むしろ、僕としてはそこが特に魅力を感じるところだった。
そういうわけで、僕は令佳先輩のコスチューム姿に見とれてしまった。いやいや、先輩だって今日のためにものすごく頑張って練習を重ねてきたんだ。そんな邪な目で見てしまってはいけない……と、理性で自分で言い聞かせるのだが……全く、男の本能というヤツは、度し難いというかなんというか……
しかし。
ふと思い出した僕は、そんな気持ちが急速に萎えていくのを覚える。
令佳先輩には彼氏がいるんだ……きっとその彼氏は……コスチュームに隠された部分も含めて、彼女の全てを……見てるんだろうなぁ……
……。
ええい、今は落ち込んでる場合じゃない! 撮影に集中しなくては!
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