13
全ての参加者の演技が終わった。閉会の挨拶は、新体操クラブの会長でもある山崎コーチだった。そして解散。着替えのため更衣室に向かう令佳先輩に、僕は声を掛けた。
「令佳先輩」
「ああ、浜田君。撮影ご苦労様」振り向いた先輩が、僕に笑いかける。
「ありがとうございました!」言いながら僕は頭を下げた。
「え?」
「データプレゼント、本当に助かりました! ですが、僕の方から同じようにプレゼントするの、ちょっと難しいんで、現金で返しますから……」
「ううん、いいのよ。気にしないで」令佳先輩が、笑って首を横に振る。「あれはね、美羽ちゃんやみんなのために頑張ってくれた君への、クラブからのプレゼントなんだから」
「え……」
「実はね、君が機材を取りに行ってるときに、美羽ちゃんから相談されたの。『浜田さんがSkypeする時、パケ代かかりますよね? それ、私のわがままのせいですから、私が支払うべきですよね?』ってね。そしたら山崎コーチが『気にしないで。彼の通信費はクラブの現金会計から出すから』って言ってくれてね。で、私が彼と同じキャリアで番号も分かるからデータプレゼント出来る、って話をしたら、山崎コーチがちょうど1ギガ分現金を出してくれて。それで私が君にデータプレゼントしたってわけ。だから君は何も私に返さなくていいわ」
「で、でも……僕、1ギガ全部使い切ってないですし……」
「いいっていいって! 君はわざわざ家にまで戻って機材を用意してくれたんだから、余りはその分の労働費だと思ってもらえばいいわよ」
「……」
そう言われてしまうと……僕は何も言えなくなる……
「ほら、君は今までバイト代なしでずっとクラブの練習を撮影してくれてたじゃない。ほんとならこれでも全然足りないくらいなんだから……もらっときなさい。ね?」
「……わかりました。ありがとうございます」
僕は再び頭を下げた。
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「よう、悠人」
「!?」
機材を片付けていた僕は、声の方に振り返る。満面の笑顔の良太がそこにいた。
「ほんと、今日はありがとうな。さっき公衆電話からお袋のケータイに電話したら、お前には本当に感謝している、ってさ。祖母ちゃんも大喜びだったそうだ。美羽も、彼氏がいなければお前に惚れてた、って言ってたぞ」
「……」
美羽ちゃん、彼氏いるのか……ま、でも、中二ならいてもおかしくない年頃か……
「で、だな……その……」なぜか良太の顔がこわばる。「実は、お前に折り入って聞きたいことがあるんだが……」
「……お、おう」
「お前、佐藤さんとどういう関係? もしかして……付き合ってるのか?」
内心、ギクリとした。こいつには、令佳先輩と僕が付き合ってるように見えるんだろうか。
「ええっ? 令佳先輩と僕が?」
「違うよ。佐藤 茉奈さんのことだよ。お前……名前で呼び捨てにしてるよな……茉奈、って」
なんだ、そっちの「佐藤さん」か。僕は笑みを作ってみせる。
「ああ、そのことか。それはさ、部にはもう一人、佐藤 令佳先輩がいるだろ? だから、部員はみな二人とも下の名前で呼んでる。僕も部員みたいなものだからさ。それだけだよ。そりゃクラスメイトだし部活でもよく会うから話すことも多いけど、別に付き合ってるわけじゃない」
「そうか……だったらさ、一つ……頼みがあるんだが……」
気のせいか、良太の顔がほっとしたように見える。だが、その口調は相変わらず歯切れが悪かった。
「頼み?」
「あのさ……佐藤さんの今日の演技の動画……コピーしてもらえないかな?」
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