26
「う……すみません」
僕が思わず頭を下げると、先輩は押し殺したような笑い声を立てる。
「ふふふ……なんてね。ハマちゃんは、私が失恋したなんて知らなかったのよね。だったらしかたないよね。でもね、私、それ以来ハマちゃんのことが気になるようになっちゃったの。だけど、だからと言ってすぐに告白する気はなかった。ひょっとしたら私、失恋のショックを忘れたいだけで、ハマちゃんのことが好きになりたいのかもしれない。そんなんじゃ、たとえ付き合ったとしても、ハマちゃんに対して失礼よね」
「……」
ううむ……失礼……なのかな? 僕にしてみれば、先輩と付き合えるだけでもめちゃくちゃ嬉しいことなんだけど。そういう先輩の気持ちは、正直よくわからない。
「だから私、自分の気持ちをじっくり見極めて、夏の地区大会の日までハマちゃんに対する気持ちが変わらなかったら、その時はハマちゃんに告白しようと思ったの。地区大会が終われば私は引退するから、たとえ振られてもその後部活で顔を合わせて気まずい思いすることもないし」
そうか……先輩も、僕と同じこと考えてたんだ……
「それで、マユに協力してもらって、ハマちゃんと二人きりになれるチャンスを作ったんだ。だけど……なんかすごくキワドいこと言っちゃったような気がするけど、それは……ハマちゃんの本能にちょっと訴えてみて、ハマちゃんがポジティブな反応をしたら、それは少なくとも私に異性としての関心がある、ってことだから、脈ありかな、と思って……そうなったら告白しよう、って思ったの。そして、実際ハマちゃんはそういう反応をしてくれたから……でも、本当のところ、ハマちゃんは私のこと、どう思っているの? はっきり聞かせてほしい……」
そう言って、先輩は僕をまっすぐに見つめた。
「先輩……」
いや、実は僕も、最近やけに先輩がなれなれしくなったなあ、とか、やたら距離が近いなあ、ってのは分かってて、ひょっとしたら先輩は僕に気があるのかも……なんて思ったことも幾度となくあったのだ。
だけど、絶対にそんなことがあるはずない。先輩には彼氏がいるんだから。僕はそう思って、それ以上考えるのはやめたのだが……
ダメだなあ、僕。
先輩の本当の気持ちに、全然気づいてなかった。本来なら、僕の方から告白しなきゃならなかったんじゃないか? それなのに、僕は先輩に告白させてしまった。
もうこれ以上、何をためらう必要があるってんだ。言え。言っちまえ。自分の素直な気持ちを。
「僕、初めて会った時から……先輩のこと、好きでした。その気持ちは今でも変わってません」
「本当に……?」
「ええ。だけど……先輩には彼氏がいたから……僕……」
「そうだったの……ってことは、もう一年近く前から、私のこと……好きだったの……?」
「正確に言えば、もっと前です。入学してからすぐ、校内で見かけて……なんて綺麗な人なんだろう、って思ってました。先輩の名前を知ったのは、生徒総会の時です」
「そっか……そんなに前から……」
「すみません……引きました?」
「ううん。そんなことないよ。それどころか、すごく嬉しい。ありがとう、ハマちゃん……」
先輩が潤んだ目で、僕の顔を見上げていた。
「先輩……」
やがて、先輩が目を閉じる。
こ、これは……キスを……誘ってる……んだよな?
こんな二人っきりの密室で、キスなんかしたら……とてもそれだけじゃすまなくなってしまいそうな……
だけど、この状況に抗う
そのまま、僕は先輩の顔に自分の顔を近づけていく。
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