49
「なにぃ!?」由之が、愕然、と言った顔付きになる。「マジかよ……それ、どうも偶然にしては出来過ぎな気もするな」
「まさか……犯人は、先輩の……お祖母ちゃん?」
いや、でも……信じたくない。あんな優しそうなお祖母ちゃんが……あんなことを……
「そのお祖母ちゃんって、ロシアに住んでるのか?」と、由之。
「あ……」
そうだった。お祖母ちゃんは日本に住んでるんじゃないか……
「違うよ。先輩の家で、先輩と同居してる。いや、してた。今は先輩いないから」
「だったら、違うんじゃないか?」
「そうだな……」
僕は安堵のため息をつく。そうなると、少なくともお祖母ちゃん本人ではなさそうだ。ってことは……ひょっとしたら、ロシアにいる、お祖母ちゃんの関係者……?
「とりあえず、相手のIPアドレスが分かるのはそのメール一通だけだからな。ダークウェブ経由である可能性も否定できない。まあ、アドレスからそれがダークウェブで使われているかどうかも調べられないことはないが、ちょっと時間がかかりそうだ」
「それ、ぜひ調べてもらえないか」
「分かってるさ。あとな、実は、もう一つ手がかりがあるかもしれない」
「もう一つの手がかり?」
なんだろう。
「例の画像、俺も調べてみたけど、コラなのは間違いなさそうだな。で、コラの元画像だが……お前はどの動画のどのシーンかを特定したんだったよな?」
「ああ」
「だったら、送信者は間違いなく過去にその動画にアクセスしているわけだ。その動画がアップロードされてからメールを送信してくるまでの、いつかのタイミングでな」
「……!」
そうか! 確かに!
「だから、YouTubeのアクセス履歴を見れば、それっぽいロシアからのアクセスがあるかもしれない。お前、新体操部のチャンネルの管理者なんだろ? だったらアナリティクスで調べられると思うぜ」
「そうだな。お前の言う通りだ。すっかり忘れていたよ。さすがはスーパーハッカーだな」
「正義の、が抜けてるぜ」そう言って、由之は鼻の下を人差し指で擦ってみせた。
---
さっそく僕は、ネカフェに出向いてブラウザのシークレットウィンドウを開き、YouTube アナリティクスの画面を開く。アップロードされたのが1月で、メールが送られてきたのが8月末。その間にそれっぽいアクセスは……
それを見つけた瞬間、僕は血の気が引くようだった。
由之が言った通り、あったのだ。ロシアからのアクセスが、4月に。しかも、まさしく例のメールで材料として使われていたフレームが含まれる動画部分そのものに、だ。
由之によれば、ダークウェブを使っている場合、匿名性を確保するため、アクセス元のIPアドレスは頻繁に変わるらしい。だから常に同じ地域からアクセスされるとは限らない。
もちろん相手のIPアドレスまで分かるわけではないので、例のメールの発信源と厳密に一致するかまでは確かめられないけど、同じロシアからだとは……
おそらく、相手はダークウェブなんか使ってなくて、直接ロシアから動画にアクセスし、コラ画像を作ってロシアから僕に送ってきたんだ。その可能性が非常に高い。
---
「やはりか」
由之が、我が意を得たり、といった様子でうなずく。16:30。もうすっかりお馴染みとなった杉の湯サウナで、僕らは会っていた。
「俺もちょっと調べてみたんだが」由之が続ける。「やはり、例のアドレスはダークウェブで使われている気配はなかった。ってことは……やはりお前が考えるとおり、敵はダークウェブは使わずに動画にアクセスし、メールを送ってきたんだろうな。ロシアから」
そうなると……先輩のお祖母ちゃんが完全に無関係、ということも……ありそうにない。
「やっぱ、お祖母ちゃんが黒幕なのかな……」僕はため息をつく。
「そうとは限らないぜ」と、由之。「本人は何も知らず、本人の関係者が何か勝手にやらかしているのかもしれん。でも、いずれにせよ、お祖母ちゃんが何か知ってる可能性は高い。話を付けた方が良さそうだな」
「そうだな……」
「俺も付き合ってやろうか?」
「え?」
「だって、今ロシアにいる人間がやってるんだ、っていう証拠を突きつけないと、もしお祖母ちゃんが事情を知ってる確信犯だったら、たぶんはぐらかされて終わっちまうんじゃねえか? お祖母ちゃんは日本語通じるんだよな? だったら、たぶんお前より俺の方が証拠に関してはうまく説明できると思うしな」
「いや、でも、お前は令佳先輩と面識あるわけじゃないんだし……そこまでしてもらうのは、なんか、悪いよ」
「いいってことさ。俺の推測だが、おそらく令佳さんを拉致ってる連中のITスキルはさほどでも無い気がする。ガチの反社会組織ならダークウェブを使うはずだ。なのにそうしていない、ってことは、少なくともネット関連については敵はプロじゃない。だから俺でも十分相手になると思う。とにかく俺はそいつの正体が知りたい。それだけさ。お前が引け目に感じる必要はねえよ」
「本当に……いいのか?」
「ああ。俺も乗りかかった船だからな。付き合うよ」
「……ありがとう」
思わず僕は彼に向かって頭を下げる。
全く、持つべきものは友達だ。
---
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます