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由之に言われた通り、僕はまず妹尾さんから預かっている封筒を、叔父さんからもらったタムロン SP AF 90mm F2.5を付けたα350で撮った。このレンズは基本的に
もちろんスマホで撮った方が楽だが、解像度が違いすぎるし、スマホに何か仕掛けられてる可能性もあるから使いたくなかったのだ。そしてその後、その写真が入ったCFカードとリーダーをもってネカフェに赴き、写真と例のメールを由之のアドレスに送った。
その三日後のことだった。今度は由之から「16:00 に例の場所で待つ」と手書きメッセージが来た。どうやら何かわかったらしい。
放課後、僕はわざと少しだけ遅れて杉の湯に到着した。道中で彼と出会うところを、僕を尾行している奴に見られるのはまずいと考えたからだ。いずれ宣戦布告するにしても、不用意に奴らに情報を与えることもないだろう。
男風呂に入り、体を洗いながら入り口をさりげなく監視する。やはり新たな客は来ない。僕はサウナに向かう。
「……ったくもう、熱中症になるかと思ったぞ」
由之はナナメ45度くらいに傾いたご機嫌を、隠そうともしなかった。
「すまん。待たせたな。一応お前と会ってることを悟られないように警戒したんだ」
「なるほど、用心深いな。それで……早速だけど、分かったことから言おう」
「あ、ああ」僕は思わず身を乗り出す。
「まず、例の封筒に印字された文字からは、普通にOSデフォルトの日本語明朝フォントで、プリンターもインクジェットだろう、ということくらいしか分からなかった。警察の鑑識だったらプリンターのメーカーや型番までわかるかもしれんがな」
まあ、僕もさすがにそこまでは彼に要求するつもりはない。由之は続ける。
「そして、お前が受け取ったという、例の画像付きのメール……発信元はな、ロシアだ」
「……え?」
僕が目を丸くすると、彼はコクリとうなずく。
「たぶん、だけどな。メールにはヘッダと言って、どのIPアドレスのホストから、どのサーバを経由して送られて来たかが全部記録されてる。で、お前から転送されたメールのヘッダをたどって、最初の発信元のアドレスを調べてみたら、ロシアのアドレスだった」
……すごい。
「お前、そんなのすぐに分かるのか?」
「もちろん」由之が得意そうな顔になる。「IPアドレスさえ分かれば、
そうだったのか……知らなかった。
「ただな、間違いなくそうとは言い切れない。ひょっとしたらあのメールを送ってきた人物は、ダークウェブを使ってるのかもしれない」
「ダークウェブ? なんか、聞いたことはあるけど」
「ネットでのアクセスを匿名化する手法さ。これなら送信元を隠すことができる。もし例のメールの送信者がダークウェブを使ってるとすると、たまたまロシアのホストから送られてきているように見えてるだけで、本当は日本から送られているのかもしれないんだ」
「ってことは……もしダークウェブを使っていたとしたら、結局分からない、ってことか……」
「まあな」
結局、振出しに戻る、ってことか……
……ん? ちょっと待てよ?
ロシア、だって……?
ああっ!
脳裏に閃きが走る。だけど……僕はそれを、信じられなかった。いや、信じたくなかった。
「……どうした?」
いつの間にか、由之が僕の顔を覗き込んでいた。いけない。つい、考え込んでしまったようだ。だけど……これは由之にも伝えておいた方がいいかも……
「お前、今、ロシアって言ったな」
「ああ」
「実はな、令佳先輩のお祖母ちゃん、ロシア人なんだ」
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