34
……!
えええ!
ま、まさか……先輩、以前、「ヌードを撮って欲しい」とか言ってたけど……それか?
ちょっと待って、心の準備が……
<[実はうちで私が使ってるパソコンが壊れちゃったの。君、パソコン詳しそうだから診て欲しいのよ]
……なんだ。そんなことか。
まあ、由之ほどじゃないけど、僕もパソコンには詳しい方だと思っている。
今僕の家で使っているデスクトップも、中古パーツを集めて自分で組み立てたものだし、ノートパソコンもハードディスクが壊れたジャンク扱いの中古を買って自分で修理した物だ。どちらも若干型は古いが、SSD に換装したのでそこそこ快適に使える。たぶん、先輩の PC のトラブルにも対処は出来るだろう。
[わかりました。いいっすよ]>
---
令佳先輩の家は、玄関までなら一度行っているので、場所は分かっている。現地集合ということで、僕は自転車で直接彼女の家に向かった。
マンションの玄関で、私服に着替えた先輩が待っていた。
「来てくれてありがとう、ハマちゃん」先輩はニッコリと笑う。「それじゃ、早速診てもらえるかな」
「ええ」
先輩が玄関のテンキーを押して暗証番号を入力すると、ガラス張りの自動ドアが開いていく。彼女の後について、僕も中に入る。エレベーターで7階へ。一番右端の、701号室が彼女の家だった。
「お邪魔します……」
おそるおそる、彼女の家の玄関に上がる。
「あら、こんばんわ」
そう言って顔を覗かせたのは……明らかに日本人じゃない外見の、だけど人なつこそうな顔立ちの、年を取った女性だった。そうか……この人が、先輩が言ってたロシア人のお祖母ちゃんなんだ。身長は先輩と同じくらいだから、 170cm くらいはありそう。体付きはちょっと恰幅がいいかなって程度で、太りすぎってことでもない。
「お祖母ちゃん、紹介するわ。この人が例の、浜田 悠人君」
先輩が言うと、
「まあ、令佳の新しいボーイフレンドね。私は令佳の祖母の、ナターシャです」
と言って、お祖母ちゃんが顔をくしゃくしゃにして笑う。先輩が前に言ってたとおり、随分日本語上手だな……
「浜田 悠人です。よ、よろしくお願いします」
頭を下げてから、僕は、しまった、と思う。
何をテンパってるんだ……「よろしくお願いします」って、彼女のお祖母ちゃんに何をお願いするんだよ……
「実はね、私、今はこの家でお祖母ちゃんと二人暮らしなの」と、先輩。
「そうなんですか。他の家族の方は?」
「父さんは単身赴任で、兄さんは県外の大学に通ってて下宿してる。母さんは……」
そこで先輩の顔が少し曇る。
「亡くなったわ。3年前にね」
「え……」僕は言葉を失う。
「交通事故だったのよ」彼女のお祖母さんも沈痛な表情になり、彼女の後を引き取って続けた。「雨の日の横断歩道で……スピード出しすぎの車にはねられてね……
英恵さん、というのは、先輩のお母さんのことなんだろう。そうか……それで以前先輩がお母さんのことを話したとき、少し辛そうだったんだ……
「そうだったんですか……すみません、辛いこと思い出させてしまって……」
「ううん、いいのよ」先輩は笑顔になる。「ハマちゃんは何も知らなかったんだから。ほら、そんなことよりも、早くパソコン直してもらわないと」
重苦しい雰囲気を吹き飛ばすように、先輩は明るい声で言いながら僕の背中を押した。
---
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます