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「ようし、これで決まったな。となったら、突撃は早い方がいい。明後日、期末試験が終わったら早速、というのはどうだ?」


 由之がそういうと、全員がコクリとうなずく。


「だけど、見張りの二人はどうすんだ?」と、良太。「さっきも言ったが、一人なら俺が何とかできると思うけど、二人同時はさすがに無理だ」


「いや、そもそもお前から仕掛けるのはまずいだろ」由之が首を横に振る。「一般人にいきなり暴力をふるったら、お前、対外試合に出場停止になるんじゃないか? 下手すりゃ退部、いや、退学にまでなるかもしれん」


「う……」


 さすがにそれは良太にとってもキツイことだろう。僕もそこまでの状況に良太を陥れたくはない。


 その時だった。


「要は、二人の見張りの注意を引けばいいのよね」茉奈だった。


「どうやって?」と、由之。


「この前みたいに陽動作戦するのよ。あたしが見張りの注意を引きつける。その隙に、他のメンバーが突撃したらいいんじゃない?」


 だが、由之が首を横に振る。


「あの時は令佳さんが絡んでいたから、あそこまで上手くいったんであって、今回はそう言うわけにはいかないぞ」


「……」


 しばらく茉奈は考え込んでいたが、やがて意を決したように顔を上げる。


「そしたら、くノ一作戦はどう? その監視をしてるって人たちって、二人とも男なんでしょ?」


「くノ一? なんだそれ?」由之が首をひねると、茉奈が得意そうに応えた。


「知らないの? 女忍者のことよ。まあ、忍者と言ってもくノ一は敵に色仕掛けするのがメインの任務なのよね。だから今回もあたしが……なんというか、その、ちょっとセクシーな格好をして、二人の注意を引きつける、とか……」


「って、具体的にどんな格好だよ?」と、良太。「まさか新体操のコスチューム着て、とか言わんだろうな?」


「まさか。あんな格好で外歩いてる人なんかいないって。一応外を歩いていてもギリギリ不自然じゃない格好となると……そうねぇ……下はヒートテックのスキニーパンツ履いて、上もピッチリしたニットセーター着て胸を強調するとか……」


 思わず僕は想像してしまう。部活でいつも目にしているからわかるけど、茉奈のプロポーションも決して悪くはない。アヤちゃんや令佳先輩に比べたらつつましいけど、バストだってそこそこあるし、鍛えられて程よく引き締まった下半身はなかなかのものだ。くノ一として十分活躍できそうな気がする。


「ダメだ!」良太が大声を上げた。「お前にそんな格好させるわけにはいかない!」


「えー、いいじゃなーい。見られても減るもんじゃないしー」


 口をとがらせる茉奈に向かって、良太のツッコミが炸裂する。


「中年のスケベおやじみたいなこと言うんじゃねえ!」


 ……なんだか以前、僕と令佳先輩も同じようなやりとりをしたような……


「だったら、他にもっといい方法があるっての?」


「う……」


 黙り込んでしまった良太に対して、茉奈がニヤニヤしながら言う。


「ま、あんたがあたしの体を自分以外の男に見せたくない、って気持ちは分からなくもないけどねー」


「……!」


 その瞬間、場の空気が凍った。


「お、おい……お前……」


 良太が顔を真っ赤にして茉奈の顔をのぞき込むと、


「……あ!」


 不穏当な言葉を口にしてしまったことに気付いた茉奈の顔も、真っ赤に染まる。


「ち、違うの! 今のは、その……」


 必死で彼女が弁解しても、もはや無駄だった。


 ……。


 茉奈、良太に自分の体、見せてるのか……ってことはこの二人、もうそういう関係ってことか……先、越されちまったな……


「(ちっ。リア充は爆発しちまえってんだ)」


 由之の方から、舌打ちと呟きが聞こえた。その時。


「だったら、わたしがやります」


「!」


 全員の視線がアヤちゃんに集中すると、彼女は繰り返す。


「わたしがくノ一になります。そして、見張りの注意を惹きます」


 由之がゴクリと唾を飲み込んだのが分かる。彼も想像してしまったのだろう。


 入部当初は少しポッチャリしていたアヤちゃんも、最近はかなり体が引き締まってきた感じだ。だけど部内一の大きさを誇るバストは全然しぼんでいない。彼女がくノ一になるというのなら、効果はバツグンだろう。


「いや、彩奈だけってのはダメ」茉奈が首を横に振る。「あんたがやるって言うのなら、あたしもやるよ。一応あたしは部長なんだから。後輩だけにやらせるわけにはいかないよ」


「茉奈先輩……」


「彩菜、二人で陽動作戦しよ。いい?」


「はい!」嬉しそうにニッコリしたアヤちゃんが、大きくうなずく。


「ちっ。勝手にしろ」面白くもなさそうな顔で、良太。


「二人とも……本当にいいの?」僕は茉奈とアヤちゃんに向かって問いかける。


「いいよ」と、茉奈。「あたしらは体の線見られてナンボな部活やってるわけだしさ。今さら見られることに抵抗感はないから。彩菜、あんたもそうでしょ?」


「ええ」と、アヤちゃん。「そう言うのが本当に嫌だって思ってたら、初めからこの部活やってませんよ」


「……ありがとう」


 再び、僕は二人に向かって頭を下げる。


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