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 それから三日後、冬休み初日の12月27日、14:00 。空は今にも雪が降りだしそうに、どんよりと曇っている。


 僕らはあの時のメンバーで集まり、また例の雑居ビルの前にいた。


 今回は男子も女子も制服だ。しかも全く隠れることなく、堂々と入り口に向かう。


 例の二人組は、今日もビルの前に並んで立っていた。僕らに気づいた彼らは、またか、という表情で近づいてくる……が、いきなり彼らの顔色が変わり、はたと足が止まる。


 おそらく彼らは、僕らの中に前回の突撃時にはいなかった人物が一人、混じっていることに気づいたのだ。そしてその人物が、彼らに向かってにこやかに言う。


「久しぶり! この人たちは、みな僕が招待したんだ。かまわないね」


 その一言だけで、彼らはすごすごと引き下がった。


---


 2階の入り口のドアは鍵がかかっていた。さすがに前回の突撃に懲りて、警戒しているのだろう。


 だが、僕らを「招待」したその人物は、事も無げにボタンを押してインターフォンを鳴らす。


『……どなたですか?』


 インターフォンから、令佳先輩の声。


「久しぶりだな、令佳。僕だよ」


『……嘘』


 それっきり、先輩は絶句してしまったようだった。


 やがて、ガチャ、と鍵の開く音がする。その人物は躊躇なくドアを開け、振り向いて僕らに微笑んだ。


「さあ、どうぞ」


 その人物について、僕らも中に入る。そこにいたのは、普段着の令佳先輩と、亜礼久さん。どちらも放心状態で、こちらを見つめている。


「健人……」と、亜礼久さん。


「兄さん……」と、令佳先輩。


 そう。


 僕らを「招待」したこの人物こそ、亜礼久さんの長男にして、令佳先輩の実の兄。


 佐藤 健人さんだった……


%%%


『実はね……すごい人物が見つかったんだよ!』


 あのクリスマスイブの突撃が不発に終わった後の、図書館での作戦会議の最中、いきなり妹尾さんから LINE 通話がかかってきて、彼は興奮した口調でそうまくし立てたのだ。


「だ、誰がですか?」


『令佳のお兄さんだよ! 佐藤 健人さん!』


「ええっ!」


 僕は思わず大声を上げてしまう。


 そう。


 ちょうど今さっき僕が思い出した、令佳先輩の家族。その名前がいきなり、妹尾さんの口から飛び出した。驚かずにはいられない。


『ひょっとしたら力になってくれるかもしれない、って思って探してたんだ。ただ、同じ高校の二つ上の先輩ってことは知ってたけど、全然面識がなかったからさ……とりあえず、知り合いの先輩のツテをたどりにたどって、ようやく見つけたよ!』


 ……なんてこった。


 僕がようやくたどり着いた打開策に、妹尾さんは遥か以前から気づいてて、しかも独自に動いていてくれてたんだ……全く、この人にはかなわない。


「あ……ありがとうございます!」


 向こうからは見えないのにもかかわらず、僕は頭を下げてしまう。


『なんか、健人さんは事情があってずっと家族と没交渉だったらしいんだけど、令佳のことを伝えたら、詳しい話を聞かせてほしい、ってことだった。彼は明日そっちへ帰省するそうだから、さっそく明日、彼と会ってもらえないかな?』


「え、ええ、もちろんOKです」


『それじゃ、君が僕と待ち合わせた例のカフェで15時、ってのはどう?』


「分かりました」


『じゃ、彼に伝えておくよ。それじゃあね』


「はい。ありがとうございます!」


 通話を切ると、みんなが怪訝な顔で僕を見ていた。


「今の、誰?」と、由之。


「妹尾さん。令佳先輩の、元カレ」


「ええっ!」全員の声が揃う。


「マジかよ……」と、良太。「元カレまで動いてるのか……で、令佳さんのお兄さんを見つけたんだって?」


「ああ。僕も、先輩のお兄さんならひょっとしたら僕らの力になってくれるかもしれない、って思う。僕、明日、会ってくるよ」


「それ、俺も行っていいか?」由之だった。「俺も令佳さんのお兄さんに会ってみたい」


「だったら俺も行くよ」と、良太。


「あたしも……行ってみたい」と、茉奈。


「もちろん、わたしもです」と、アヤちゃん。


 ……。


 僕はちょっと感動していた。


 まさか、みんながここまで動いてくれるとは……


「わ、わかった……妹尾さんにちょっと聞いてみて、OKだったら連絡するよ」


「ようし。ここに来て、キーパーソンというか、切り札になりそうな人物が登場した、って感じだな。その、明日の話によって今後の戦略はかなり左右されると思うから、今日のところはこれで解散にするか」


 由之の言葉に、全員が同時にうなずいた。


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