73

 次の日、僕らは例のカフェに現地集合することにした。予定時刻の10分前には全員が顔を出していた。そして……健人さんは、15:00ちょうどに姿を現した。予め妹尾さんから聞いていた、目印のブルーインパルスのキャップを被っている。僕らは全員立ち上がった。


「初めまして。令佳の兄の、健人です」


 そう言ってキャップを取り会釈する、健人さんは……はっきり言って超絶イケメンだった。あの妹尾さんが霞むくらいの。


 中肉中背、身長は180センチくらいか。上はダークブルーのフライトジャケット、下は黒いデニムで、特におしゃれな印象はないが、イケメンは何を着ても似合うというのは本当だった。確かに顔の雰囲気は令佳先輩に似ているところがある。というか、亜礼久さんの若い頃はきっとこんな感じだったんだろう。


 健人さんを見た茉奈とアヤちゃんの両眼が、そろってハートマークになっていた。全く、女子ってのは現金なものだ。その様子を見た良太と由之が、面白くなさそうに顔を背ける。


「初めまして。僕は青高新体操部の撮影担当の、浜田 悠人です」


「なるほど」健人さんがニヤリとする。「君が、令佳の今カレなんだな」


 ……バレバレか。しかもめちゃくちゃイケボで言われてしまった。この人、もう何から何までかっこ良すぎるよ……


「え、ええ……一応、自分ではまだそのつもりなんですが」


「そのつもりでいていいと思うよ。しかし……思ったより大人数だな。みんな、君の仲間なのか?」


「ええ、そうです」僕はうなずいて、隣の由之に顔を向ける。「自己紹介するか?」


「分かった」そう言って、由之は健人さんに体を向ける。


「初めまして。俺は悠人の友人の、斎藤 由之と言います。よろしくお願いします」


 彼を皮切りに、良太、茉奈、アヤちゃんが次々に自己紹介する。明らかに茉奈とアヤちゃんの声のトーンが一オクターブ高かったような気がするが……


「さて、早速だけど、どういう状況なのか話してもらえる?」


 全員がテーブルに着いてすぐ健人さんに切り出された僕は、前日の突撃を含む、これまでの経緯を一通り話した。


「……」


 健人さんはしばらく難しい顔で黙っていたが、やがて深くため息をついた。


「親父のヤツ……全然変わってないな……」


「え……どういうことですか?」


「初めてじゃないのさ、こういうことは。何を隠そう、実は僕も……親父に彼女と別れさせられたことがある。もっとも、その後水面下で撚りを戻して今に至るんだけどね」


 その瞬間、女性陣のテンションが一気に急降下したのが分かった。そりゃまあ、こんなイケメンに彼女がいないわけがないよな。


「ま、それはともかく、令佳にまでそんなことをやらかすとは……これは確かに捨ててはおけないな。とは言え……どうやって令佳を救出するか、だけど……僕はその例の彼女と別れさせられた時から、親父とは冷戦状態でね。もう3年ほど会ってもいないし、連絡も一度も取っていない。親父は僕が何か言ったところで聞くようなヤツでもないからね。さあて……どうしたものかな」


 そう言って、健人さんは深く腕組みをすると、思案顔になる。


「あ、あの」良太だった。「健人さん、『ノヴィ・スヴェト』に知り合いとか、いませんか?」


「え? ああ、いるけど……」


「いるんですか!」良太が一気に喜色満面になる。


「ああ。でも、なんで?」


「ノヴィ・スヴェトを動かして、お父さんに圧力をかける……なんてことが、できないかなあ、と思いまして……例えば、今お父さんは本拠地にいないわけですから、その隙を狙ってクーデターを起こすような人がいたら、お父さんはもう令佳さんに構ってる場合じゃなくなりますよね」


「……!」


 一瞬、健人さんの目がキラリと光ったようだった。


「……それはいい考えだ。実はね、一つ心当たりがある。ノヴィ・スヴェトも決して一枚岩じゃないのさ。親父が気づいているかどうかは知らんが、彼に対する不満を抱えている人間も、いないわけじゃない。正直、僕はノヴィ・スヴェトのことなんかどうでもいい、関わり合いにもなりたくない、って思ってたから、今まで何もしなかったんだが……令佳が辛い思いをしているとなったら、そうも言っていられないからな。分かったよ。ちょっと動いてみる」


「あ……ありがとうございます!」


 僕らは揃って頭を下げた。


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