28
予想通りというか何というか、公園のベンチはほぼ全てカップルに占領されていた。全くもう、どいつもこいつもイチャつきやがって……
……いかん。どうも彼女いない歴=年齢だった僕は、今や自分たちも当事者なのだ、という認識がどうしても持てないらしい。困ったものだ。
だが、僕らの目の前で、一組のカップルがベンチから立ち上がり、ピッタリと密着したまま去って行く。ちょうど良かった。
「あそこ空いたね。座ろっか」と、先輩。
「ええ」
僕らは並んでベンチに腰掛けた。それまで座っていたカップルの尻のぬくもりが残っていて、少し気持ち悪いが……贅沢は言ってられない。
「ふう」
先輩が一息ついて、言う。
「ハマちゃん……びっくりした?」
「え?」
「私に……いきなり告白されて……」
「そりゃもちろん、びっくりしましたよ。だけど……」
「だけど?」
「……嬉しかったっす」
「そっか」先輩は笑顔になる。「私も、嬉しかった。ハマちゃんの気持ちが分かって」
「……」僕も無言で微笑みを返す。
未だに信じられない。
令佳先輩と、両思いになれたなんて……
夢じゃないだろうか。ほっぺたをつねってみる。痛い。目も覚めない。
「……」
なぜか、先輩も黙り込んでしまった。
なんだか、ちょっと気まずい。こんな時、どんなことを話しかければいいんだろう。
そうだ。
僕も先輩に、聞きたかったことがあったんだ。それを聞くことにしよう。
「ねえ、先輩」
「ねえ、ハマちゃん」
僕と先輩が口を開いたのは、同時だった。
「!」
思わず僕らは顔を見合わせる。
「すみません……先輩から、どうぞ」
「ううん。ハマちゃんから、どうぞ」
「いえ、先輩から」
「ううん、ハマちゃんから」
……。
ヤバい。どうにも甘酸っぱい気持ちになってきた。僕ら、なんかちょっといい雰囲気じゃね?
「いや、僕のはそんな大した話じゃないんで……先輩から、どうぞ」
「ううん。さっき、私の方からいろいろハマちゃんのこと、聞いたから……今度はどう考えてもハマちゃんの番だよ。だから私、もうこれっきりハマちゃんが何か言うまで何も言わないからね」
そう言うと、令佳先輩は「お口チャック」の仕草をして、口元を引き締める。経験上、こうなると先輩はもう何も言わない。しょうがない。それじゃ、僕から質問することにしよう。
「先輩……先輩は、どうして新体操を始めたんですか?」
くすっ、と先輩が笑い声を漏らす。
「なんか、さっき私がハマちゃんに聞いたのと、似たような質問だね」
「……そうっすね」
でも、僕はそれを知りたかった。やっぱり好きな人の好きなもの、って、どうしても気になるよな……先輩もさっき、そんな気持ちで僕に写真のことを聞いたんだろうか。
「そうね。新体操始めたのは、小学5年からだったな。それまでは兄さんの影響で空手やってたんだけどね。まあ、それも面白かったし、一応青帯 (8級)まで行ったんだけど、小学校も中学年になると、なんていうか……これってあまり女の子がする物でもないかな、って気がしてきて……そんな時、テレビで新体操の演技見てね。いっぺんに魅せられた。私がやりたかったのはこれだ、って直感した。それで、両親に頼み込んで、空手やめて市の新体操クラブに入ることにしたのよ」
「そうだったんですか……」
なるほど。
「そこでマユに会ったの。同い年だったから意気投合してね。小学校は違ったから彼女とはクラブでしか会うことはなかったけど、中学で一緒になって、二人とも毎日のように練習してたわね。思えばあの頃が一番新体操に熱中してたかな……」
そこで先輩は遠い目になる。
「でも、先輩」
「ん?」
「だったら、どうして北高に進学しなかったんですか?」
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