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「ふっふっふ。浜田センパイ、見てくださいよー」
その日の体育館の部活で、上機嫌のアヤちゃんが、何やら黒いカメラケースのようなものを両手に持って、ニコニコ顔で僕の前に差し出した。
「なに、これ?」
「えへへー。なんだと思います―?」
「うーん。カメラかなんか?」
「お、すごい! 当たりです! ジャーン!」
アヤちゃんがケースから中身を取り出す。
「マイカメラ、買っちゃいましたー!」
それは、僕のα350と同じくSONYのロゴが付いた、DT 18-55mm F3.5-5.6 SAM 標準ズーム付きの一眼レフだった。
「α58か……」
SONY α58。
僕のα350よりはさすがに新しいが、それでも新品ではもう売っていないだろう。画素サイズはα350と同じAPS-Cだが、画素数は確か2000万を超えていたはず。ただ、記録素子が CMOS ってところが、ちょっと僕には気に入らないところだが……
……ん? ちょっと待てよ?
α58って、確か動画も撮れたよな……
「そうでーす! センパイとレンズ貸し借りできるように、と思ってAマウント機にしたんです。結構安かったんで……でも、ほんとはミラーレスのEマウント機も大分安くなってるんで迷ったんですけど、AFが効くAマウント用のアダプターが高いんですよね。だから……」
「アヤちゃん!」
「……きゃっ!」
いきなり僕がアヤちゃんの言葉を遮ると、彼女は目を丸くしてビクリと体を震わせる。
「な、なんですか、いきなり大声出して……びっくりしますよ……」
「ご、ごめん。あのさ……実は君に、相談……というか、頼みがあるんだが……」
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結局、僕はアヤちゃんにも令佳先輩のあれこれを全て打ち明けてしまった。彼女はしばらく呆然としていたが、やがて、不満げに唇を尖らせて、
「……水臭いじゃないですか」
と、ぽつりと言った。
「え? 水臭い?」
なんだか、最近もう一人別な誰かから似たようなことを言われたような……
「そうですよ。わたしだって令佳先輩のこと、とても尊敬してます。すごく素敵な人だと思うし……令佳先輩が相手じゃなかったら、わたし、浜田センパイを譲ったりしませんでした」
「……」
うう……ちょっと、心が痛い。
「だから、令佳先輩がそんな普通じゃない状況にあるのなら、私にも教えて欲しかったです」
「ごめん。だけど、話した通り、これ、結構微妙な問題だからね。令佳先輩の家族の問題でもあるし……だから、あまり部内に広めたくなかったんだ。茉奈と三崎先輩以外は誰も知らないから、くれぐれも、この話は他言無用に頼むよ」
「分かりました。わたしも口は堅い方です。だからこの話は絶対に誰にも話しません」
「助かるよ。それで……カメラの件、なんだけど……」
「ええ、いいですよ。わたしのと先輩のをしばらく交換する、というのも、わたしとしては全然OKです。センパイのカメラは責任を持ってお預かりします。が……一つ、条件があります」
「え、条件……?」
ギクリとする。まさか、自分とデートしろ、とか言いだしたり……しないだろうな?
「わたしも混ぜてください」
「……へ?」
「これ、茉奈先輩も絡んでるんですよね? 茉奈先輩も……わたしにとってはとても大事な人ですから……わたしもお手伝いしたいんです。だから、令佳先輩救出作戦、ぜひわたしも混ぜてほしいです」
「だけど……危険な目に合うかもしれないよ? 実際、この前は僕も茉奈も、令佳先輩のボディガードらしい、ガタイのいい男に脅されたからね」
「構いません。わたしは令佳先輩と茉奈先輩、そして……浜田センパイのお役に立てるのであれば、少々の危険なんか何でもありません」
「……」
思わず、ジワリと来た。
「ありがとう」
僕はアヤちゃんに向かって、頭を下げる。
こうして、RRRこと令佳先輩救出隊に、新たなメンバーが加わることになった。
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