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相手の男は見たことがないが、私服を着ているところを見ると、うちの学校の生徒じゃなさそうだ。文化祭と言ってもうちの生徒は制服着用が義務づけられている。
二人にはもう、見るからに恋人同士のオーラが漂っていた。令佳先輩の顔には、いつもは絶対に見られないような、甘ったるそうな表情が浮かんでいて……その男を見つめる彼女の瞳は……なんと言うか、トロンという感じで……あんな幸せそうな令佳先輩を見るのは初めてだった。
顔が青ざめていくのが自分でもわかる。全ての感覚が遠ざかる。まるで、足元がガラガラと崩れ去っていくようだ。
しかし、僕はすぐに我に返る。これは現実だ。決して見たくはなかったが……現実なのだ。認めなくてはならない。
そうだよ。よく考えれば当然と言えば当然じゃないか。あれだけ美人な令佳先輩に、彼氏がいないわけがないよな……
だけど僕は、このことで僕が受けたショックの大きさに、自分自身でも驚きを感じていた。僕は……こんなにも令佳先輩のことが好きだったのか……
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すっかり気落ちして、コンサートを聴く気にならなくなった僕は教室に戻る。後片付けも終わっていて、誰もいない……と思ったが、茉奈が一人、本日の売上を数えていた。
「なあ、茉奈」
「今話しかけないで」
そうぶっきらぼうに言い捨てて、茉奈は僕に目もくれずに千円札の束を指で弾き続ける。
「あ、ごめん……」
これは僕がうかつだった。茉奈は金を数えている途中なのだ。僕は彼女の手が止まるのを待った。
やがて、目だけを動かして、茉奈が僕をちらりと見る。
「……で、なに?」
「令佳先輩って、彼氏いるんだな」
僕は努めて動揺を隠しながら、ごく自然に言ったつもりだった。だが、茉奈はかすかに口元を歪める。
「見たんだ。浜田、ショックだった?」
僕が「茉奈」と呼ぶようになってから、彼女も僕のことを名字で呼び捨てにするようになった。お互い話し合って、タメ年だからそうしよう、ということにしたのだ。
「いや、別にショックって事はないけど……うちの生徒じゃなさそうだから、誰なんだろうな、って思ってさ」
「あたしらより三つ上のうちの卒業生よ。令佳先輩が1年の時に生徒会長だった人。今は東京の大学の1年生だって。だけど元生徒会長なんだから、そりゃやっぱり母校の文化祭には来るよねぇ。『彼女』もいることだし」
「そうか……」
確かに、ちらっと見た感じでは、結構なイケメンで優秀そうな人だった。僕なんかじゃ全然かなわないっぽい。いや、そもそも対決する機会すらないだろう。
ま、別に令佳先輩に告るつもりもなかったし、正直、脈があるとも全然思ってなかったけど……それでも、もし先輩に彼氏がいなければ、ワンチャンあるかも……とは思ってた。だが、そのはかない望みも
……。
失恋、か。つらいなぁ……
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