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 そんなこんなで時が過ぎ、季節は秋を迎えていた。文化祭の時期。と言っても、文化祭は文字通り文化系部活の活躍の場なので、別に新体操部としては特に何か出し物をすることはない。体育系部活や帰宅部の生徒は、クラス単位の出し物に参加することになっている。ちなみに由之はeスポーツ同好会の展示があるのでそちらにかかりっきりだ。スポーツと名が付いてるのにeスポーツは文化系扱いらしい。


 僕達のクラスの1年1組は、模擬店でおでんを作ることになった。別に料理は得意でもなんでもないのだが、なぜか僕は調理班の一人となってしまった。と言っても、どちらかというと材料の買い出しがメインの仕事だ。料理はやはり女子の方が得意な人が多い。佐藤さん改め「茉奈」(本人が令佳先輩と紛らわしいからそう呼べ、と言うので……)も調理班で、しかもリーダー的な立場にいた。味付けは彼女が行ったらしいのだが、時間をかけてきっちり煮込んだおでんはまさに絶品だった。どうも茉奈はおでんが大好物で、自分でもかなり研究して作っているらしい。


 噂が噂を呼んで、他のクラスの生徒や一般参加の客が殺到する羽目になり、あっという間に僕達のクラスのおでんはどの具も売り切れになってしまった。だけど新体操部のメンバーは茉奈が予め情報を流していたためか、みなかなり早い時期に食べに来ていた。令佳先輩も「このおでん、ヤバいね! めっちゃ美味しいよ!」とニコニコしながら教室の中で食べていて、僕は嬉しくてしかたなかった。


「令佳先輩のクラスは、何やってるんですか?」僕がそう聞くと、


「あー、うちのクラスはね、メイド&執事カフェやってる……」と、苦笑いしながら彼女が応える。


「マジっすか!」思わず僕は大声になる。「先輩もメイドさんになるんすか? 美味しくなーれ、萌え萌えきゅん、とかやるんすか?」


「……浜田君、詳しいね。メイドカフェ行ったことあるの?」


 ぐはっ。


 ヤブヘビだった。


「い、いや、行ったこと無いっすよ!」


「ホントに? あやしいなあ……」先輩がジットリした目で僕を見つめる。


「ホントですって! マジで!」


「ま、いずれにしても、私はメイドにはならないけどね。実行委員だから」


 あ、そうか。確かに、文化祭の時は生徒会=実行委員会だから、副会長の令佳先輩は当然実行委員になるわけだ。実行委員は文化祭当日は運営管理の作業に徹するため、部活やクラスの出し物には参加しなくてもいいことになっている。


「……そうっすか」僕はがっくりと肩を落とす。「先輩がメイドさんやってたら、僕、絶対撮影に行ったんですけど」


 ぶっちゃけ、令佳先輩のメイド姿……めっちゃ見たかった……


「あ~ら、それは残念だったわねぇ。私を笑いものにできなくて」少しも残念そうには見えないニヤニヤ顔で、先輩が言う。


 いや、別に先輩を笑いものにするつもりは……もともとないんですけど……


「おっと、そろそろ行かなきゃ」スマホの時計画面を見た先輩が、思い出したように言う。「それじゃあね、茉奈ちゃん、浜田君。ごちそうさま。とても美味しかったわ」


 ニコニコと手を振って、先輩は教室を出て行く。


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 というわけで、僕のクラスは早々に店じまいすることになってしまったので、ヒマになった僕は軽音部のコンサートでも聴きに行くか、と思って学校の体育館に向かっていた。ちなみに、三崎先輩の二年四組がお化け屋敷をやってて、彼女もなんかお化けになっているらしい、という情報が入ってきたが、実は僕はそういう怖い系が結構苦手なので……遠慮させてもらうことにした。


 しかし、渡り廊下にさしかかった、その時。


 目に入った衝撃的な光景が、僕の両脚を凍り付かせる。


 令佳先輩が、男と腕を組んで歩いていた。

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