5
こうして、僕は新体操部……というか、青野市新体操クラブの専属カメラマンとなった。部員のメンバーとも LINE やケー番を交換し、連絡が取れるようになった。もちろん令佳先輩とも、だ。女神のような存在だった彼女がいきなり僕の身近に降りてきて、嬉しいことは嬉しいが……だからと言って、ヘタレな僕には彼女を口説いたりする勇気なんか、あるはずがなかった。
クラブの FDR-AX700 は僕が預かることになり、令佳先輩には「演技の撮影以外の用途にもそれを自由に使っていい」と言われている。それも僕に対する報酬の一つだと。だけど、僕はどちらかというとスチルがメインなので、演技の撮影以外でそれを使う機会は無いに等しい。今年の航空祭は終わってしまったし……
そもそもクラブの大事な備品なんだから、粗末に扱うことは出来ない。ぶっ壊したりしたら大変なことになる。だから、僕はクラブの撮影以外にはこのカメラを使わないことに決めた。ただ、カメラと同時に買ったという三脚 (SLIK GX6400 VIDEO)も僕に預けられたのだが、スチルカメラにも装着出来るので、もともと三脚を持ってなかった僕はかなりこれを重宝させてもらった。
YouTube チャンネルは僕も今まで作ったことはなかったが、中学からの親しい友人で、ゲーム実況をやっている同じクラスの
新体操部の部員は五名。その内二人が二年生(令佳先輩と三崎先輩)で、残りは皆一年生(佐藤さんを含む)。学校に正式な部活として認められる最小の人数が五人なので、部活となったのは今年からなのだそうだ。去年は市の新体操クラブで、細々と令佳先輩と三崎先輩だけが活動していた、という。しかし、部活になったと言っても、顧問の先生は名ばかりで、指導も結局クラブのコーチが月曜日に行っているらしい。木曜は自主練で、その他の曜日は部員たちはみな学校で筋トレとか柔軟運動やロードワークをしたりしているそうだ。
早速僕は練習の模様を撮影した。カメラの操作には一瞬で慣れた。手持ちで撮ることもあるが、基本は三脚を使って撮影する。撮影した動画はその日の練習後、ミーティングの時間にプロジェクターで映し出し、指導者のコーチだけじゃなく、みんなで意見を出し合って演技の改善につなげていく。僕もその時点で、どこからどう撮影して欲しいか、というリクエストを出してもらって、次回はそれを参考にして撮影する。
練習の際は部員たちがコスチュームを着ることはなくて、Tシャツにジャージパンツでいることが多いので、あんまり色気はない……が、令佳先輩はジャージの上からでも分かる、見事なヒップラインだった。それに、時々だがレギンスパンツっぽい、ピッチリと下半身に貼り付いたウェアを着て練習することもある。これは結構ヤバい。見ていてドキドキしてしまう……
それはともかく。
何よりも嬉しかったのは、学校で令佳先輩と廊下ですれ違うとき、彼女がいつも笑顔で手を振ってくれるようになったことだ。もう以前のように、目も合わせてくれないなんてことはない。少なくとも「知り合い」なのは間違いないし、部活に行けば普通に話も出来る。
令佳先輩に「演技をスチルでも撮っていいか」と聞くと、「全然構わないが、キワドい写真は以下略」ということだったので、僕は時々α350にミノルタ AF APO TELE ZOOM 100-300mm F4.5-5.6 を付けてスチル写真を撮影した。このレンズは1990年代のミノルタαシリーズという銀塩フィルムのカメラ用のレンズだから、もう30年くらい前の製品になるが、デジタル一眼の α350 でも問題なく使えるのだ。
僕が買ったのは、
欲を言えばもっと開放F値が小さい――即ち「明るい」方が室内撮影ではありがたいのだが……まあ、値段が値段なので文句も言えない。その分コンパクトだから三脚を使わなくても余裕で撮影できるし、カビも完全に拭き取ったので、写りは非常にクリアーだ。僕のお気に入りのレンズである。
僕はそうやって撮影したスチル写真も、例の練習後ミーティングで皆に見せた。これの評判も上々だった。いつしか僕は、新体操部のメンバーの一人のように扱われるようになっていた。
---
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます