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「そうか……」
ちょっとがっかりだ。だけどそう言えば、妹尾さんに郵送で届いた例の写真が入っていた封筒には、青野市中央郵便局の消印が押されていた。ということは、それを送ってきたと思われる亜礼久さんもしくはその手下が青野市内にいる可能性も十分ある。そして令佳先輩が今いるのも、やはり同じ場所と考えるのが妥当だろう。
僕は再び考え込む。そして……一つのアイデアが閃いた。
「確か、スマホの位置を知らせてくれるサービスがあったよな? それを使えば令佳先輩のスマホの位置が分かるんじゃないか? スマホは普通肌身離さず持ってるものだから、それはイコール先輩の位置、ってことになるんじゃないか?」
だが、由之は首を横に振ってみせる。
「それをやるには、事前にそういうアプリをスマホに入れるか、キャリアとそういう契約を結ぶ必要がある。アプリも入れてなくて何も契約してないスマホの位置を調べられるのは、警察くらいだよ」
「そうか……」
がっくりした僕は、再び考えに没頭し……また一つ、アイデアを思いつく。
「僕らの行動を監視している奴らがいるよな? だとしたら、逆にそいつらを見つけて後を
でも、由之の表情は暗いままだった。
「実際のところさ、俺らって本当にヤツらに監視されてるのか? 俺も最近は外にいる時はいつも注意して周囲を見ているんだが、それっぽいヤツを見たことは一度もないぞ。お前はどうだ? なんかそれっぽいヤツを見たことあるのか?」
「……いや、ない」
「だろ? それに……そもそもだな、ヤツらが俺らを監視する必要が、果たしてあるのか、てことなんだが」
「え……どういうこと?」
「ヤツらはある意味、既に目的を達成したんだ。令佳さんを確保する、っていう、な。もう彼女は自分たちのものになった、と考えているんだろう。だとしたら、これ以上俺らを監視する必要はねえんじゃねえか?」
……う。
確かに、そう言われてみればその通りだ……
「というわけで俺は、連中にとって俺らはもう全くノーマークだと思う。だから監視してるヤツも存在しない」
「……そうか」
僕らは二人とも、そろって下を向いてしまう。
「……とりあえず、これはもう、俺たちだけじゃどうにもできない問題だと思う」と、由之。「だけど、警察も児相もあてにはできないし、俺らの親を巻き込むのもなんか違う気がする。親を動かすにしても、相手の情報が少なすぎてどうにもならない。さっきちらっとノヴィ・スヴェトで検索してみたけど、日本語のサイトは一つもない。日本には上陸していないみたいだ。ロシア語なら本部の公式ホームページがあるが……機械翻訳しながら読んでみたけど、たいした情報はない。設立の経緯とか、基本教義とか、そんなところ。でも一応アレク・サトウ・ミハイロフって名前はあったぞ。日本語で言うと府主教とかいうポストらしい。でも、それ以上のことは何もわからない」
ナターシャさんの話では、ロシア人の女性の苗字には最後にアルファベットの「a」が付くのだそうだ。だから亜礼久さんがナターシャさんの姓を名乗る場合、「ミハイロヴァ」ではなく「ミハイロフ」になる。
「いずれにせよ」由之が続ける。「どう考えても俺らにはもっと仲間が必要だ。だけど、俺はどちらかというとオンラインの知り合いの方が多いからな……こういう込み入ったことに力を貸してくれるかは、微妙なところだ。お前はどうだ?」
それは以前から、僕も考えていたことだった。
「そうだな……まずは茉奈かな。あいつは令佳先輩を崇拝しているし、恩義も感じている。今回の件も詳しく話せば、たぶん協力してくれると思う。そして、部長の彼女が動けば、必然的に部のメンバーも動いてくれると思うし、良太も付いてくる」
「良太も? なんで?」
「あれ、言わなかったっけ? あの二人、最近付き合い始めたらしいよ」
「けっ」由之が面白くなさそうな顔になる。「あいつもリア充かよ。ったく……たまんねえなあ。高2になったら周りがリア充だらけになっちまうなんて……」
「僕は今のところ、そういう状況じゃないと思うけど」
そう僕が言うと、彼が顔を引き締める。
「そうだな。悪い」
「いいよ、別に。後は……一応、妹尾さんにも報告はしておこうと思う。彼も一連の事情は知りたがっていると思うし。協力してもらえるかはわからないけど」
「妹尾さんって……令佳さんの元カレ?」
「ああ」
「お前……いいのか? そんなことして、その人と令佳さんがよりを戻したりしたら……」
「大丈夫だよ。妹尾さんには新しい彼女がいるから」
「……ちきしょう! リア充爆発しろ!」
由之の心の叫びが、心の中に留まらずにリアルなそれとなって彼の口から飛び出した。その件に関わると面倒なことになりそうなので、僕は無視して話を続ける。
「それから、三崎先輩だけど、一応彼女にも報告だけはしておくべきかな、と思ってる。だけど……彼女は医学部受験を控えているからな。この大事な時期に、あまり面倒なことに巻き込むのも、悪い気がする」
「それはそうだな」
「だから、実質僕らと茉奈、良太カップルの、四人がメインかな。当面はこのメンバーで動くしかない。あ、でも……由之、お前は、本当にいいのか?」
「何が?」
「お前は敵の正体が知りたくて、それで今まで動いてくれてたんだよな?……でも今、それは明らかになったわけで……もうお前が動く筋合いは、何もないんじゃ……」
「今さら何言ってんだ。ここまで関わっちまったら、どうせなら最後まで付き合うさ。そうしないと俺もすっきりしないからな。だから、RRTのメンバーにさせてもらう」
「RRT?」
「令佳さん、レスキュー、チーム」
「……うーん。そのネーミング……もうちょっと何とかならないか?」
「いいじゃねえか。かっこよくね?」
「ちょっと語呂が悪い気がする」
「厳しいなあ。んじゃ、
「……まあ、ちょいマシにはなったかな」
「じゃ、それで行こう。というわけで、俺もRRRの一員ってことだ。今のところ、お前と俺の2名しかいないがな」
「……ありがとう」
僕は思わず彼に向かって頭を下げる。本当に、こいつには……助けられる。ネーミングセンスはイマイチだが……
「んだよ、水臭えなあ。ま、誰か新体操部でフリーの女の子がいたら紹介して貰えれば、俺はそれで十分だぜ」
……。
前言撤回。こいつ、実は下心アリアリだったんじゃ……
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