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 これが、ナターシャさんが語った令佳先輩失踪事件の真相だった。以前僕も、ひょっとしたらこれは家族ぐるみのことなのかもしれない、と思ったこともあったが、その直感が正しかったとは……


 亜礼久さんは先輩を教祖に仕立て上げるために、九月から日本に一時帰国しているという。彼女が今、亜礼久さんの手の者、もしくは亜礼久さん本人によって軟禁され、教祖となるための教育を受けているのはおそらく間違いない、というのがナターシャさんの見解だった。以前僕らが訪ねていった時に彼女は、僕らの話から、これは亜礼久さんの仕業に違いない、とピンと来たんだそうだ。それで僕らを早々に帰らせ、方々ツテをたどって状況を確認したのだ、という。


 だが、この件で問題となるのは、令佳先輩自身が望んで軟禁されている、ということだ。しかも軟禁しているのは実の父親だ。こうなると警察に通報したところで、どうにもならない。虐待されているのであれば児童相談所に通報すればいいが、これが虐待に当たるのかは、非常に微妙なところだ。


 ノヴィ・スヴェト教団本部に掛け合うにしても、ナターシャさんはもはや裏切り者扱いになってしまっている。おそらく誰も頼みを聞いてくれないだろう。実際ナターシャさんは亜礼久さんとも直接話をしたそうだが、取り付く島もなかったらしい。そこで困り果てた彼女は、涙をこぼしながら、僕らの前で頭を下げた。


 あの子は無理矢理自分を納得させているようだが、本音では好きな人と一緒に過ごしたいはずです。どうかあの子を助けて下さい。あなた方しか助けられる人はいません、と。


「それにしても……まさか、ラスボスが父親だったとはな」


 まるでゲームか何かのクライマックスにたどり着いたかのような由之の言い草に、僕は少々カチンときた。だが、彼はただ巻き込まれてしまっただけの人間だ。当事者意識が低いのも仕方ないのかもしれない。


 とりあえず、まず僕らがやらなければならないのは、令佳先輩の居場所を特定することだ。それが分かればそこに突撃して……あとは出たとこ勝負。彼女を無事救出できるかどうかは、わからない。だけど、ナターシャさんと約束したんだ。彼女を助けるって。


「で、先輩からのメールに、何か手がかりになるような情報はありそうなのか?」


 僕が言うと、由之が、はっ、とした顔つきになる。


「おお、そうだ、それやらないとな」


 やたらゴテゴテとLEDとかボタンがついたマウス(ゲーミングマウスらしい)を操作し、彼はブラウザを開いてメールの画面を表示する。


 令佳先輩が家を出た後、一度だけナターシャさんのスマホにメールを送ってきたことがあった。彼女の家から帰る間際、由之はナターシャさんのスマホを操作して、そのメールを自分のアドレスに転送したのだ。


「ヘッダを見る限り、すべて日本のホストを経由して届いてる。ってことは、彼女はまだ日本にいるんじゃないかな。具体的にどこにいるかまでは分からないけど」画面を見ながら、由之。


「市内か市外かもわからないのか?」


「……ちょっと待て」


 再び由之の右手がマウスを忙しく動かす。そして……彼の顔が落胆の表情に変わる。


「GeoIPデータベースで調べると、東京って出てくるが……これはちょっと本当かどうか分からないな。送信元がモバイルだから、キャリアの会社の住所がそのまま出てきてるのかもしれん」

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