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「どうやら見つかっちまったようだ」


 定期試験初日の放課後。帰ろうとしていた僕を由之がつかまえ、難しい顔でいきなりそんなことを言ったのだ。


「え、何が?」


「俺のスマホだよ。例のパサートにくっつけた、古いヤツ」


「ええっ!」僕は仰天する。「なんで見つかったって分かったんだ?」


「あの後電池切れで電源が落ちてさ、しばらく何も応答がなかったんだが……三日くらい前かな? 久しぶりのそのスマホに電源が入ったことが、スマホ監視サービスで分かったんだ。つまり、誰かが電池を充電して電源を入れた、ってことだな。ちくしょう……失敗したな。試験が始まればいくら何でも令佳さんも学校に来るだろうから、その時に隙を見てスマホを回収しようと思ってたんだが、その前に見つかっちまうとはな……」


「そうか……」


「だけど、ロックを外すことはできなかったらしい。まあ、プロが解析しない限り、ロックが外れたところでこちらの素性が分かる情報は何も残っていないけどな。あの程度のロックを外せないヤツにそんなスキルがあるはずはないだろうし」


「それに関係あるのかわからんけど、実はさ、ちょうど三日くらい前から、例のビルの階段の入り口に、常に二人の男が立っているようになったんだ」


「!」


 由之が一瞬目を丸くし、続いて考えこむ仕草をする。


「……なるほど。確かにスマホが見つかった時期とピッタリ一致するな。ってことは、連中、自分たちが何者かに探られている、と認識したわけだ。そういや、お前が窓から顔を出した令佳さんの姿を確認したのも、その時期だったな?」


「……!」


 そうか……それで令佳先輩が、外に誰かいないか見ようとして顔を出したのかも……


 僕がそう言うと、由之もうなずいてみせる。


「俺もそうだと思うぜ。んで、その探っている何者かの心当たりとして、連中が一番最初に思いつくのは……ま、俺たちってところだろうな。つまり、連中は俺たちがヤツらの居場所を把握している、ってことを知ったんだ。それで警戒し始めたんじゃないか?」


「だな。僕もそう思う。あのビルの2階と3階に上がるためには、あの階段を使うしかないみたいだからな。そこを抑えようと考えたんだろうな」


「となると……ちょっとまずいことになったかもな。ヤツらに余計な情報を与えちまったことになったのかも……」


 由之は顔をしかめる。


「それでも、お前がああしなければ、彼らの居場所も分からなかったからさ……これでよかったんだ、って思うよ」


「ありがとう」由之が笑顔になる。「お前にそう言ってもらえると助かる。しかし、そうなると……ちょっと作戦を立て直さないとダメかもな。でも、今日はさすがに令佳さんも学校来てるよな?」


「いや、それがさ……」


 僕は三崎先輩から今日の昼休みに届いた LINE を由之に見せる。そこには


 <[令佳、教室に来ていないって]


 と書かれていた。


「はぁ?」由之が声を上げる。「嘘だろ? 期末試験受けないのか?」


「その後通話で三崎先輩と少し話したんだけど、どうも保健室みたいな、教室じゃないところで受けてるんじゃないか、って言ってた。事情があるとそういう特別措置が受けられるんだって」


「……」由之はしばらく黙り込んでいたが、やがて重そうに口を開く。「やっぱり警戒されてるな。まずったなぁ……悠人、すまなかった」


「いいって」僕は笑顔で首を横に振る。「お前は十分なことをやってくれたよ。気にしないでくれよ」


「だけど、やっぱちょっと作戦会議した方がいいと思う。今から RRR のメンバー全員招集しようぜ。俺たちと……あとは三崎先輩と良太カップルか」


「あ、いや、三崎先輩は受験生だしやめておこう。その代わりというか、もう一人、部の後輩がメンバーに入った。堺 彩菜って女の子。実は図書館で監視するのに、その子のカメラを借りるしかなくてさ……それで、事情を全部話したんだ」


 その瞬間、由之の目が光る。


「その子、かわいいのか?」


「え?……あ、まあ、そうだな……見る人によるんじゃないか?」


「ふむ。まあいい。楽しみにしておこう」


 ……。


 たぶんこいつにとってアヤちゃんは間違いなく好みに入るだろうが……問題は彼女の方がこいつをどう思うか、だな……まあ、由之もルックスはそこそこで、人柄も決して悪くはないんだけど……根っこはオタクそのものだからなぁ……


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