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それから四日後の日曜日。
この日、僕は妹尾さんと会うことになった。最初彼とはメールで連絡を取っていたのだが、詳しい話はやはりメールではしない方がいいだろう、と言われてしまった。それでわざわざ彼は新幹線で東京から来ることになったのだ。
15:00。向こうが待ち合わせに指定した、例のカフェのテーブル席に僕は座っていた。この店は昔から青高生御用達なので、妹尾さんも在校中は良く行っていたらしい。やがて僕は、目印の青いキャップを被った人影を見つけ、立ち上がる。
彼もすぐに気づいたようだ。僕を認めるとキャップを脱ぎ、笑顔で歩いてくる。
「ちょっとお待たせしたかな。初めまして。妹尾 貴史です」
その人……妹尾さんは、爽やかに笑った。
なんつーか。
僕、この人にはどう頑張っても勝てない気がする。
写真見ただけでもすごいイケメンだな、と思ってたのに、実物を見るとそれよりも遥かに上だった。
ルックスも言動も、もう何もかもかっこいい。令佳先輩とはさぞかしお似合いのカップルだったんだろうな、と思う。
「浜田 悠人です」
僕はペコリと頭を下げる。多分今の僕の顔は、かなり引きつっているような気がするけど……
僕らは向かい合わせに座る。僕らと同じくらいの年齢と思われるウェイトレスがメニューを置いて立ち去ろうとするのを、彼は呼び止めた。
「あ、すみません」
「はい、ご注文ですか?」ウェイトレスはポケットからハンディを取り出し、明らかによそ行きの声で妹尾さんに振り向く。彼はテーブルに乗っている期間限定スイーツのメニューを指さした。
「それじゃ、このケーキとブレンドのLのセットで……」そこで彼は僕の手前のコーヒーカップに視線を移す。「君も何か追加で注文するかい?」
「あ、いえ」
「んじゃ、以上で」彼がウェイトレスに向き直る。彼女は注文を繰り返し、ニッコリと笑うとテーブルを離れた。
……。
あの娘、僕が注文した時はあんな顔しなかったぞ……声もなんか僕に対応した時より一オクターブ高かったような気もするし……「ただしイケメンに限る」ってヤツか……
「令佳とは、仲良くやってるの?」
妹尾さんは柔らかな笑顔を崩さずに問いかけるが、
「はぁ……それが……最近、全く会えてないんです」
と僕が応えると、顔をしかめてみせる。
「そうか……僕も、彼女とは全然連絡が取れないんだ。心配だな」
なんだか、えらくあっさりと、
「おまたせしました。レアチーズケーキセットです」
ウェイトレスが妹尾さんの注文の品を持ってきた。相変わらずにこやかに。
「ありがとう」
妹尾さんが微笑みながら言うと、ウェイトレスの笑顔がますます輝く。
うーん。やっぱこの人、めちゃモテるんだ……
ウェイトレスが遠ざかっていくのを見送った妹尾さんは、
「実は僕、ここのこのチーズケーキがめちゃ好きなんだよね。それじゃ、いただきます」
と言って、スプーンでケーキを一すくいして頬張る。満面の笑みが彼の顔に浮かんだ。
「甘いもの、好きなんですか?」
僕は思わず聞いてしまう。
「うん。結構ね」
幸せそうな笑顔のまま、妹尾さんが応える。
彼みたいな人が見せる、こういう意外な子供っぽい一面というのが、いわゆるギャップ萌えというヤツを引き起こすんだろうな……なんつーか、やっぱこの人ナチュラルボーン女キラーなんだな……
「さて」いきなり妹尾さんが顔を引き締める。「本題に入ろうか」
空気が変わった。
「まず、君が僕に聞きたいことから話してくれないか」
「はい。それじゃ、単刀直入にお聞きします」
僕はスマホを取り出し、妹尾さんの様子を注意深くうかがいながら、例の写真を表示させて彼に向ける。
「この写真に、心当たりありませんか?」
「……!」
妹尾さんの目が、あからさまに見開かれる。やっぱり、どう見ても心当たりがないとは思えない反応だ。
「なるほどね」彼はうなずいて見せる。「思った通りだ。君の所にもそれが送られてきたんだな」
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