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「え?」妹尾さんが目を剥く。「どうしてそう思うんだい?」


「芙美香さんは、令佳先輩から妹尾さんを奪いたかった。だから、妹尾さんと先輩を別れさせるために、わざと先輩のコラ画像を作って、妹尾さんに送った……んじゃないですか?」


「ちょっと待って」妹尾さんが険しい顔になる。「今、コラ画像、って言った?」


「ええ。言いました」


「それはつまり、この写真がそうだ、と言いたいのか?」


「そうです」


「……」妹尾さんは写真をまじまじと見つめる。「確かにあまり解像度は高くはないけど……これは本当にコラ画像なのか? 僕にはとてもそうは見えないんだが……」


「間違いないです」僕は応える。「僕はカメラマンなので、そういうのは分かるんです。ツールで画像を解析した結果、コラ画像である可能性が高い、という結論が出ました。それに……そのコラの元ネタとなった画像にも見当が付いています」


「……」


 しばらく妹尾さんは放心したような顔で僕を見つめ続けていた。が、やがて彼は深くため息をつき、がっくりと肩を落とす。


「なんてことだ……それじゃ、これはフェイクで、実は彼女は無実だった、ということなのか……?」


「たぶん……そうだと僕は思っています」


「そうか」妹尾さんは弱々しい笑顔を僕に向ける。「君は令佳を最後まで信じられたんだな。僕にはそれはできなかった。やはり……君はすごいな。彼女が君を選んだのは正解だったようだ。僕よりも君の方が、彼女の『彼氏』としてはずっとふさわしい男だよ」


「……」


 僕は呆気あっけにとられていた。


 もし僕が彼の立場だったら、こんなことを言えるだろうか。


「そんなことはありませんよ」僕は首を横に振ってみせる。「妹尾さんだって、十分先輩にふさわしいと思います。そうでなかったら、先輩だってあなたを好きになったりしなかったはずです」


「ありがとう」妹尾さんは爽やかに笑うが、すぐにまた表情を硬くする。「しかし……話を戻すが、もしこれがコラ画像だったとしても、それを芙美香が作れるとはとても思えない。僕の知る限りでは、彼女にはそんなスキルはないよ。もちろん僕が知らないだけで、本当はそれくらいの知識があるのかもしれないけど……そうだとしても、僕は彼女が犯人だとは思えない」


「なぜですか?」


「まず、芙美香と令佳には接点が全くない。芙美香は僕と同い年で福岡出身なんだ。令佳と知り合いのはずはない。だけど、この前スタバで会って令佳と話したとき、彼女は明らかに犯人が誰か、どうしてその写真を送ったのか、心当たりがあるようだった。いや、もちろん芙美香が興信所とか使って調べて令佳に直接アクセスしたのかもしれないけど……僕には芙美香がそんな手の込んだことをするような人間だとは思えないんだ。もちろんその可能性も完全に否定は出来ない、とも思ってるけどね」


「……」


「ただ……君もよく考えてみなよ。仮に芙美香が例の写真を何らかの方法で入手したとして、だ……それを僕に送る、というところまでは確かに僕も理解出来る。令佳から僕を奪うのが彼女の目的だとすれば、ね。そしてそれは間違いなく達成された。なのに、彼女がさらに君にも写真を送ったのは、なぜなんだ? 彼女は令佳とは全く接点がないし、僕はもう彼女のものになってる。だからそこまでしつこく令佳を苦しめる理由もない」


「……!」


 確かに、妹尾さんの言うとおりだ。さすがにこの人、賢いな。ダテに生徒会長やって東京の国立大に現役合格したわけじゃない。


「だから僕は、芙美香が犯人だとは思えない。彼女とは別の人間がやったんだと思う」


「そうだとすれば、その『別な人間』の心当たりは、ありますか?」


「ないよ……残念ながらね」妹尾さんはかぶりを振ってみせる。「でも……考えられるとすれば、令佳のストーカー……なんじゃないのかな」

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