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大晦日、22:45 。僕は令佳先輩の家にやってきた。既に先輩は玄関前で待っていた。えんじ色のオシャレなコートに身を包んでいる。メイク……ってほどでもないけど、リップを塗ったんだろうか、唇がツヤツヤしていた。僕に気付くと、ニコニコしながら速足で歩いてきた。
「すみません。待ちました?」
僕が言うと、先輩は横に首を振る。
「ううん。そんなことないよ。それじゃ、行こうか」
「はい」
僕らは駅前のバス停に向かう。とっくに終バスの時刻を過ぎているが、この日だけは初詣客用に臨時のバスが出るのだ。
バス停には既にかなりの人が並んでいた。やはり若いカップルが多いみたいだ。やがてバスがやってきて停留所に停まる。なんとか乗ることはできたけど、座席に座るのはとても無理で、吊革につかまるしかない。必然的に令佳先輩とは密着することになる。ヤバい……僕も先輩も、顔が真っ赤だ……
15分ほどバスに揺られて、白山神社に到着。ようやく人込みから解放された……と思ったけど、境内にも既にかなりの人が行列を作っている。まあ、定番のイベントだからな……
「ふーっ」令佳先輩が、大きく息を吐いて僕を振り返る。「バス、混んでたね」
「そうっすね。でも……先輩、初詣に来て、良かったんですか? おうち、キリスト教じゃないんですか?」
実は、僕はそれが結構気になってた。
「あれ、家に来た時見なかった? 一応、家にも神棚と仏壇はあるわよ。死んだお
あ、そうだったんだ。気づかなかった……
「ていうか……宗教の話は、やめましょ? 正直、私もう懲り懲りなのよね」先輩が苦笑気味に言う。
「う……すみません。そうっすね」
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それから僕らは、いろんな話をした。特に、令佳先輩の方がよく喋った。
久々に年末年始を、家族4人で過ごすこと。お兄さんの健人さんは防衛大学に通っていること。あの二人の見張りのロシア人は、健人さんがロシアに留学していた時からの知り合いで、健人さんが二人に日本語を教えた、ということ。そして……
「ハマちゃん……ほんと、ありがとう。まさか、君がここまで大活躍するなんて、思ってなかった」
「いや、僕の力じゃないっす。由之や茉奈、アヤちゃん、良太、三崎先輩……そして、妹尾さんと健人さんがいてくれたから、できたことです。僕だけでは……何もできませんでした」
「でも、君の気持ちが、みんなを動かしたんだと思うよ。そこまでして私に会いたかったんだ、って思って……とても嬉しかった。だけど……私、君に『別れましょう』って、言っちゃったよね……」
そう言って、先輩がバツの悪そうな顔になる。
「僕は、別れたつもりはないですから。先輩はどうなんですか?」
「私も……自分の言葉を撤回したい。本当はね、私……あのビルにお父さんと一緒にいたときも、ずっと君に会いたくて……仕方なかった。でも……」
「もういいじゃないですか。今日は久々の、デートってことで」
「……そうね」
出ました! 先輩の女神スマイル!
その時だった。
境内に歓声が上がり、拍手が巻き起こる。
時計は 0:00 を回っていた。
「明けましておめでとう。今年もよろしくお願いします」令佳先輩が、ぺこりと僕に向かって頭を下げる。
「こ、こちらこそよろしくお願いします!」
慌てて僕も頭を下げる。コツン、と額と額がぶつかった。
「!」
顔を見合わせ、僕らは同時に噴き出した。
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