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 家に帰った後で、自分のベッドに転がりながら、僕は考え続けていた。


 どうも令佳先輩には僕の知らない秘密があるようだ。そして、僕や妹尾さんに写真を送ってきた犯人は、それと深く関わっているのだろう。しかも、まるでストーカーのように彼女の様子をうかがっている。どういう人間なのか全く見当もつかないが、場合によっては危険かもしれない。それでも……


 僕は令佳先輩をあきらめたくない。もし彼女が今窮地に陥っているのなら、どうしてもそこから助け出してやりたい。だけど……正直、僕一人では無理かもしれない。


 とりあえず、この件で僕の味方になってくれそうな人として、まず挙げられるのは三崎先輩だ。既に僕は彼女にはこの件で相談してしまっているし、彼女は妹尾さんにも引き合わせてくれた。もちろん妹尾さんと会って得た情報も、彼女に伝えるべきだと思う。だけど……


 彼女は受験生だ。しかも難関の医学部を目指している。この時期、あまり頼りにするのも、まずい気がする。


 もう一人は、妹尾さん。彼は自ら僕の力になる、と申し出てくれた。だが……彼は令佳先輩の元彼なのだ。僕としても彼の協力を仰ぐのは……正直、あまり乗り気じゃない。


 あとは……茉奈と良太のカップル。良太はともかく、茉奈は令佳先輩を尊敬している。崇拝している、と言ってもいいほどだ。先輩が困っているとなれば、助けたいと思うだろう。僕としても、このカップルならば非常に声をかけやすい。いずれこの二人にも事情を話さなければならないだろう。


 しかし、今僕が最優先でやるべきなのは、令佳先輩にまとわりついている者の正体を探ることだ。この二人がそれに関して何か役に立ちそうか……と考えると、申し訳ないが探偵でもない普通の高校生男女に、そんな捜査能力があるとも思えない。もちろん僕自身だってそうなのだが。


 警察に相談するか? だけど、完全に行方不明と決まったわけじゃないし、本当に行方不明ならとっくに家族が捜索届を出しているはずだ。


 ……ん?


 ひょっとして、これは家族がらみのことなのか?


 その可能性は今まで考えたことはなかったが、大いにありそうだ。もちろん証拠はないが。だけど、もし家族がグルだったとしたら、彼女の家に押しかけていったとしてもおそらく何も追及できず、ごまかされてしまうだけだろう。


 しかし……僕の知ってる限り、令佳先輩の身近にいる家族は、ロシア人のお祖母ちゃんだけだ。もちろん人は見た目にはよらないものだが……あのお祖母ちゃんが先輩にひどいことをするようには、とても思えない。先輩もお祖母ちゃんのことが大好きそうだったし……


 いずれにせよ、犯人の手がかりとなる情報が少なすぎる。今の時点では、極めてぼんやりした犯人像しかない。


 現時点で手がかりと言えるものは……メールで僕に送られてきたデジタルデータの画像と、妹尾さんに郵便で送られてきた、プリントアウトされた写真。それだけだ。そして今のところ、それらはコラ画像である、ということしか分かっていない。


 ……いや、待てよ。


 当然だが、これらはみな「送り主」がそれぞれに送ったものだ。だとしたら、「送り主」の情報が少しでも記録されているはず。妹尾さんに送られてきた写真が入っていた封筒は、今僕が預かっている。指紋がつかないように、透明なビニール袋に入れて。


 宛先の文字から、それを印刷したプリンタやパソコンも分かるかもしれない。そうだ、メールだって、送信者のアドレスから何かが分かることもあるような気がする。おそらく送り返しても宛先不明になるだけだろうが……


 残念ながら、僕の知識ではそこまでしかわからない。だけど、こういうことに詳しい奴なんか、僕の周りには……


 ……いるじゃないか!


 そうだよ、パソコンの「神」、斎藤 由之というヤツが!


 早速僕は、由之にコンタクトを取ろうとスマホに手を伸ばしかけて……すんでの所で思いとどまる。


 今、僕の行動は全て監視されている、と考えた方がいい。この部屋にいても100パーセント安心できない。プロの手にかかれば、盗聴器や監視カメラの一つや二つ余裕で仕掛けることが出来るだろう。スマホやパソコンにだって、ひょっとしたら何か仕掛けられているかもしれない。そうなると、それらを使って安易に連絡を取れば、その内容は奴らに筒抜け、ってことにもなりかねない。


 ううむ。どうしたらいいんだ……


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