39
「……え!」
僕は思わず令佳先輩の顔をのぞき込む。そこには少し悲しげな、だけど毅然とした表情があった。
「写真、見たんでしょ?」
「!」
なんだって……どうして、それを……
先輩は、自嘲めいた笑みを浮かべる。
「やっぱりね。そう。あれが私の本性。私はそういう女なの。幻滅したでしょ? だから……別れましょ。短い間だったけど、楽しかったわ。それじゃね」
そう言って、先輩は席を立ち、風のように走り去る。
「ちょ……待って下さいよ!」
先輩の後を追おうと慌てて僕も店の外に飛び出すが、彼女の姿は既に街の雑踏の中に消えていた。
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それっきり、令佳先輩とは連絡が取れなくなってしまった。
電話もメールもLINEも全て拒否されている。SNSは元々彼女はやっていない。休み時間に彼女のクラスの教室に行っても、どこにもいない。放課後に出待ちしていても、会うことはなかった。
彼女の家にも行ってみたのだが……どうも彼女は家にも帰っていないようだ。彼女のお祖母ちゃんに聞くと、彼女は受験勉強に集中するため、予備校の合宿に参加しているとのことだった。学校にはその予備校の寮から通っているのだ、と。
しかしその寮にも行ってみたが、彼女の姿は全く見られない。そこは女性専用寮なので、あまりその周りをうろうろしていると不審者と思われそうだった。それで僕は彼女を探すのを諦めざるを得なかった。
……。
どうしてなんだ……
先輩はわけもなくあんなことをするような人じゃない。何か理由があるはずなんだ。だけど……会えなかったらそれを聞くこともできない。
それに……
あの写真を撮ったのは……そして、送ってきたのは、一体誰なんだ……
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令佳先輩と別れた三日後の、木曜日。
「浜田センパイ、どうしたんですか?」
いつものように体育館で部の自主練を撮影していた僕の背中に、そんな声が投げ掛けられた。
「え?」
振り返ると、ジャージ姿のアヤちゃんだった。心配そうな表情で僕を見つめている。
「センパイ、最近ちょっと元気ないような気がするんですが……」
「……!」
なんてこった。何かあるとすぐ顔に出てしまう。この自分の性格を呪いたい。
「そ、そうかな……?」誤魔化すように、笑顔を作る。
「まさか……令佳先輩と……何かあったんですか?」
……鋭い。この
だけど、僕はまだ部の誰にも僕と令佳先輩が別れたことは言っていないし、言うつもりも無い。しかも、アヤちゃんにそれを知られると……非常にややこしいことになりそうな……
そう。アヤちゃんが僕に気がある、という話は令佳先輩からも聞いていたし、僕も何となく気づいてはいた。だけど、それは彼女が泣きながら走り去っていったあの日に、全てケリが付いたものだと思っていた。実際、それからアヤちゃんの僕に対する態度は、少し素っ気ないものになっていたのだ。
でも、今の僕は先輩と別れてしまっている。だから、アヤちゃんと付き合っても、何の問題も無い……が……
正直なところ、僕はまだ令佳先輩を忘れられていない。僕の気持ちには全くケリが付いていないのだ。そんな状態では他の誰かと付き合う気になんて、とてもなれない。
「あ、いや……実はレンズにカビが生えているのを見つけてしまってね……」
僕は嘘をついた。今の僕が所有しているレンズにカビが生えているものは一つもない。だが、アヤちゃんは心底悲しげな顔になる。
「そうだったんですか……それは辛いですね。だけど、少しくらいのカビならそれほど描写に影響しないって話、聞いたことあります。だから……きっと大丈夫ですよ」
そう言って、アヤちゃんは笑顔になる。
「そうだね。ありがとう」僕も無理矢理笑顔を作る。彼女を騙している、という罪悪感がハンパない……
「それじゃセンパイ、元気出して下さいね!」
ニコニコしながら手を振り、アヤちゃんは練習に戻っていく。
いい娘だなぁ……この娘と付き合うのも、悪くないかも……
そんなふうに一瞬思ってしまった、その時。
僕の脳裏に、とんでもない仮説が閃く。
まさか……例の写真を送ってきたの、アヤちゃんか……?
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