37
本日二回目の、家への帰り道。既に日は完全に暮れている。と言っても、急ぐ必要もないので僕はヘロヘロとペダルを漕いでいた。
結局令佳先輩のパソコンの SSD は、ブートセクタ(データ領域の一番最初の部分。OS起動のための情報が記録される)が何かの拍子に破損しただけだった。
僕は最初リカバリーしようと思っていたのだが、SSDのパーティションを調べてみると、どうやら先輩のお兄さんはSSDに移行したときにHDDのリカバリー領域をSSDにコピーしていなかったらしい。SSDの方がHDDよりも容量が少なかったのでそうしたのかもしれないが……困ったことをしてくれたものだ……
しょうがないので僕は、困ったときの神頼み、パソコンの「神」である由之にLINE通話で相談した。僕の話を聞くなり由之は、「ブートセクタが死んだんじゃね?」と事も無げに言った。で、その回復の仕方も教えてくれた。
早速僕は先輩のパソコンに SSD を戻し、自分のノートパソコンで回復メディアを作成してそれで先輩のパソコンを起動、ブートセクタを修復する。そして再起動……おお、元通り SSD からOSが起動するようになった!
「やったぁ! ハマちゃん、ありがとー!」
ディスプレイに表示されたデスクトップ画面を見た瞬間、先輩はそう言っていきなり僕に抱きついた。
「うわっ! ちょ、ちょっと、先輩……!」
先輩の体の柔らかい感触に、僕は物理的にも精神的にも押しつぶされそうになる。
しばらく僕を抱きすくめていた先輩は、やがてその手を緩めた。
「やっぱりハマちゃん、頼りになるね」
笑顔で言った先輩のその言葉が、僕には何よりも嬉しかった。
だけど……
元彼に対する先輩の思いはまだ残っている。今日僕は、それを身に沁みて感じた。果たして、僕は彼女に、元彼のことを完全に忘れさせることができるんだろうか……
いや、きっとできるはず。というより、そうしなきゃいけないんだ。僕にとっても、先輩にとっても。
上り坂でサドルから腰を上げた僕は、決意を込めてペダルを踏み下ろす。
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「ねえ、浜田」
「……え?」
新体操部の新部長、佐藤 茉奈が、帰ろうとしていた僕を呼び止める。
今日は体育館での練習日。僕はいつものように部活終わりのミーティングで、カメラの映像を使って一人一人の選手にアドバイスをしていた。それが終わり、解散となってメンバーが三々五々ミーティングルームを出て行く。機材を片付ける必要上、僕がいつも最後にミーティングルームを出るのだが、今日は何故か茉奈が残っていた。そして今、室内は二人きりだ。
「ちょっと、話があるんだけど……いいかな」
「え……なに? 良太のこと?」
「!」茉奈の顔が、火が付いたように赤くなる。「ち、違うって!」
焦る彼女の顔を、僕はわざとらしくニヤニヤしながら眺める。最近良太と茉奈が付き合い始めたという情報は、僕も何となく知っていた。ま、もともと両思いぽかったからな。
「あのさ……令佳先輩のことなんだけど……」
そう言って、茉奈は何やら深刻そうに顔をしかめる。
「……え? 令佳先輩?」
茉奈のその表情に、僕はかすかに嫌な予感を覚える。
「うん……実はね、この前……見ちゃったんだ。令佳先輩が元彼の……
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