第3話 成績順位表なんて載るもんじゃない


 中間考査は火曜日から金曜日まで四日間行われた。予想通り、範囲は広くなく深くも無い。これなら皆いい成績だろう。目立たないのが世の中一番だ。


 

 そして三連休の後の火曜日。成績順位表が中央階段横の掲示板に張り出された。智と俺は関係無い物と思って通り過ぎようとすると、智が


「あっ、京が載っている」

「あはは、冗談だろう。俺なんか載る訳…載っていた。二十五位か」

「凄いじゃないか。俺と弥生ちゃんは載っていないけど、次はもっと教えてくれ」

「まあ、それはその時に…」



-いらしたわ。

-いつ見てもお美しい。

-我らが私立駒門高校の華、そして生徒会長、早瀬愛理はやせあいり様。



 俺はその声に逃げようとしてガシッと腕を摑まれた。

「京之介、どうしたの?初めての考査だから見に来てみれば二十五位なんて」

「いや、これでも頑張った方で」

「また手を抜いたんでしょう。目立つのは良くないとか思って」

「えっとーっ!」

「京、誰?」

「俺のお姉ちゃん」

「えーっ、お前お姉ちゃんいたの?」

「話してなかったっけ?」


 私、有栖川奈央子。まさか、早瀬君のお姉様がこの駒門高校の華と言われる生徒会長早瀬愛理様の弟とは。


 あまり似ていなかったので分からなかった。それに今聞いた所では、本気を出していないと。

 

 何とか彼に近付く方法は無い物かしら。何となくだけど彼の今の言動からして、前の事をいきなり言っても知らんぷりされそうだし。考えないと。



 ふふっ、流石私の…。今はとにかく彼に近付かないと。

「涼子、教室に戻ろう」

「あっ、うん」



 俺はお陰でこの後、教室に戻ってから、クラスメイトから興味深々の目で見られた。

 実を言うとここの学校に入った個人的な理由。それはお姉ちゃんの存在だ。容姿端麗、頭脳優秀なんて上辺だけの人ではない。そう飛んでも無く優秀なのだ。


 そのお姉ちゃんが、俺が高校を決める時、両親に私と同じ高校に入れた方が良い。

 私が見ていないと京之介は絶対に手を抜く。だから、私が京之介を見ます。とか言ってこの高校以外選択肢を無くされてしまった。


-ねえ、早瀬君。姓が同じだからと思っていたけど。やっぱり。

-それに聞いた。二十五位は手抜きだって。

-ねえ、今がチャンスじゃない。

―うんうん。



「智…」

「まあ、黙っていた罰だ」

「お前なぁ」



 それからというもの、誰からともなく声を掛けられた。俺が一番苦手なパターンだ。静かが一番なのに。


 やっと昼休みになり智と一緒に学食に行くと


-来たわよ。

-私達の華、早瀬愛理様の弟君。

-でも抜け駆けは駄目よ。

-分かってるって。


「ははっ、一躍有名なったな」

「だからお姉ちゃんには黙っていてと言ったのに」

「あのさ、あの生徒会長をお姉ちゃんと呼ぶのか?」

「そんな事言ったって小さい頃からずっとだからな」


「ふふっ、1Cでも早瀬さんの噂は凄いです。なんと言っても背が高く細面のイケメンですから」

「智、お前の彼女は認識齟齬が無いか?」

「いや、お前が自己評価低いだけだ」

「でも智だって知っているだろう。俺、彼女いない歴=年齢だぞ」


-ねえ、聞いた。

-うん、純な京様。

-うんうん。


「ぷっ、京様だって」

「勘弁してくれ」




 家に帰ってからお姉ちゃんに

「お姉ちゃん、なんでばらすんだよ」

「京之介は、こうでもしない本気出さないでしょ」

「良いじゃないか。俺は高校三年間スローライフを望んでいたんだ」

「あら、ごめんなさい。でももう遅いわね。明日から普通にしてね。手抜きは駄目よ。武道は手抜きしてないでしょ」

「それとこれとは違うって」

「あら、警視庁から何枚感謝状貰っているの。同じようにすればいいのよ。京之介にとってはスローライフでしょ」

「お姉ちゃん!」


 お陰で学校で要らぬ注目を浴びてしまった。全く。



 そうは言っても人の噂も一週間(嘘です)大分落着いて来た。今週末は体育祭。俺はこの前の健康診断で智と仲良く仲良く百七十五センチになった事もあり、リレーと二百メートルをやらされることになった。智も同じ身長なのにあいつは玉入れと百メートルだ。絶対不公平だ。


 まあ、当日は雨でも降ってくれれば中止になるなんて思っていたら…。


 おい雲達どこ行った?朝から見事な快晴。中止になる気配は微塵も無かった。


 学校の最寄り駅を降りてゆっくりと学校に向かっていると

「京、おはよ」

「おはよ、智」

「元気ないじゃん」

「そりゃそうだよ。こんな快晴の中、リレーと二百メートル走だぞ」

「まあ、じゃんけん鍛えといた方がいい」

「いいよな智は、玉入れと百なんだから」

「運も実力の内さ」


 そんな馬鹿な事を言いながら学校に着くとグラウンドでは、体育祭実行委員達と体育の先生達が、白く線を引いていた。

 

 こうなったら仕方ないか。お姉ちゃんに恥かかせたくないし。



 全員が体育着姿でグランドに並んだ。台の上では校長先生の話が終わり、体育の先生が注意事項を言っている。


 そして全員で準備体操の時間になった。お姉ちゃんが皆の前に来た。長い髪をポニテにしている。背が高く、結構な美人でスタイルも良い。


 お姉ちゃんの体操着姿に男子だけでなく女子も思い切り見ている。はっきりって面白くない。俺だけのお姉ちゃんだぞ。



 無事に準備体操も終り、1Bの集合場所に行った。俺の隣には智が居る。そして、何故か知らないが、最近クラスでやたらと話しかけて来る古城奈津子こじょうなつこさんが座っている。


 彼女は肩より少し長い黒髪で切れ長の綺麗な目、スッとした鼻で可愛い唇が特徴。身長は本人曰く百五十八センチ。今日は髪の毛を可愛いツインテールにしている。


「智、玉入れは三競技目だな」

「ああ、そろそろスタート地点に行くよ」

「頑張ってな」

「おう」


「早瀬君、田中君と仲良いね」

「あいつとは中一からの付き合いだからね」

「そうなんだ。私も中学から一緒の友達がいるけどA組とC組に見事に別れちゃって」

「へぇ、じゃあこの体育祭だとA、B、C組のライバル同士になるんだ」

「まあ、そんな所。ところで私もリレー出るよ」

「えっ、そうなの」

「そうなのって、LHRで誰がなんの競技に出るか決める時、男子が早瀬君になったから手を挙げてじゃんけんで勝ったんだよ。覚えてないの酷いなあ。私が早瀬君にバトン渡すんだから」

「はい」

 全然記憶にございません。出たくなかったので全く耳に入らなかった。


――――

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