第76話 片付けの後で


 クラスの片付けの前に文化祭実行委員が打上の話をした。カラオケで二時間居ても全員支払い無しという事で、俺と一部の生徒を除いてほぼ全員が行く事になった。


 俺はそれを聞いた後、文化祭実行委員と一緒に生徒会室に行った。クラスの模擬店の片付けは全員でやればそんなに大変ではない。


 生徒会室に行くと他の役員と他のクラスの実行委員も居て、門の飾りとか校庭の片付け、通路の飾り付けを手分けして行う事になった。


 俺は、もう一人の庶務と副会長と一緒に門の飾りの片付けの担当になった。三人でワイヤを外して駒門祭と書いてある布を枠と一緒に丁寧に片付けて行く。


 綺麗に元の門だけになると、ゴミとなった飾りを裏庭の焼却施設の横に持って行って終わりだ。


 一時間位かけて終わらせると今度は校庭の片付けの応援に行く。こっちは人数も多いが仕掛けも大きいので結構大変だ。


 やはりこちらも一時間半位かけて終わらせて生徒会室に戻ると詩織さんが俺の傍にやって来て

「京之介様、今日一緒に帰りたいので最後まで残って下さい」

「分かりました」


 この会話に副会長が

「生徒会長、ここで公私混同するのは止めて下さい。あなたは生徒会長です。生徒の見本にもなって頂く方です。その辺を忘れない様にして下さい」


 詩織さんは副会長の顔をジッと見た後、

「副会長の指摘の通りね。気を付けましょう」

「お願いします」


 この副会長、昨日もそうだったが、詩織さんのお目付け役になっている様だ。これでいい。


 §副会長

 私だって生徒会長の様にもっと背が高くて綺麗でスタイルが良ければエントリーしたわよ。

 京様は背が高くて、愛理様と同じ様に綺麗な顔立ちしている。本当は私も早瀬君を好きなのよ。なのに自分だけ狡い。絶対に生徒会室ではイチャイチャさせないんだから。



 そんな事を副会長が考えているとは露知らず、片付けの終わった各クラスの実行委員や他の役員が返って、えっ?なんで副会長帰らないの?


 詩織さんが

「副会長、もう帰ってもいいですよ」

「いえ、やる事が有りますので」


 結局、午後一時まで副会長は帰らなかったが、お腹の音には敵わず少し赤い顔をしながら帰って行った。

「粘られましたね」

「詩織さんが、僕の名前を呼ぶからです」

「以後、気を付けます。では私達も帰りましょうか」

「はい」


 駅に向かいながら

「京之介様、遅くなりましたけどお昼は私が作ります。我が家に来て下さい」

「えっ、それだと結構遅くなりますよね。流石にお腹空いたんですけど」

「では、我家の最寄り駅の傍にあるイタリアンで如何ですか?」

 あれ、前に言っていた行列の出来るラーメン屋に行かないのかな?


「詩織さん、前に言っていた、並ばないといけないラーメン屋に行かないんですか?」

「それはまた今度で。京之介様はラーメンを食べたいのですか。それなら近くに在りますよ」

 何とか、京之介様を私の部屋に連れて行かないと。


「そうしてくれると嬉しいです」

「そうしましょう」



 俺達は前沢の駅の近くにあるラーメン屋というよりザ・町中華という感じのお店に入った。

「へーっ、美味しそうなお店ですね」

「はい、ここはこの辺でも有名なお店です」


 他のお客様も納得という感じで食べている。二人でカウンタに座ってメニューを見ていると店員が水を出してくれた。

「俺はチャーシュー麵で」

「私はチャーハンにします」

「あいよ」

 カウンタを挟んで向かいにある厨房に入っている店員さんが気合よく返事をしてくれた。


 待っている間に詩織さんが

「明日と、明後日お休みです。どちらか会えませんか?」

「済みません。もう予定が入っています」

「そうですか」

 ちょっと寂しそうな声で返事をされた。


 §小手川

 京之介様は間違いなく有栖川さんと会うつもりだ。本当は今日は急がずにゆっくりとお部屋で話して、どちらか会った時にして貰えればと思っていたけど難しくなった。


「京之介様、今度の日曜日は?」

 日曜日は奈央子さんと会う日だけど明日、明後日会う。どうするかな?


「ちょっと都合考えます」

「会って下さい。お願いします」

「ごめんなさい。とにかく考えるので」


 そんな事を話していると注文の品がカウンタに置かれた。中々美味しそうだ。二人で黙って食べている。


 普段はもっと普通に話ながら食べるのに。やっぱり会えないのが厳しいのかな。でも奈央子さんが優先だ。


 食べ終わって別々に会計すると

「京之介様、私の部屋に来て下さい。お話しましょう」

「いいですよ」


 話すだけなら構わないだろう。彼女の家はここから直ぐだ。詩織さんは最初の扉を開けると中に入ってから玄関のドアを開けた。

「京之介様」

「はい」


 玄関を上がっても静かだ。

「お父様は仕事です。お母様は出かけています」

「そうですか」


 二階に上がり彼女の部屋のドアを開けると女の子の匂いが流れて来た。

「京之介様、座って待っていて下さい。冷たい物を持ってきます」

「はい」

 

 少し待っているとトレイに氷の入った冷たそうなジュースを二つ持って来た。それをテーブルに置くと

「京之介様、着替えたいので後ろを向いてくれますか?」

「えっ!俺、部屋を出ていますよ」

「駄目です」


 彼女はドアを背にして立った。相手は全高で一位の空手有段者。退かせないのは直ぐに分かった。


「分かりました。後ろを向いて耳も塞ぎます」

 彼女と反対方向を向いて耳も塞いだ。流石に衣擦れの音とか聞くのはメンタル的に厳しい。でもこれがミスだった。


「京之介様。終わりました」

 俺は耳から手を取って目を開けると目の前に豊満な胸を露わにしてショーツしか履いていない詩織さんが居た。そしていきなり抱き着いて来た。


「京之介様、あなたがいけないんです。私の気持ちを分かっているのに有栖川さんばかり。

 今迄は我慢してきました。京之介様が私を向いてくれるまで待っていました。

 でも日曜日の様な事が有ってはもう待っていられません。京之介様お願いです。有栖川さんに向いていてもいいです。前の様に私を抱いて下さい」

「詩織さん…」


 詩織さんが思い切り俺の体に自分の体を押し付けて来る。はっきりって厳しい。腕も解けない。


 俺は、詩織さんを抱かないで抱擁もしないでずっとそのままにしていた。この前の様な失敗は絶対に出来ない。


 えっ?!足払いの要領でベッドに倒された。油断した。彼女は俺の体の上に乗ってその魅力的な胸を俺の顔に押し付けて来た。

「し、詩織さん」

「お願いです、抱いて下さい」

 涙を流していた。気付かなかった。そこまで俺に…。でも


「詩織さん、駄目です」

「口付けだけでも」

「それなら」


 仕方なく彼女の唇に合せると俺の左腕を彼女の右胸に持って行かれた。とても柔らかい。上から押さえつけるように自分の手で俺の手を動かしてくる。

 奈央子さんには責任取れる年齢まで待ってと言っているのに詩織さんとする事は出来ない。


「詩織さん、これ以上すると嫌いになりますよ」

「えっ?!」


 彼女が手の動きを止めた。

「京之介様、私はそんなに魅力の無い女なのですか?」

「そんな事有る訳ないじゃないですか。でもこういう事は出来ないです。万が一有った時に責任取れません」

「良いのです。あなたの子供なら喜んで産みます」


「駄目に決まっているでしょう。どうしてもと言うなら来年まで待って下さい」

「来年まで待てばしてくれるのですか。必ずしてくれるのですか?」

「完全に守れるかは分からないですけど、とにかく今は出来ません」

「……分かりました。でもここ迄したんです。最後までとは言いません。お願いします」



 俺が彼女の家を出たのはそれから二時間後だった。勿論していない。これ以上奈央子さんを裏切ることは出来ない。

 

―――― 

次回をお楽しみに。

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

カクヨムコン10向けに新作公開しました。現代ファンタジー部門です。

「僕の花が散る前に」

https://kakuyomu.jp/works/16818093089353060867

交通事故で亡くした妻への思いが具現化する物語です。最初の数話固いですけどその後がぐっと読み易くなります。

応援(☆☆☆)宜しくお願いします。

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