第75話 駒門祭の余波はまだ続く


 駒門祭が終わった2Aのクラスでは、文化祭実行委員が

「打ち上げ行くか?」

「行きたいけど雰囲気がなぁ」

「ああ、せっかく売上一位なのに」



 クラスの中は微妙な沈黙が流れていた。有栖川さん、杉崎さん、古城さん、夏目さん、勅使河原さん、石通さんがお互いを牽制するように無言で睨んでいた。

 周りにはクラスメイトが息を呑んで見ている。沈黙を破ったのは有栖川さんだ。


「杉崎さん、古城さん、夏目さん、勅使河原さん、石通さん。もう一度はっきり言いましょう。私は京之介さんとお付き合いしています。もう一年になります。そして彼は私を愛していると言ってくれます。だから諦めて下さい。皆さんに脈はありません」


 勅使河原さんが

「なに勝手に言っているのよ。偶々、京之介様に先に会っただけでしょう。今迄の事じゃない。これからの事は分からないわ」


 石通さんが

「勅使河原さんの言う通りよ。今迄事なんて関係無いわ。それに体の関係も無いんでしょう」


 有栖川さんが

「京之介さんは、責任を取れる年齢まで待って欲しいと言っているのです」


 杉崎さんが

「そんなの本当は有栖川さん、あなたに躊躇しているからでしょう。本当に好きならそんな事言わないわ」


 §古城

 杉崎さん、それは間違いよ。有栖川さんの言っている事は、私もそうだと思う。彼はそういう事はしっかりしているもの。出なければ今頃有栖川さんと彼は肉体関係になっている。


 §夏目さん

 この人達がどうのなんて私には関係ない。早瀬君と結ばれるのは私よ。さて帰るかな。

「皆さん、言うのは勝手だけど、最後に早瀬君と結ばれるのは私よ。じゃあねえ」


 有栖川さんが

「皆さんが何と言おうと京之介さんと私の間に入る事は出来ません。私も帰ります」

 今夜京之介さんに連絡する。そうすればもう一度私が愛されている事が分かる。


 それを最後にクラスメイトや他の人達も教室を出て行った。


「なあ、結局、打上なしだな」

「このお金どうする?生徒会からの援助分と売上からスーパーへの支払い引いても五万も残っているぞ」

「明日、もう一回誘ってみるか」

「そうだな」




 俺は、風呂からも上がって部屋で明日以降の事を考えていた。お姉ちゃんやお母さんが詩織さんを推しても俺は奈央子さんを選ぶ。でもそれを公表しても納まるのだろうか。


スマホが震えた。画面を見ると奈央子さんだ。画面をタップすると

『京之介さん、奈央子です』

『はい』

『今日の事なんですけど…』

『いいですよ。奈央子さんが言わなくても誰かが言ったでしょうから』

『京之介さん、明日は片付けですけど明後日と明々後日は休みですよね。お会いしたいです』

『良いですよ』

 まあ、不安だろうからな。


『京之介さん、明日の事なんですけど…。皆さんの前ではっきりと言ってくれるんですよね』

『ええ、ここまで来ればもうそうするしかないでしょう。でもあくまでも聞かれたらです。智と碧海さんは知っているし』

『はい、それで結構です。あの…』

『はい』

『京之介さん、もう一度あの言葉が聞きたいです』

 あの言葉?あれか。


『奈央子さん、愛していてます』

『私も京之介さんをしてます。聞けて良かったです。また明日。お休みなさい』

『お休みなさい』


 良かった。京之介さんの気持ちが揺れる事は無かった。これで安心して眠れる。


 最後の言葉が聞きたかったのかな。俺の気持ちは変わらないですよ。奈央子さん。



 翌日、学校の最寄り駅を降りると改札を通る辺りから周りの視線を浴びた。悪意の視線は感じないが、なんとも言えない。歩き始めると後ろから智が声を掛けて来た。


「京、おはよう」

「おはよう智、碧海さん」

「おはようございます。早瀬君」

「智、昨日は助かったよ。ありがとう」

「良いって事。俺と京の仲じゃないか」

 碧海さんは何も聞かない。智から昨日の帰りの事は伝えられているんだろう。


 学校まで同じ制服を着た生徒からの好奇心の目が凄かった。

-あいつだろ。昨日のミスコンエントリー者全員から好意を寄せられている奴って。

-ああ、羨ましい限りだけどな。

-でもあれで終わった訳じゃないだろう。

-俺はあいつのお陰で久しぶりに愛理様を見れたから良いけど。

-しかし、あの愛理様と姉弟だなんて羨ましい限りだよ。

-その通りだな。


「京、気にするな」

「智、分かっているけど」

 奈央子さん達の件もあるが、俺がお姉ちゃんの弟だって事がバレた事の方が男子にはインパクトが大きいのかもしれない。一度は知られた筈なんだけどな。



 昇降口で自分の下駄箱を開けてもカードは入っていなかった。それもそうか。あの八人と自分を比べる人は早々居ないだろう。



 教室に入って行くといつもと変わりない雰囲気だ。良かった。バッグを机の横に掛けて座ると前に座って居る奈央子さんが

「京之介さん、おはようございます」

「おはようございます。奈央子さん」


-ねえ、聞いた。

-名前呼びしたわよね。

-うん、昨日の事は本当だったんだ。


 §勅使河原さん

 有栖川さん、いきなり先制パンチね。自分は京之介様の彼女だとアピールしている。私だって

「京之介様、おはようございます」

「おはよございます。勅使河原さん」

「京之介様、あの時の様に紫苑と名前で呼んで下さい」

「でもここは学校だし」

「でも有栖川さんには名前呼びしましたよね。私もそうして下さい」


 石通さんが

「待ってよ勅使河原さん。私だって。京様おはようございます」

「おはようございます。石通さん」

「私も沙羅って呼んで下さい」

「いや、でも」


「勅使河原さん、石通さん。名前呼びされるのは私だけです」

「「ふん!」」

これは面倒だな。


 そんなやり取りをしていると予鈴が鳴って担任の桃ちゃん先生が入って来た。

「皆さん、おはようございます。今日は駒門祭の片付けです。明日と明後日は駒門祭の代休となりますが、気を抜いて怪我などしない様にして下さい。

 本日の職員会議でも昨日のミスコン祭が議題に上がりました。皆さんは高校生です。恋愛するは自由ですが、本文はあくまで勉学であるという事を忘れないように、それと…コホン。行き過ぎた交際に発展する事の無い様にして下さい。分かっていますね。次の連絡事項ですが…」


やっぱり言われたか。仕方ない。でも先生の言っている通りだ。俺も気を付けないと。


―――― 

次回をお楽しみに。

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

カクヨムコン10向けに新作公開しました。現代ファンタジー部門です。

「僕の花が散る前に」

https://kakuyomu.jp/works/16818093089353060867

交通事故で亡くした妻への思いが具現化する物語です。最初の数話固いですけどその後がぐっと読み易くなります。

応援(☆☆☆)宜しくお願いします。

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