第74話 ミス駒門のティアラは誰の頭上に
「はい、私が参加するわ」
「えっ?!」
なんと、お姉ちゃんが手を挙げた。
「あの、早瀬愛理様。ここは現役生だけの…」
「いいじゃない。私が三年間ここの生徒の時は、ミスコンを開催しなかったわ。だから参加したいのよ。駒門高校のOGとして」
「でも開催しなかった理由は、愛理様が…」
お姉ちゃんが観客席を一通り見ると
「観客の皆さん。私がミスコンに参加してもいいでしょうか?」
「「「「「「「愛理様ーっ、参加してーっ!」」」」」」」
「「「「「「「そうだ、我らが駒門の華、愛理様を参加させろーっ!」」」」」」」
「「「「「「「参加、参加、参加、参加」」」」」」」
「司会者の方如何かしら?観客席の方は私の参加を希望しているわ」
「ちょっと、待って下さい」
司会者は、舞台上の係員と一緒に袖口の待機所に消えた。
-おい、愛理様が参加するという事は。
-そうだよな。
-一択しかなくなるよな。
-それしかないだろう。
-愛理様、いつ見てもお美しい。
-見られるだけでも嬉しい。
-投票する意味無いわね。
-それしかないもの。
待つ事五分。司会者が現れた。
「えーっ、皆さん。ミスコン運営局で検討した結果、早瀬愛理様を参加させることになりました。
「「「「「「「おーっ!」」」」」」」
「「「「「「「きゃーっ!」」」」」」」
「それに伴い、皆様のスマホに配布してありますミスコン投票ボタンには愛理様が追加されました。バックスクリーンにも追加しています。それでは…、皆さん…、投票を開始して下さい」
ピ、ピ、ピ、ピ、ピ、ピ、ピ、ピ
バックスクリーンに映し出された名前の横に得票数が表示され…。あれっ、お姉ちゃん以外入らない。壊れたのか?
司会者が小声で
「おい、壊れて無いよな?」
「当たり前だ。俺だって…」
「投票結果が出たようです。一番得票を得た方は…。言う必要も無いですね。万票で早瀬愛理様でーす」
「「「「「「「おーっ!」」」」」」」
「「「「「「「きゃーっ!」」」」」」」
「「「「「「「愛理様、愛理様、愛理様、愛理様、愛理様、愛理様、愛理様」」」」」」」
凄い、流石お姉ちゃんだ。
「皆さーん。静かにして下さい。それでは早瀬愛理様。壇上にお上がり下さい」
後の八人は呆れたというか感心した顔している。
司会者が
「おめでとうございます。愛理様。観客全員の得票です。一言お願いします」
「会場にいらした皆さん。久しぶりです。早瀬愛理です」
「「「「「「「おーっ!」」」」」」」
「「「「「「「きゃーっ!」」」」」」」
「私は、このコンテストの趣旨を聞いたのは駒門祭の前日でした。私個人の押しはともかく、皆様がミス駒門を選んで頂けると言う事であれば、静かに見ているつもりでした。
でもこのミスコンの趣旨が、私の大切な弟、京之介の彼女を選ぶミスコンという事では黙っていられなくなった次第です。
恋愛とは相思相愛の元に成り立つもの。例えどちらかにどれだけの理由が有ろうとも一方的に押し付けるもではありません。
ミスコン一位が一方的に私の弟の彼女に収まるなど姉として許される物ではありません」
「「「「「「「そうだ!そうだ!そうだ!」」」」」」」
「京之介、陰に居ないで出て来なさい」
お姉ちゃん。…俺は仕方なく舞台の上に上がりお姉ちゃんの横に立った。
-おい、早瀬京之介。
-KHだ。
-この八人が早瀬の彼女ポジを争っていたのか?
-そうらしいな。
-京様よ。
-うん。
-勝負にならないわよ。
-片思いの三年間か。
-まだ二年半よ。
-望みは…。
-無いわね。
「京之介、今ここであなたは彼女を誰をしたいか、誰を愛しているかなんて事を言う必要はありません。
でも、あなたの中途半端な姿勢がこの様なミスコンを開催する事になったのです。もうここまで来たら隠す理由はありません。明日からはっきりとその姿勢を見せなさい」
「分かったよ。お姉ちゃん」
-なあ、早瀬の奴、あの愛理様をお姉ちゃんって呼ぶのか?
-五月蠅い。今はそんな所じゃない。
「えーっ、熱い姉弟愛を見せて頂きましたところで、改めてミス駒門を発表します。第五十回ミス駒門は本校のOG早瀬愛理様に決まりました。改めて大きな拍手をお願い…」
「おい、ちょっと待った」
係の人間が声を掛けて来た。
「なんだ、良い所で?」
「あれ、あれどうするんだ?」
司会者が舞台の袖を見た。
「あっ、ティアラ。でも誰が渡すんだ?」
「それはお前が考えろ」
「えーっ、失礼しました。ミス駒門にはティアラが贈呈されます。なのですがー」
「いいわ、私が自分で」
お姉ちゃんが自分で袖に行ってティアラを持って来た。
「京之介、私の頭に乗せて」
「うん」
俺がお姉ちゃんからティアラを受け取って、少し膝を落としたお姉ちゃんの頭にティアラを乗せた。
「「「「「「「うぉーっ!」」」」」」」
「「「「「「「きゃーっ!」」」」」」」
-素敵過ぎて、息がー。
-わ、私もー。
「それでは改めて、第五十回ミス駒門に選ばれたのは、我が校のOG早瀬愛理様でしたーっ!大きな拍手を送りましょう」
凄い拍手だ。何百人もの人が一斉に拍手をしている。初めてだ。こんな事。
§有栖川
京之介さんのお姉様がはっきりと言ってくれた。もう明日からは私が彼の彼女だと言う事を思い切り皆の前で言う事が出来る。
§小手川
まだ、終わった訳では無いわ。最後に京之介様が選んでくれるのは間違いなく私。もう明日からは隠さなくていい。
§夏目
こうなったら、強行手段を使っても彼の心の中に入ってやる。
§杉原
時間が無くなったわね。お兄ちゃんの
§古城
もう駄目かなぁ。ちょっと相手が悪すぎるよ。
§勅使河原
こうなったら、徹底的にアプローチするしかない。他の人に京之介様を取られてなるものですか。
§石通
まさかこんな事になるとは。鹿児島から出て来て京様の傍にずっと居れると思ったのに。こうなったら親族を使ってでも彼の傍に居るんだ。
§新垣
ふん、見ていなさい。早瀬先輩の心の中に入れるのは私だけよ。
俺はミスコン祭が終わった後、一人で生徒会室に戻ろうとすると
「京之介、私も生徒会室に行くわ。今、あなたが一人行ったらどうなるか想像つくでしょう」
「お姉ちゃん…」
はっきり言って、今回のミスコン祭は俺に取って最悪の結果となった。
ミス駒門をお姉ちゃんが参加する事によって他の八人のいずれにも決まらない事は良かったが、来年まで守り通そうとした秘密をもう隠せなくなった。明日からの事が全く見えない。
お姉ちゃんが参加しなくても奈央子さんの発言で結果的には同じ事になっていた。だから彼女に思う所は何も無い。でもあそこまで積極的な人だったとは。
ミスコン祭の会場は校庭全体を使って開催された。だから生徒会室まで歩く俺達の両脇には久々に現れたお姉ちゃんと俺を見ようとする生徒や関係者で人の壁となっていた。
お姉ちゃんはその笑顔でみんなを魅了していたが俺は頭の中はこれからどうすればいいかで一杯だった。
昇降口で智が待っていた。
「京、先生から裏門の鍵を貸して貰っている。生徒会室の前で待っているから終わったら、お姉さんと一緒に脱出だぞ」
「ありがとう、智」
やはり智は俺の絶対的な親友だ。
俺とお姉ちゃんが生徒会室に入って行くと詩織さんが
「京之介様…」
「生徒会長、申し訳ないですけど余韻に浸っている訳には行きません。各クラスから売上と経費精算の資料が届きます。後、売上No1の結果発表もしないといけません。早瀬君、手伝って」
「はい」
§早瀬愛理
ふふっ、流石副会長ね。しっかりと会長をサポートしているわ。久々に見ていようかしら。私は生徒会室の作業テーブルの横に置かれているソファに座ると役員の動きを黙って見ていた。
三十分程で売上経費精算は終わり2Aが断然のトップになった。三百人分のたこ焼きを良く焼けた物ね。
さてと、
「小手川さん、今日は弟をもう帰させて貰って良いわね」
「はい、愛理様」
「京之介帰るわよ」
「分かった」
本当は生徒会の仕事はまだ残っている。でも今日は身を引いた方が良さそうだ。
生徒会室を出ると表で待っていた智と一緒に三人で裏門から学校を出た。駅までいつもと違う道を通り、三人で電車に乗った。
智は隣駅、俺達はそれから更に三駅行った所だ。駅を降りてから
「お姉ちゃん、今日はありがとう」
「当たり前よ。京之介の彼女をあんな事で決めさせる訳には行かないわ。でも、もうはっきりするしかないわね」
「その事だけど。どうしてもはっきりしないと駄目?」
「気持は分かるけど、あそこまで明らかになった以上、この件を先延ばしすればする程、収拾を付ける事が難しくなるわ。もう決心しなさい。でもその方が返って静かになるかもしれないわよ」
「……………」
今回の事は悩んでも解決出来ない。お姉ちゃんの言っている事はいつも正しい。でもどうするかな。
――――
この物語まだまだ続きます。
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
カクヨムコン10向けに新作公開しました。現代ファンタジー部門です。
「僕の花が散る前に」
https://kakuyomu.jp/works/16818093089353060867
交通事故で亡くした妻への思いが具現化する物語です。最初の数話固いですけどその後がぐっと読み易くなります。
応援(☆☆☆)宜しくお願いします。
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