第78話 石通さんは考える

少し短いです。

―――――


 §石通

 私は鹿児島から出て来た時、四つの事を考えていた。この考えは兄にも両親にも伝えた上でのことだ。

-京様の家に住み込みで彼の世話をする。

-モテるのは分かっていたから少しは彼の傍で騒いでいる女の子は居る。

-だけど私程、京様への気持ちが強い人間は居ないから問題ない。

-だから東京に出て来て彼の家で彼のお世話をしていずれは彼の妻になれる。

 そう考えていた。


 一緒に来た母は私が住み込みになれれば、マンションはそのままに鹿児島に帰る予定だった。


 だけど現実は、私以外に七人もの女子が彼に好意を持っている。私と同じように助けられた子は私以外に二人。そして最初に彼を見つけた有栖川奈央子という子が、今彼女の座についている。


 何とか、彼女を引き離し、私が彼の隣に来る様にしたい。とにかく初日から上手く行かない。悩んでいるとお母様が、

「沙羅、お父様にお願いして見たら」


 それは最後の手段と思っていた。結婚の時の最後の詰めと思っていた。高校は後一年半。大学は四年ある。それまでに正カノの座に立てればいいと思っていただけにお母様の言葉に驚いた。


「お母様、お父様は最後の詰めで…」

「いいの、そんなにのんびりしていて。気が付いたら他の子が早瀬君と切っても切れない縁になってしまっているかも知れないわよ」

「それは…」



 駒門祭の代休が終わった木曜日、私は京様の家の門の前で待っていた。京様が出てくると直ぐに傍に行って

「京様、おはようございます」

「おはようございます。石通さん」

「京様、二人だけの時は沙羅と呼んで下さい」

「名前呼びはちょっと」

「いいではないですか。二人だけの時ですから」



 学校の最寄り駅まで、京様と一緒に行く。勿論電車の中ではぴったりと傍にいる。こうして学校の教室まで行くのだけど、改札を出た所で

「京之介さん、おはようございます」

「奈央子さん、おはようございます」


 有栖川さんは私が居る事など全く無視して京様の横に並ぶと当然という顔をして一緒に歩き始めた。京様も納得している感じだ。いつもは居ない筈の有栖川さんがなんで今日から。


「有栖川さん、今日はどういう風の吹き回しですか。学校まで一緒に行くのは私です」

 返答をしない。私を無視している。


 有栖川さんが

「京之介さん、お休みの時、私の家で作って差し上げてお昼の食事は如何でした?」

「とても美味しかったです」

「では、また作って一緒に食べましょう。私の家で」

 奈央子さん、この前は石通さんの事無視すると言っていたのになんでこんなに挑発する様な事言うんだ?


 明らかに私を意識した言葉だ。

「京様、お昼なら私も作ります。私の家で食べましょう」

「石通さん、京之介さんのお昼を作れるのはこの私だけです。横から変な事は言わないで下さい」

「何勝手な事言っているのよ。あなただけが作る権利があるなんてどこの法律よ?」

「二人共止めて下さい。周りの注目の的です」


 京様に言われて周りを見ると同じ制服姿の生徒が笑っている。でも今のは引けない言葉だ。そうか、そうだ家が近いんだから休みの日に昼食を誘えばいいんだ。



 §田中智也

 いつものように後ろから京に声を掛けようとしたら電車から石通さんと一緒に降りてきた後、有栖川さんが京に声を掛けた。


 そこまでは良かったのだが、有栖川さんが石通さんを煽る様な事を言った物だから大きな声になってしまった。


「智也君」

「なに弥生ちゃん」

「早瀬君の正カノ争いっていつまで続くのかな?」

「俺にも分からない。一人が選ばれるとすると他の七人が京を諦めなければいけない。でもそんなに簡単にあきらめる様な人達じゃ無い気がする。高校生の間だけで決着着くとは思えないし」

「大学に行ったからって同じでしょ」

「そうだよなぁ」


 京の後ろから三メートルほど離れて様子を見ている内に学校に着いた。明日からどうなるんだ?


―――― 

次回をお楽しみに。

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

カクヨムコン10向けに新作公開しました。現代ファンタジー部門です。

「僕の花が散る前に」

https://kakuyomu.jp/works/16818093089353060867

交通事故で亡くした妻への思いが具現化する物語です。最初の数話固いですけどその後がぐっと読み易くなります。

応援(☆☆☆)宜しくお願いします。


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