第79話 進展しなくても知らない所で事は進む


 朝の通学は右に奈央子さん、左に石通さんというのが決まりつつあった。俺としては奈央子さんとだけなら良いのだが、そうもいかない感じだ。


 教室に行けば杉崎さん、夏目さん、古城さん、勅使河原さんが周りを気にせずに話しかけて来る。


 そして時折1Aの新垣沙理さんが、訪ねて来るという状況だ。そんな俺を見て昼休みに智が、


「京、いつまでこんなハーレム状況が続くんだ?」

「俺が知りたいよ。皆には奈央子さんと付き合っていると言っているのに聞く耳持っていないんだから」

「そうだよな。普通付き合っている彼女が居れば他の子は身を引くだろうに」


「智也君、今回の場合状況が違うわ。早瀬君に好意を寄せているのは有栖川さん以外に七人もいるのよ。完全に集団心理よ。私(達)なら奪い取れると思っているのよ」

「しかしなぁ、京を好きな子はどの子も可愛い。当然彼女達を好きな子もいる訳だから…まあ、京が襲われる事は無いけどな」


 詩織さんは、あの件が有ってから少し距離を置く感じだったけど、二週間位で元に戻った。今までの様なお淑やかな感じではない。


 勿論学校ではそんな素振りも見せいないけど下校時は、校門を出ると積極的だ。しっかりと俺に腕を絡ませて来る。

 学校の傍だから控えてと言っても、駅までしか出来ないんですと言って離してくれない。


 そんな状況が、一ヶ月も続き、二年生二学期の中間考査が行われた。結果は、俺、奈央子さん、勅使河原さんそれに石通さんが満点一位。


 杉崎さん、古城さん、夏目さんが十位以内に入って来ている。そして今迄気付かなかったけど新垣沙理さんの姉、新垣梨音さんも十位以内に入っている。智が

「なあ、益々凄くなってきているけど」

「智也君、愛の力って怖いわね」


 そういう二人もいつの間にか四十位の中に入って来ている。この二人だって凄い。そして中間考査が終わるとクラスの中は、三週間後に迫った修学旅行の話題に移って来た。


「智、俺修学旅行行くの止めようかと思っている」

「えっ、なんで?」

「なんか、あんまりいい事無さそうな感じがして」

「気持は分かるけど、京が行かないと俺が詰まらない」


「碧海さんがいるじゃないか」

「弥生ちゃんはBクラスだから。早々に一緒にならないよ」

「そうかぁ。智がそう言うなら仕方ない、行くしかないか」

「そうしてくれ。でも班分けどうなるんだろう?」

「さぁな?」



 中間考査が終わった土曜日、俺はいつもの様に道場に出かけた。そして着替え終わって神前に礼をしようとした時、加納師範代が

「皆、聞いてくれ。今日から新しい入門者がいる。全高女子一位の小手川詩織さんだ」


「「「「「「「おーっ!」」」」」」」


 えっ、詩織さん!


 俺の驚きを余所に

「加納師範代から紹介されました小手川詩織です。宜しくお願いします」


-綺麗だなぁ。

-綺麗ねぇ。


 その後、基本の型を全員で練習した後、練度毎の型になった。詩織さんは、俺に近付いて来て小声で

「宜しくお願いしますね。京之介様」

 なんて言って来る。


 師範や師範代は俺と詩織さんとの関係は知らない。だからという訳ではないが、本来男女が組手をするという事は無いのだけど

「京之介、小手川さんと組んでみるか。全高の時、お互い見ているだろう」

「はい、全高一位の早瀬さんと組手出来るなんて幸せです。宜しくお願いします」

「こちらこそ宜しく」


 詩織さんは、技、スピード共に素晴らしく、早々に決め手を出す事が出来ないけど、やはり男子とは違う。でも詩織さんに打ち込むのは躊躇う。悩んでいる俺が分かったのか

「早瀬さん、女だと思って手を抜いていると…」


 一気に間合いを詰められた。正拳を打ち込むと分かったので、直ぐに後ろに飛び去って、避けた。

 やっぱり手加減は出来ないか。でもなぁ。掌底も正拳も足払いも出来ないよ。迷っていると加納師範代が待ったを掛けた。

「どうした京之介、腰が引けているぞ」

「はい」

「もう一度だ」


 防具は着けているしいいか。構えた瞬間に間合いを詰めて…男なら胸とか顎に打てるんだけど、仕方なく同回し蹴りを入れた。詩織さんが倒れた所で

「そこまでだ」

 

 彼女が立ち上がると何故かウィンクしながら

「早瀬さん、流石です」



 結局、稽古が終わった後は、一緒に道場を出たのだが、

「京之介様、土曜日は稽古の後、お会いして頂けますよね」

「日本舞踊は?」

「はい、日曜です」

「しかし、同じ道場に来るとは思いませんでした。前の道場は大丈夫だったのですか。貴方ほどの人が抜けると…」


「構いません。幼い頃からお世話になっていましたが、事情を話して納得して貰いました」

「事情?」

「はい、将来私の夫になる方の道場に行きたいと言って」

「詩織さん!」

「いけませんか?」

 この人開き直ったよ。


「俺は、奈央子さんと付き合っているんです。彼女が好きなんです」

「はい、分かっています。でも私は京之介様を最後まで諦めません」

「……………」

 なんて返せば良いんだ。全く。


 結局、土曜日は詩織さんと稽古が終わった後は、一緒にお昼を食べて話をして別れるという事になってしまった。どうすればいいんだ。


―――― 

次回をお楽しみに。

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

カクヨムコン10向けに新作公開しました。現代ファンタジー部門です。

「僕の花が散る前に」

https://kakuyomu.jp/works/16818093089353060867

交通事故で亡くした妻への思いが具現化する物語です。最初の数話固いですけどその後がぐっと読み易くなります。

応援(☆☆☆)宜しくお願いします。

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