第39話 奈央子さんと初詣


 俺は、午前十時十五分前に奈央子さんの家の最寄り駅の改札を出て待っていた。五分前になって駅のロータリーに車が停まった。


 見ていると後部座席から淡いピンクを基調とした綺麗な着物を着た女性が現れた。最初はその人が奈央子さんだとは気付かずに見ていると俺に近付いて来て


「京之介さん、明けましておめでとうございます」

「えっ!明けましておめでとうございます。奈央子さん」

「どうしたのですか?」

「いえ…」

 普段の洋服からは想像がつかない位綺麗だ。この人和服姿が似合うんだな。


「はっきりと仰ってください」

「その、とても綺麗で…上手く言い表せないですけ、とにかく綺麗です」

 自分のボキャブラリの無さを悔いるしかない。


「嬉しいです。京之介さんからその様な言葉を頂けるなんて。京之介さん、行きましょうか」

 そう言うと彼女は車の方に向かって行った。


「あの、歩いて行くんじゃないんですか?」

「はい、近くにも神社は有りますけど、初詣は車で五分程の所にある神社に行きます。乗りましょう」


 俺は言われたままに、奈央子さんが乗ってドアが閉まるのを確認してから反対側のドアから乗った。


 運転席に座っている男性が

「明けましておめでとう早瀬君。いつぞやは失礼した。奈央子の父親の有栖川慎太郎ありすがわしんたろうだ」

「有栖川さん、明けましておめでとうございます」


 そう言うと奈央子さんのお父さんは車を走らせた。社内では無言のままだ。五分程して神社の近くに着くと


「二人共降りてくれ。私は車を駐車場に入れて来る。後で追いつくから先に並んで待っていてくれ」

「はい、お父様、京之介さん、行きましょう」


 俺が先に車を降りてから奈央子さんの方に素早く回ってドアを開けた。

「ありがとうございます。京之介さん」


 着物姿で車の乗り降りが大変なのはお姉ちゃんの着物姿で知っている。俺達が参道の入口辺りまで並んでいる列の後に付くと


「大きな神社ですね」

「はい、この辺では有名な八幡神宮です。毎年ここに初詣に来ています。今年は京之介さんと来られて嬉しいです」

「俺もです」


 少しずつ進みながら待っていると奈央子さんのお父さんが近付いて来た。和服姿だ。

「奈央子、私は列の一番後ろに並ぶから二人で先にお参りしなさい」

「分かりました」


 奈央子さんのお父さんが後ろに行くと

「お父様、気を使ってくれています」

「そうですね」


「京之介さん、今年は同じクラスになりますね。楽しみです」

「俺もです」

 京之介さんが、私の言っている事に嫌な雰囲気を出さない。悦ちゃんが行っている通り、この人は本当に私の事が好きなんだ。



 鳥居を潜って少し歩くと左手に手のお清め場洗心がある。そこで手を洗ってから二十分位待って、ようやく境内に入った。でもまだ結構並んでいる。この辺まで来ると二人共無口になる。


 本堂の前に着き、お賽銭をあげた後、二拍二礼一泊して横にずれた。奈央子さんのお父さんも後五番目位だ。

「京之介さん、おみくじを引きましょう」

「はい」


 お金を箱の中に入れて六角の箱を回して棒を一本出す。十五番だ。目の前に十五番と書いてある引出しを引いて一番上のおみくじを取ってから横にずれた。奈央子さんも同じようにしている。


 俺は、丁寧におみくじを開けると

「おっ、大吉だ」

「えっ、私は…中吉です。そんなぁ」


 よく見るとなんか微妙な事が書いてある。

 願望 何事も叶う…。

 縁談 真剣さに掛ける場合は安易に話を受けるべからず…。

 恋愛 交際円満にしてうららかな春が続くが長すぎる春はいけない…。

 

 これどうやって受け止めればいいんだ?


「京之介さん、何と書いて有ったんですか?」

「えっ、これは見なくても」

「私も見せますから」


 そう言って奈央子さんのおみくじを俺の体にくっつけて来た。仕方なく彼女のおみくじを見ると

 願望 日々の努力と強い達成意思をもってのぞむべし

 と書いてある。まさか今年も去年と同じ?


 京之介さんのおみくじに恋愛は長すぎた春は良くないと言っている。やはり今年も。でも悦ちゃんも言っていた。一歩引いて冷静に考えろと。



 二人でお互いのおみくじを見ていると奈央子さんのお父さんが破魔矢を持ってこちらに来た。

「そろそろ家に帰るか」

「はい、このおみくじ、結び付けて来ます。京之介さん、あそこに行きましょう」

「はい」


 あの子が、奈央子を助けた子か。確かに誠実そうな子だ。今奈央子は彼の事しか見えていない。

 本来なら過去経験が比較対象になっていても良いのだが、奈央子は幼い頃から男の子と話すのが苦手だった。でもあの早瀬君には素直に話している。上手く行ってくれると良いんだが。



 俺と奈央子さんは彼女のお父さんが運転する車で彼女の家まで着くと

「京之介さん、少し上がって行って下さい」

「そうだ。この前は上がって貰えなかったからな。ぜひ上がってくれ」


 この雰囲気では断ることは出来ないな。

「はい、上がらせて頂きます」



 俺は、奈央子さんの後から玄関に入り靴を脱いで揃えると家の中に上がった。

「早瀬君、こっちに来てくれ」

「京之介さん、私も着物を脱いだらそちらに行きます」

「分かりました」


 奈央子さんはお母さんと一緒に奥の方に歩いて行った。俺は彼女のお父さんに案内されて行くと和室に大きな和風の座卓が置いて有りその上に見事なまでのおせちが並んでいた。


「そちらに座ってくれ」

「はい」


 普段から道場で正座をしていて良かった。彼女のお父さんの反対側に座ると

「娘が着替えて来る迄少し時間が有る。ゆっくりとしていってくれ」

「ありがとうございます」


 少しして、先程奈央子さんと一緒に奥に行った奈央子さんのお母さんが、良い匂いのするお茶を持って入って来た。

「奈央子の母です」


 頭を下げられたので俺も頭を下げながら

「早瀬京之介と言います」


 奈央子さんのご両親と学校の話とかしていると奈央子さんが普段俺と会う様な格好で入って来た。


「お待たせしました。京之介さん」

「奈央子、改めて早瀬君を紹介して貰えないか」

「はい、京之介さんは、私が中学三年の時、暴漢から救ってくれた命の恩人です。学校では、考査は満点、この前の模試でも全国一位の優秀な方です」

「全国一位…。流石に驚いたな。そこまでとは」

「気にしないで下さい。今だけです。三年になって受験時期なったら、あっという間に俺なんか埋もれてしまいますよ」

「京之介さんはいつも自分を低く見せようとする人なんです。でもやれば、他の人の手の届かない事を平気でやれる人なんです」

「奈央子さん、褒め過ぎです。俺なんか直ぐに埋もれますよ」

「はははっ、なるほど。ところでいつからお互いが名前呼びをするまでになったんのだ?」

「お父様、そういうプライベートな事は聞かないで下さい」

「おう、そうか済まない。そうだ、今日は早瀬君が来るというので妻が一生懸命手作りしたおせちだ。思い切り食べてお腹一杯にしてくれ」

「ありがとうございます」


「お茶を取り換えましょう」

「お母さん、ジュースを持ってきます」

「そうね、私が行って来るわ」


 お母さんが俺と奈央子さんのジュース持って来た。

「京之介さん、食べましょうか」

「はい、頂きます」

「召し上がれ」


 食べながらご両親は奈央子さんの幼い頃の話とかし始めた。ちょっと可愛い逸話も交えて話しているので、その度に彼女の頬が赤く染まった。


 午後一時になり、

「京之介さん、私の部屋に行きませんか」

「えっ、でも」

「いいではないですか」


 ご両親の顔を見ると行っても構わないという顔をしている。これは断れないな。

「分かりました」



 奈央子さんの部屋は階段を上がった二階に在る。部屋を開けたとたんに女の子の匂いが一杯漏れて来た。


「京之介さんも部屋より狭いですけど」

「そんな事無いですよ」


 彼女がドアを閉めるといきなり抱き着いて来た。そして

「京之介さん、ここで抱いてくれとは言いません。でも…」


 奈央子さんは目を閉じた。口付けだけならと思い応じるとやはり彼女は俺の右手を自分の胸に持って行った。

 そのままゆっくりと触っていると、えっ、気が付かない内に彼女のブラウスのボタンは全て取られて可愛い薄ピンクのブラが露わになった。


 でも彼女は俺の手を自分の胸に押し付けている。俺は唇を離すと

「奈央子さん、さっき抱いてくれなくてもって…」

「はい、抱いてくれなくてもいいです。でも私の体を感じて下さい」


 俺が手を止めて彼女の顔をジッと見ていると

「京之介さん、もう何が何でも全部貰って下さいとは言いません。もし、万一そうしてくれても結婚とかあなたを束縛するような事は一切要求しません。だから今日だけは、この元旦だけは私の我儘を聞いて下さい」

「………………」


 目を閉じている彼女の唇にもう一度口付けをするとブラの上から優しく触った。ゆっくりと撫でていると、えっ?ブラが外れた。そして彼女が取り除いた。


 柔らかい。とても柔らかい。彼女が舌を入れて来た。


『京之介、それ以上の関係は止めなさい。有栖川さんと結婚するの?』


 お姉ちゃん…。


 俺も健全な高校生だ、こんなに綺麗な人の何も身に着けてない上半身を見て何もしないほど理性は強くない。でも結婚を条件にされたら…。


 奈央子さんは、唇を一度離すと

「どうして止めるんですか?私は何をされても代償は求めません」

「ここは、奈央子さんの家、それも初詣に来た日です。流石にここ迄が限界です」


 何という強い意志。流石だわ京之介さん。でも私の体は欲しいと言っているのですよ。


「どうしてもですか?」

「はい、また別の日に」

「分かりました」


 もう、果実は落ちる寸前です。後はそれを受け取ればいいだけ。そうすれば私と京之介さんは結ばれる。


―――― 

次回をお楽しみに。

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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