第40話 詩織さんと初詣とデート
翌日、二日。俺とお姉ちゃんはお父さんよりお年玉を貰った。お年玉袋を覗くと渋沢さんが三枚入っている。嬉しい。でもお姉ちゃんの方が厚い様な?
朝食はお雑煮とおせち。家族でゆっくり食べているとお姉ちゃんが
「京之介、詩織ちゃんが午前十時にここに来るわ。二人で初詣行って来なさい」
「えっ、ここに。なんで知っているの?」
「私が教えているからよ。元生徒会長と新生徒会長の関係だもの不思議ではないでしょう」
「確かにそうだけど」
なぜか、お父さんは関係ない顔をしているし、お母さんは少し微笑んでいる様な気がする。気の所為か?
リビングでのんびりしていると午前十時少し前にお姉ちゃんが
「京之介もうすぐ着くと連絡が有ったわ」
「分かった」
外に出て待っていると大型のワゴン車が車止めに停まった。後部ドアが横にスライドして着物を着た綺麗な女性が現れた。
水色をベースに綺麗な花柄が描かれている。髪の毛は纏められ綺麗な金色の簪が差してある。素敵だ。
詩織さんは車を降りて立つとゆっくりとお辞儀をした後
「明けましておめでとうございます。愛理様、京之介様」
「明けましておめでとう、詩織ちゃん」
「明けましておめでとうございます。詩織さん」
玄関からお母さんが出て来た。
「中に入ってもらったら」
「詩織さん、入りましょう」
「はい」
リビングに通って貰った後、俺は家族に紹介しようと思ったけどお母さんから
「詩織ちゃん、久しぶりね」
「はい、お久し振りです。いつもながらお綺麗ですね」
「まあ、いつの間にそんなにお口が上手くなったの?」
「いえ、本当の事です」
「あら、嬉しい事を。少し待ってね。お茶を持って来るわ」
俺が、どういう事だと思っているとお姉ちゃんが
「京之介は知らないわよ。お母さんの踊りの教室の子だから」
「えっ、そんな繋がり有りなの?」
だからお母さん、詩織さんが来ると言って微笑んでいたんだ。
「でもお姉ちゃん、何でそんな事知っているの?」
「不思議ではないわ。私も中学まではその教室に行っていたから」
「ええーっ?だから詩織さんの事知っていたんだ」
「まあ、そういう所ね。詩織ちゃんプライベートで会うのは久しぶりね」
「はい、愛理様」
この人空手の他に舞踊も習っていたとは。驚いたな。
「京之介様、そんなに驚かれる事はございません。これも嗜みの一つです」
俺達がこんな話をしていると
「お待ち同様」
そう言って、お母さんがお盆に人数分の日本茶と和菓子を持って来た。テーブルに置くと
「今日は、京之介と初詣に行ってくれるのね」
「はい」
「初詣終わったら、また寄ってね。お話もしたいし」
「はい、ありがとうございます」
俺と詩織さんは日本茶を飲んでから初詣に出かけた。歩いて十分位の所に鎌倉時代から続いている由緒ある神社がある。毎年来ている所だ。
詩織さんが半歩下がって歩こうとしているので
「詩織さん、俺と一緒に歩く時は並んで歩きましょう。詩織さんの後背は俺が守りますよ」
顔を少し赤くしながら
「ありがとうございます。京之介様に私の様な者の後背を守って頂けるなんてとても嬉しいです」
「それから俺の名前を様付けて呼ぶの止めて貰えませんか。京之介で良いですよ」
「そのような事は出来ません」
「何故ですか?」
「私の気持ちです。お慕いする方への気持ちです」
「そうですか」
しかし、俺のどこが良いんだよ。
やがて神社の近くに来たんだけど参道に入る前から並んでいる。いつもの事だけど。
「並んでいますね」
「はい」
最後尾について並んでいるとふと気になる事を思いついた。
「そう言えば、詩織さんの家ってどちらなんですか。学校は一緒なのに今日は車で来ましたよね?」
「学校を基点にしてV字の端の様な位置になるんです。車だと三角形の底辺だけを走ればいい様な形になるので、ここからはとても近いのです。前沢という町です」
「そういう事ですか」
あの辺は高級住宅街だ。なるほど、確かに車なら三十分もかからない。
そんな話をしている内に参道に入った。まだ人の列は続いている。会話が無い中で歩いていると境内に入る手前に
交代で手を洗ってから境内に入り本堂の前で賽銭箱にお賽銭を入れた後、二拍二礼一拍して横にずれた。
「京之介様、おみくじをしませんか?」
昨日引いたけど、まあいいか。
「そうしましょう」
例によって六角形の箱を良く振って番号の掛かれた棒を取出してその番号の引出しからおみくじを引く。
おみくじを開いて見ると、えっ?昨日は大吉だったのに今日は中吉だ。どうなってんだ?
「京之介様、いかが?」
「中吉です」
「ふふっ、私もです。同じですね」
恋愛は結婚を視野に入れた付き合いをと書いてある。うん?昨日と反対の様な事書いてあるぞ。
詩織さんがおみくじを見て微笑んでいる。
「嬉しそうですね。いい事が書いて有ったんですか?」
「はい♡」
詩織さんの目にハートマークが見えた様な?
家までの帰り道、詩織さんが
「京之介様」
「なに?」
「その…」
「もし叶うなら、明日お会い出来ませんか?」
「それは良いですけど…」
明日は予定入っていないし良いんだけど、まだ知り合ってそんなに時間経っていないのにいいのかな?
「京之介様をもっと知りたいのです。お願いします」
「分かりました」
その後は、特に話もしないで家まで戻って来た。また家に上がって貰ってリビングに入るとお姉ちゃんが入って来た。
「詩織ちゃん、どうだった?」
「はい、お会いして下さると言って頂きました」
「そう、良かったわね」
「はい」
うん?どういう事だ?
この日はその後、お姉ちゃん、お母さんを交えて二時間位、談笑した。俺はあまり話さなかったが、詩織さんは俺が想像していたより堅苦しくない人の様だ。話し方はそのままだったけど。
次の日は、俺が詩織さんの家のある駅まで行く事になった。初めは彼女がここの駅まで来ると言っていたので流石にそれをさせる訳にはいかず、こうなった。
午前十時十分前に着くと詩織さんはもう居た。コートの下に白いフワフワなセーターに膝下の茶色のスカート。それに黒色のブーツを履いている。
「すみません。遅くなって」
「そんな事は無いです。まだ十分前です。このまま電車に乗っても良いのですけど、歩いても十分位で着くので歩きましょう」
「何処へ行くんですか?」
「女神像がある町です。あそこは素敵な喫茶店があります。そこでお話でもしようかと思いまして」
「いいですね。行きましょうか」
その町なら俺も知っている。
ゆっくり歩いても十五分位で着いた。パンケーキで有名なお店だ。店員さんが水の入ったグラスとペーパーのおしぼり、それにメニューを置いて行った。
詩織さんがメニューを俺に見せながら
「何か食べられます?」
「せっかくだから、ベーコンエッグのパンケーキと紅茶のセットで」
「私は、フルーツ添えのパンケーキと紅茶のセットにします」
それからは、お互いのの幼い時の話や中学時代までの話をした。
不思議だ。話をする事になんの抵抗もない。奈央子さんは何故かこうはいかない。多分あの人は常に俺に要求してくるものを持っているから俺が壁を作ってしまっているのだろうか。
あっという間に二時間も経ってしまった。お店に悪いと思い、外に出ると結構寒い。
「京之介さん、寒いですね。私の家に来られますか?」
「でも、流石にそれは…」
「何も遠慮しなくて構いません。昨日は私が京之介様のお家に上がらせて貰っています」
「確かに。ではそうしますか」
また、歩いて彼女の家に行った。ここからでも電車で行くとV字型に戻らないといけないから時間が掛かる。
彼女の家は十分も歩かないで着いた。とても大きな家だ。流石前沢だ。大きな鉄扉の様な門を彼女が手に持っているスイッチで横にスライドさせた。そして二メートル位隔てて玄関のドアが有った。凄い厳重だな。
家に上がると誰も居なかった。
「私の部屋は二階の奥です」
二階に上がって三つある部屋の一番の奥の部屋のドアを開けると女の子特有の甘い香りが流れ出して来た。
「どうぞ、お入りください」
綺麗に整えられた大きなベッドに机、本棚、クローゼットが三本ある。大きな部屋だ。窓が有ったので外を見て見ると裏庭が有った。なんて広さだ。
「ふふっ、京之介様のご実家より狭いです」
「いや、あの家は古くからあったので」
「それでも我が家の十倍以上でしょう」
「まあ、お爺ちゃん、お婆ちゃんの時代は農家もやっていたようですから」
「あっ、すみません。そこにお座りください」
ソファが対になっている。間にローテーブルがある。彼女はフワフワしたセーターを脱ぐと下には長袖のブラウスを着ていた。こうして見ると結構胸が大きい。
「ふふっ、何処を見ているんですか?」
「いえ…」
「良いですよ。京之介様なら」
「えっ?」
「ふふっ、冗談です。でもその気が有ればいつでも言って下さい。私は構いませんから」
ちょっと待て、どう言う意味なんだ?
流石にその話は避けて喫茶店の続きを話した。そして午後三時になって帰る事にした。
彼女が送ると言ったけど、ここから駅までは近い。断ると私が行きたいのですという事で駅まで送って貰った。ほんの三分だ。
「京之介様、また学校で。あと…先程言った事。本当ですから」
「えっ?」
「ふふっ、ではこれで」
「あっ、はい」
俺は意味も分からずに改札に入った。
想像以上に素敵な方。あんな子に取られる訳にはいかないわ。
――――
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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