第41話 三学期は忙しい


 俺にとって今年のお正月は色々と賑やかだったが、冬休みも終った一月八日、学校に向かった。今日は始業式だ。でも空は曇り空で結構寒い。


 いつもの様に学校の最寄り駅を降りて学校に向かっていると後ろから

「京、あけおめ」

「おう、智。あけおめ」

「早瀬君、明けましておめでとうございます」

「明けましておめでとうございます。碧海さん」


「京、休みは何していたんだ?」

「冬休みの宿題と初詣」

「それだけ?」

「それ以外あるのか。智は何してた?」

「京と同じプラス弥生ちゃんとデート」

「それは、それは羨ましい事で」

「京も早く見つければいいんだよ」


 聞かなきゃよかった。しかし、本当の事は言えないな。智には教えておきたいのだが、詩織さんとの事が不透明過ぎる。


 奈央子さんと詩織さんと二股で付き合っているなんて誤解された日には俺の居場所がなくなる。



 学校について昇降口で履き替えてから教室に向かった。早速夏目さんが近寄って来ると隣に座る古城さんも

「「早瀬君、明けましておめでとう、今年も宜しくね」」

「明けましておめでとう古城さん、夏目さん。こちらこそ宜しく」


 §古城

 久しぶりに見る早瀬君は、やっぱり爽やかイケメンだ。有栖川さんとの事もあるけど、この人ともっと深い関係になれないかな。


 §夏目

 早瀬君、冬休みの間、会えなかったから新鮮。今年はもっとこの人と親密な関係になるんだ。その為にも成績順位表に載らないと。



 予鈴が鳴って担任の藤堂先生が大きな体を揺らしながら教室に入って来た。

「おはよう皆、早速だが始業式を体育館で行う。廊下に出てくれ」




 始業式が終わった後は、午前中二限の授業が有って下校となった。俺は生徒会室に行くと半分位の役員が集まっていた。詩織さんは当然来ている。俺の顔を見ると少しニコッとして


「早瀬君。あけましておめでとうございます。今年も宜しくね」

「小手川生徒会長、今年も宜しくお願いします」

 いかにも今年初めて顔を合わせた風に言う所は流石だ。周りの人もなんの疑いも無く、目の前のPCを触っている。


 やがて皆が揃うと詩織さんが

「皆さん、明けましておめでとうございます。早速ですが、三学期は各部からの予算申請の時期でもあります。


 各部代表から予算申請書が生徒会に持ち込まれますが、部毎に厳しくチェックして少しでも予算を抑える様にしましょう。


 各部対応は庶務の二人にお願いします。申請遅れは部予算が出ないとはっきりと言って構いません。


 また、昨年から始めている役員毎の実行計画についても二月中には仕上げる様にしましょう」


「「「「「分かりました」」」」」」



 詩織さんの話が終わると直ぐにドアがノックされて、運動部や文化部の部代表の部長やマネージャが、厚い予算申請書を持って入って来た。


「予算申請は、そこのトレイに置いて下さい」

 俺が言うとドサドサと置かれ予算申請書が積み上げられて行く。この学校は運動部が男女合わせて十三部。文化部が五部、それに図書と園芸部だ。


 これらの部と個別に折衝しないといけないから結構大変だ。今日は、半分近い部が予算申請書を持って来た。締め切りは来週いっぱいだ。そして二月中に全部活の予算を確定しないといけない。


 俺ともう一人の庶務の子が申請書に記入漏れがないか調べているとあっという間に時間が過ぎ、もう午後五時を過ぎてしまった。この時間、外は真っ暗だ。役員の人が徐々に帰って行く。


 もう一人の庶務の子も帰って、俺と詩織さんと二人きりになった。

「京之介様、もう終わりにしましょうか?」

「後、一部だけ残っているので、それが終わってから…。あっ、そうか。俺が帰らないと詩織さん帰れないんですよね。終わりにしますか」

「いえ、私は構いません。京之介様が終わる迄待ちます。その代わり…」

「送って行きますよ」

「はい♡」

 うん?詩織さんの瞳がハートマークの様になった気がする。


 午後六時少し前に今日の提出分を見終わった。記入漏れと計算違いが三部有った。女子バスケと女子バレーそれに女子テニスだ。何で女子の運動部だけなんだ?


 俺が片付け終わり、バッグを持つと詩織さんも席を立った。彼女が生徒会室のドアの鍵を施錠すると

「京之介様、帰りましょう」

「はい」


 校舎を出るともう大分暗い。勿論街路灯とか道沿いのお店の明りが付いているので真っ暗ではないので歩くには問題ない。


 駅の改札に入っていつも乗る電車と反対方向に一駅乗って更に乗り換えて女神像のある町の駅で乗り換えて一つ目だ。しかし、駅を降りると住宅街だけに直ぐに街路灯だけになった。


 日本は治安がいいので心配は無いと思うが、流石にこの状態を見ると一抹の不安を感じる。詩織さんは武道を小さい頃から身に付けているので問題は起きないと思うけど。


「京之介様、この時期は結構暗いです。出来れば毎日送って頂けませんか?」

「毎日ですか?」

「すみません。無理なお願いでしたね」

「いや、そういう事は無くて…」

「では、お願いします」


 はぁ、完全に乗せられた。この人話の持って行き方が上手いよな。


 お陰で俺が家に帰れたのは午後八時近かった。玄関を上がってダイニングに顔を出してお母さんに挨拶をしてから自分の部屋に入った。着替えていると


「京之介、遅かったわね」

「うん、詩織さんを家まで行くって行ったので」

「そう」

「それでもう暗い時期だから毎日送って欲しいって言われて」

「返事は?」

「断れなかった」

 あの子もやるわね。もうここまでさせているとは。


「仕方なわね。詩織ちゃんを大切にしなさい」

「分かっているけど」

 


 そして食事も終わってお風呂にも入った午後十時近くになってスマホが鳴った。画面を見ると奈央子さんだ。今日は遅いなと思って出ると開口一番

「京之介さん、何度も掛けたのに何で出てくれないんですか?」

「えっ?」

「今日はこれで四回目です。何か有ったのかと心配で堪りませんでした」


 確かに履歴が残っている。俺が気が付かなかったんだ。

「すみません。生徒会の仕事が忙しくなって」

「そうなんですか。今日だけですか?」

「いえ、各部の予算申請と折衝、それに執行許可まで持って行かないといけないので、二月一杯はこんな感じです」


 やはり不安に感じていた事が現実になって来ました。あの人はこれを利用して京之介さんに近付こうとしている。


「あの、私もお手伝い出来ないでしょうか?」

「流石にそれは無理だと思います」

「そうですか。あの、この時間なら必ず出れるんですよね?」

「はい、大丈夫です」

「生徒会の仕事って休日は無いですよね」

「多分」


「京之介さん、元旦に会って以来なんです。今度の日曜日は必ず会って下さい」

「それは大丈夫です」

「分かりました。楽しみしています」



 私は京之介さんとの通話を切った後、不安が思い切り心の中に広がった。もしかしたら京之介さんを取られてしまうのではないかという不安が。

 何とかしないといけません。でも体の関係を求めるのは逆効果。どうすれば。


―――― 

次回をお楽しみに。

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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