第42話 庶務は大変です
生徒会の仕事は思ったより大変だ。俺達庶務が記入漏れや直ぐに見てわかる計算違いを部代表に伝えて修正させている。原則、生徒会室に来て貰うのだけど、都合で部室に行く時もある。
ただ初めて行った時…。女子運動部の部室というのは俺にとってはとても厳しい環境だ。何よりも女子の匂いとそれに汗が混じった匂いが凄い。そこに顔を付ける様に予算申請書の説明をしてくる。
息がかかりそうなくらい近付くのでこちらが離れると
「声が聞こえないでしょ」
なんて言ってくる。十分に聞こえているんですけど。
流石に厳しいので小手川生徒会長に
「俺一人だと聞き洩らす事が有るかもしれないので全て生徒会室に来る様にお願いできませんか」
本当の事なんか絶対に言えない。俺をジッと見た後、
「そうしましょう。各部にとって重要な予算申請ですから」
という訳でそれ以来、生徒会室に来て貰う事にした。助かった。
記入漏れや計算間違いが無くなった後は、申請項目を一項目毎チェックして数量を減らせないかとか、項目そのものを消せないかとか、今の道具をもっと使えないかとか、生徒会と部代表のが折衝を行う。
それが、また大変で女子部活は部代表が当然女子な訳で、生徒会室に来て貰って俺と書記と生徒会長と三人で対応するのだけど、部代表のお願いモードが凄くて、
これ通さないと部が成り立たない。とか
これ通らないと私、家に帰れない。とか
これが通らないと部を止めないといけない。とか
どう見ても眉唾にしか思えない直訴もある。更に書記と生徒会長の都合で俺しかいない時は、
ここ熱いわねぇとか言っていきなり上着を脱ぎ始めて、見たんだからこの申請通してよとか、ほんと信じられない。
そんな直訴?交渉?折衝?を乗り気り予算項目が確定すると会計が予算計上して書記が全体確認をする。これで一つの部だ。これを全部にやるのだから大変だ。
当然、毎日遅くなる。偶に土曜日に学校に出なくてはいけない時もある。流石に稽古に行くから来れないとは言えない。
毎日生徒会の作業が終わった後は詩織さんを家まで送って行く。二月になると段々陽も長くなって来るけど、俺達が帰るのはしっかりと夜になっているので仕方ない。
何故か、寒いという理由で手を繋ぐ事もされてしまった。今度手袋買ってあげようなんて思っていると
「京之介様、無駄使いはしないで下さい。私はどんな手袋よりもこちらの方が暖かいのです」
なんて言って来た。
奈央子さんに庶務の忙しさを言うと何故か、とても不機嫌になってやたらと俺に体を付けて来る。こうすると心が落ち着くと言っている。俺は恥ずかしいけど。
二月末になってやっと全部活の予算も確定し、各部に報告して終わったが、直ぐに三月がやって来る。
第一週が学年末考査、そしてその週の土曜日が卒業式だ。今年に入ってから怒涛の様に月日が流れた感じがする。
お姉ちゃん達三年生はこの考査は無い。お姉ちゃんの大学も推薦が決まっているのでゆっくりしているのかと思ったら、やっぱり部屋で難しい本を読んでいた。そんなお姉ちゃんが
「京之介、有栖川さんと詩織ちゃんとの関係はどの位進んだの?」
「奈央子さんとは、毎週会っているけど正月以来進展はない。詩織さんとは随分色々な話をしている。寒いという理由で手も繋いでいるけど暖かくなればこれも止めるからこちらも進展はないかな」
「そう、私の言った事覚えているわよね」
「うん」
「なら良いわ。それと私はもう卒業だけど考査や模試は手を抜いては駄目よ」
「もう抜けなくなったよ。今変に落としたら逆に怪しまれるから」
「それでいいわ」
同じ高校に入れて良かった。有栖川さんとの関係も進んでいない。大学も私と同じ大学に入れる。そうすれば後は大丈夫だろう。
学年末考査はいつもの様に終わった。特に気になる事も無い。ただ、生徒会の仕事のお陰で智と碧海さんの勉強を全然見れなかったのが気になる。
卒業式当日は、当然両親も来た。在校生代表送辞は小手川生徒会長が行った。卒業生代表答辞はお姉ちゃんが行った。
両方とも素晴らしい内容で、多くの卒業生や在校生からすすり泣く声を聞こえた。俺も今日、お姉ちゃんがこの高校を卒業するのだと思うとちょっとぐっと来た。
そして翌週水曜日に学年末考査の結果が中央階段横の掲示板に貼り出された。俺と智それに碧海さんは一緒に登校した後、それを見た。
「京之介は変わらずか」
「まあな。それより智、載ってない」
「京に教えて貰えなかったから最後の詰めが出来なかったよ」
俺の所為か?
「京之介さん、これで来年は一緒のクラスになれますね」
「有栖川さん、そうですね」
-まだ大丈夫そうね。
-うん。まだ二年有るわ。
-うん、うん。
§杉崎
やっぱり有栖川さんとは続いている。私もこれで早瀬君と同じクラスになれる。そうなれば、チャンスはいくらでもある。有栖川さん、簡単にはいかないわよ。
§古城
取敢えず早瀬君と一緒のクラスになれた。有栖川さんの立場にはなれないかも知れないけどもっと近付けるチャンスは出来た。
教室に戻ろうとすると
「早瀬君、お見事ですね」
「あっ、小手川さん」
流石詩織さんだ。自分の立ち位置をわきまえている。ここで変に名前呼びしたら混乱するだけだ。
-やっぱり小手川さん共…。
-手強いわね。
-でもまだ大丈夫そう。
-そうね。
§杉崎
小手川さんと早瀬君が近付いた。なんで?生徒会の所為。有栖川さんと小手川さん、いずれにしろ不味いわね。
§古城
まさか早瀬君、小手川さん共?
好きな事を言っている女子達を無視して俺と智それに弥生ちゃんはクラスに戻った。隣に座る古城さんが微妙な顔して俺を見ている。どうしたんだ?
右隣りに座る智が机の上でぐたっとしている。
「智、どうした?」
「ああ、京とのクラスも後二週間も無いと思うとな」
「そんな事無いさ。スマホで連絡くれればいつでも会えるし、学校だってクラスが違うだけなんだから」
「クラス違うの大きい」
そう言って、またぐたっとなってしまった。俺も智と離れるのは嫌だがこればかりは仕方ない。
明日から終業式までは午前授業だ。生徒会もそんなに忙しくない筈。もう直ぐ春休み。自分の時間が取れそうだな。…だと良いんだけど?
――――
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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