第43話 新学期は最初から賑やかです


この話から第三パートが始まります。


―――――


 三月二十六日から春休みが始まった。二月は稽古を休む事もあったので、師範代に言って春休み中の金曜日二回は稽古に出して貰う事にした。だから土曜日も合わせると四回は稽古に行く事が出来る。稽古は落ち着いて気が集中出来るからいい。


 でも春休みは宿題も無ければ登校日も無い。当然奈央子さんは終業式の夜、スマホに掛けて来て

『京之介さん、春休みは毎日会いたいです。一月、二月それに三月初めまでは毎日のお話も時間短かったですし、その分穴埋めしたいです』


 そんな事無かったような気がするが?でも俺が稽古の事を言うと

『では金、土以外の日は全部会いたいです』


 俺を好いてくれるのは良いが、ほんと参ったな。適切な距離感が一番いいんだけど。

『奈央子さん、会いたいと言ってくれるは嬉しいですが、自分の時間も持ちたいんです。だから日曜日と火曜日にしませんか?』

『もっと会いたいのに』


 何とかなだめて日曜日と火曜日にする事が出来た。そして次の水曜日、春休みの開始の日、のんびりしているとスマホが鳴った。画面を見ると詩織さんだ。

『京之介様、詩織です』

『はい』

『明日、買い物に行きたいのですけど、一緒に行って頂けませんか?』

『……………』

 うーん、詩織さんとの仲はあくまで生徒会の関係だけ。好いてくれている事は本人から聞いているけど、俺は奈央子さんとの関係を尊重したい。しかし困ったなぁ。詩織さんの事は無下に出来ないし。仕方ないかあ。


『あの、駄目ですか?』

『良いですよ。何処で何時に?』


 こんな感じで、たった二週間されど二週間の俺の自由時間だったはずの静かに過ごしたかった春休みは消滅。これからの事思うと気が重い。




 そして四月八日。いよいよ二年生だ。伸びた身長に合せて新しく買った制服と二年生を示す新しいネクタイを付け、バッグには新しい上履きを入れて学校に向かった。


 学校の最寄り駅を降りて改札を抜け学校に向かっていると智と弥生ちゃんが例によって後ろから近づいて来て


「おはよう、京」

「おはようございます。早瀬さん」

「おはよう。智、碧海さん」

「今日で最後だと思うと寂しいよ」

「いやいや、登校は一緒に出来るだろう」

「ちょっと気分に浸っただけだ」


 学校に着いて昇降口で新しい上履きに履き替えて中央階段横の掲示板に貼ってあるクラス分け表を見ると


「あれ、俺、京と一緒の2Aだ。でも弥生ちゃんが2B。なんでー?」

「早瀬君に学年末考査の対策教えて貰えなかったから私と智君の学力差が出たんだよ」

「俺の所為?」

「うん」

 碧海さんがショックで沈んでしまった。でも俺の所為といわれてもなぁ。


 2Aの他の生徒の名前は見ないままに二階の2Aの教室に行く。碧海さんは隣の2Bだ。智と碧海さんが寂しそうに手を振っている。


 智と二人で教室の中に入るとなんと古城さん、杉崎さん、夏目さん、そして有栖川さんがいた。

「京、一年の時より大変だな」

「勘弁してほしいよ」


 取敢えず出席番号順に席に座って待っていると古城さん、杉崎さん、夏目さん、有栖川さんが俺の方を見てニコニコしている。三人に有栖川さんが変に反応しなければいいのだけど。あの人結構な焼餅焼きだからなぁ。



 予鈴が鳴ってしばらくすると教室の前のドアが開いて先生が入って来た。

「「「「「「「「おーっ!」」」」」」」」


 男子の反応が凄い。それもそのはずだ。赤い縁の眼鏡を掛けて、グラドル並みの体を白いスーツに包んで入って来たのは、桃尻塔子ももじりとうこ先生。通称桃ちゃん先生だ。小動物系の可愛い顔している。


「皆さん、私が一年間このクラスを担当する事になりました桃尻塔子です。自己紹介は後にします。始業式が始まるので廊下に出て整列して下さい」


 

 体育館で校長先生のお話や生徒指導の先生からのお話が有った後、教室に戻って来ると少しして桃ちゃん先生が教室に入って来た。箱を持っている。


「改めて自己紹介します。私の名前は桃尻塔子です。これから一年間君達のクラスを担当します。名前はこう書きます」


 黒板側に向いて自分の名前を書いた後、

「では、席替えをしましょう。この箱の中に席番号が書いてあります。廊下側の前の人から順に引いて行って下さい」


 指名された生徒が立って箱の中からカードを一枚取る。有栖川さんは直ぐに引いた。そして智が引いて、俺の順番になった。


 前に出て箱の中から一枚引いて直ぐに見ると何と窓側から二列目一番後ろだ。まずまずだ。


「はい、全員引きましたね。それでは移動して下さい」


 皆がバッグを持って一斉に動き出す。俺は窓から二列目の一番後ろに座ると有栖川さんが寄って来た。そして俺の前に座るとニコッとして

「早瀬君、宜しくね」


 そして左側には古城さん。

「ふふっ、やっぱり早瀬君とは縁があるのね。嬉しいわ」


 智は、俺の右斜め前だ。

「京、近くて良かったぜ」

「ああ、俺もだよ」


 そして智の右隣りが夏目さんだ。

「早瀬君、一年間宜しくね」


 杉崎さんは智の前。でも俺の傍に来て

「早瀬君、まあまあ近くだわね。宜しくね」



 §有栖川

 これはなんて事でしょう。京之介さんを狙っている人達が彼の周りに一杯いる。これは早々に早く私達の関係を明らかにしないといけません。


「皆さん、席に着きましたね。明日は入学式、明後日明々後日はオリエンテーションです。皆さんは二年生として一年生に模範となる行動を示し優しく接して下さい。以上です」



 そして翌日は入学式があり、式次第に沿って厳かに行われた。そして翌日、いつもの様に登校して教室に入ると何人かの生徒が騒いでいる。


-なあ、今日転校生が来るだって。

-ああ、俺も聞いた。凄い美人らしいぞ。

-楽しみだな。

-でも俺達のクラスとは限らないだろう。

-それはそうだが。


 この学校のセキュリティ大丈夫かな?


 やがて予鈴が鳴って担任の桃ちゃん先生が入って来た。ドアは開けたままだ。


「皆さん、今日このクラスに転校生が入って来ます。勅使河原てしがわらさん入って来なさい」


「「「「「「「「おーっ!」」」」」」」」


 男子生徒の反応が凄い。確かに高身長の凄い美人だ。でもどこかで見た様な?


「皆さん、初めまして。今日からこのクラスで皆さんと一緒に勉強させて頂きます勅使河原紫苑てしがわらしおんです。前の学校は国立お水の茶女子大学付属高校です。故有ってこの学校、このクラスに転校してきました」


-すげえ。とんでもない進学上位ランク校だぞ。

-なんで、この学校に?

-でも凄い美人だな。

-ああ。


 確かに肩までの艶やかな髪の毛、大きな目にスッとした鼻立ち。綺麗な顔立ちをしている。スタイルもいい。有栖川さんに引けを取らない。


「皆さん、勅使河原さんは色々分からない所もあると思うので色々教えてあげて下さい。座る場所はあそこの空いている席です。男の子早瀬君の隣です」

 先生が、俺の右隣りの席を指さした。そう言えば何でこの席だけ空いていたんだ?


 勅使河原さんは、真直ぐ俺の方を見ながら歩いて来るといきなり俺の前に来てお辞儀をした。そして

「京之介様、お久し振りです。紫苑です。あれから随分探しました。そしてやっと見つけました。もう離さないですよ」


「「「「「「「「「えーっ!」」」」」」」」


 クラス全員が驚いている。



 §有栖川

 国立お水の茶女子大学付属高校。悦ちゃんと同じ学校。悦ちゃんは言っていた。京之介さんはあの学校でも人気があると。でもこの人は別の事を言った。お久し振りですと。そしてもう離さないですと。これは緊急案件です。


「あの、勅使河原さんって?」

「ふふっ、京之介様、直ぐに思い出します」


「あら、勅使河原さんは早瀬君を知っていたのね。では早瀬君、勅使河原さんの学校の案内は君に任します。皆さん、今日から通常授業です。身を引き締めて受ける様に」

 まったくちょっと面倒な生徒が入って来たわよね。教頭から説明を受けた時、気にはなっていたんだけど、まさか早瀬君の知合いとは。


 そして桃ちゃん先生が出て行くと少しして一限目の授業の先生が入って来た。


―――― 

次回をお楽しみに。

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る